2022.4.14 08:01/ Jun
仕事柄、たくさんの「振り返りシート」を目にします。学生の方の振り返りも、社会人の皆さんの振り返りも、管理職の皆さんのものも・・・。たぶん、僕ほど、多種多様な「振り返り」を目にしているひとも、そう多くないのではないでしょうか。
振り返りでは、その期間(過去)に起こった出来事を書き、それを自己がいかに認識し、何を考えたのかを書きます。加えて、何をこれから為すのかを考えるのが、振り返りのもっとも重要なところです。
別の言葉でいえば「過去ー現在ー未来」という時間軸における「自己の変容(ないしは変化の可能性)」を解像度高く描くこということです。最初のうちは慣れないかもしれませが、しっかり考えれば、次第に習慣化していきます。
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しかし、残念ながら、多くのひとびとは「振り返り」が苦手です。
昨今の教育現場では、これだけ「振り返り」「リフレクション」と言われているのに、おそらく、「振り返り」も、ちゃんと現場で教えられていないのでしょう。
なかには、「うすい振り返り」ともうしましょうか。「出がらし4番茶」のような、ほとんど水のような振り返りも、目にすることがあります。「振り返り」を誤解して、振り返っているケースも少なくありません。
まず、一番、起こるのは
振り返りを「箇条書き・出来事羅列」で終えるケース
です(泣)。
・あんな出来事Aありました
・こんな出来事Bありました
・そんな出来事Cありました
この出来事・羅列、ならべただけが、振り返りです(泣)。
このケースは、特に、ビジネスコミュニケーションにおいて
箇条書きにせい!
要点を延べよ!
ダラダラしゃべるな!
と先輩方から指導されているビジネスパーソンに、とても多いと思います。ここに欠けているのは、「出来事同士がどのような関連にあったのか」ということと「あなた自身が、出来事をどのように意識化・認識したのか」ということです。
といいましょうか・・・
・あんな出来事Aありました
・こんな出来事Bありました
・そんな出来事Cありました
という情報が必要ならば、その場で「カメラ」を回すか、ZOOMで録画しておけばいいのです。それがもっとも「客観的な記録」になります。
そうでははく、今ほしいのは「客観的な情報」ではありません。むしろ「出来事をいかに認識して、何を考えたのか」という「主観」こそが重要になります。
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かくして、わたしたちは「振り返り」にまつわる「次の命題」に至ることができます。
それは、
振り返りには「あなた」が必要である
ということです。
他人ではない。社会の誰々さんではない。
世の中が・・・すべし、とかいう押しつけがましい話でもない。
他ならぬ、あなた自身が「出来事の渦中」において、何を知覚し、何を考えたのか、これからどうしたいのかを考えなければ、「振り返り」にはなりません。
振り返りには、こうした一連の「わたしの物語」が含まれていなくてはなりません。
さらに一歩踏み込むとすると・・・最後の命題に至ります。
それは
「けんちゃんの絵日記」のような振り返りは、効果が薄い
ということです。
ここで「けんちゃんの絵日記」とは
・今日は味噌汁飲みました、おいしかったです!
・今日は友達と遊びました、楽しかったです!
・今日は運動会で2位でした、悔しかったです!
のような「出来事ー紋切り型の感情表現」がワンセットになった、小学生が書くような文章です。「おいしかった」「たのしかった」「くやしかった」・・・いえいえ、それも「間違い」ではないのですが、そこから一歩、踏み出して、解像度をあげて、どのような感情をおぼえ、どのような思考をたどったのかを思い出すことが、振り返りの効果を出すコツです。
今日は業務で・・・・なことが起こった。
その渦中のなかで、自分は、何を感じ、何を思っていたのか。
どういう感情を覚えて、どんなジレンマにあったのか。
そして、そのときにどんな行動をしたのか・・・。
これから何をしたいと願うのか。
必要ならば、たとえ、メタファなどを使ってもいいかもしれません。うれしかった、といっても、どんなうれしさなのか。かなしいといっても、何に悲しみを覚えたのか。感情にもう一歩、アクセスすることが重要です。
とにかく重要なことは「解像度をあげること」です。紙上でもう一度出来事を再体験できるくらいに解像度を高く描ければ、よい振り返りになります。
イメージでいえば・・・
将来の自分が、この文章を読んだとしても「脳裏に同じイメージが浮かぶ」ように書くことが重要です。
俗によくいいますが、
イメージできないものは、マネージできないのです
つまり
イメージできないものは、将来、ミスを繰り返す
ということです。
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さらにさらに、もう一歩踏み込むとすると・・・もし、万が一、皆さんが、人材開発・組織開発の仕事をなさるのならば、自分の「脳裏」だけでは不足です。
将来、他者に振り返りを求める立場になる皆さんは、
他者が、自分の振り返りの文章を読んだとしても「他者の脳裏に同じイメージが浮かぶ」ように書けること、表現できること
が極めて重要です。
結局、人材開発・組織開発の仕事とは、他者に受け取ってもらい、他者に理解してもらい、変わりたいと考える他者の手助けをする仕事です。その仕事は、どこまでいっても「相手本位」なのです。
相手の頭のなかに「自分が受け取ってもらいたいイメージ」を描けないひとは、きっと、人材開発・組織開発をうまく行うことは難しい、とわたしは思います。
そのためには、トレーニングとして、せめて「自己を自己の脳裏に再現できる」ようになることだと思います。
日々の振り返りが、そのトレーニングになります。
たかが振り返り、されど振り返りなのです。
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今日は振り返りについて書きました。
あなたの周りには「出来事羅列・箇条書きの、わたしが含まれない振り返り」があふれていませんか?
そもそも
振り返りは、きちんと現場で教えられていますか?
そして人生はつづく
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レジリエンス(困難突破力)とウェルビーイング(幸福感)を高める「内省力」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000059483.html
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自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
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https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
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