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2022.4.4 08:26/ Jun

グループの対話を促すとは「静かな湖面」に「波紋」をつくることである!?

 グループの対話を促すとは、「静かな湖面」に「波紋」をつくることである!?
     
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 立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース(通称:ひとづくり・そしきづくりの大学院:LDCコース)では、人材開発や組織開発のプロフェッショナルを養成するべく、必要単位のうち7割程度を、「ひと」と「組織」関連の科目にあてております。必修中心・少数精鋭・プロジェクト中心の教育方針で、確実に、2年間で、人材開発や組織開発を実践できる人材を育てようとしているのです。
     
   
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース
https://ldc.rikkyo.ac.jp/ 
  
 LDCコースには、正規の科目以外にも、特別講義がございます。
 そのひとつが、組織開発のコンサルタント、松本加奈子さんに実践いただいている「グループプロセス入門」です。松本さんにはお忙しいところ、ご登壇いただき、心より感謝いたします。今年も、昨年度につづき、素晴らしい気づきの機会をいただきました。ありがとうございました。
  
松本加奈子さん
https://oqdl.jimdofree.com/
  
 松本さんの集中講義では、
  
1.コンサルタントが
   
2.クライアントのグループで行われている対話に対して
  
3.効果的な介入(働きかけ)を行うことで
   
4.グループにおける対話を促進し
   
5.各メンバーに気づきをもたらすこと
  
 を実践することを目的としています。
  
 人材開発・組織開発のプロフェッショナルになるためには、いわゆる「科学知」の習得だけでは、まったく完全ではありません。むしろ「臨床知」とよばれるような実践的知識をいかに「体感」し、会得していくかも重要になります。
  
「臨床」といっても、「経営学の知見を現場に適応する」とか、そういった類いの「大学と企業のあいだに導管」をつくりたいわけではまったくありません。そうではなく、実践者が、実践現場での実践を通して気づく、科学ではとらえきれない「技」をいかに習得するかが、ポイントだと思っています。
  
「経営学にもとづく科学知」と「経験を通した臨床知」の獲得をめざした、アクションリサーチ型の大学院カリキュラムこそ、LDCの最大の特徴です。
  
 たぶん「日本で唯一」なはずです。
(個人的には、教えること、学ぶことの実践家養成に関するカリキュラムは、こうしたアクションリサーチがまったく含まれていない、ということの方が、想定できません)
     
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 ところで、臨床知の獲得というものは「実践すること」や「経験すること」も重要なのですが、それをいかに「言葉」で伝えるかが非常に難しいものです。もちろん、「自ら実践して、振り返って、フィードバックをもらうこと」にかなうものはありません。それが中心です。しかし、それはコストもかかります。時には、それが十分確保できないときもある。
   
 わたしは、最近「メタファの効能」というものを考えています。
 言葉の力で、とりわけメタファやイメージの力で、なんとか、それを伝えられないものかと考えているのです。
   
 端的に考えていることを表明すれば、臨床知や実践的知識を伝えるためには、実践者が獲得した経験を「メタファ」を用いて、イメージさせることが、すこしは役立つのではないか、ということです。
 もちろん、まったく「完全」というわけではありません。我が言語能力の狭量さを「呪いたい」くらいです。しかし、この曰く言いがたいものを、イメージさせるために、四苦八苦しています。
    
 こないだの授業では、松本さんの素晴らしい授業構成を観察させていただきながら、「グループでの対話に働きかけていくとき」のイメージを考えていました。
    
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 わたしが考えたメタファは、
    
 グループでの対話に「外部から介入」するときは「静かな湖面の前にたち、そこに、石を投げ、波紋をつくるイメージをもつ」
      

      
 とよいのではないか、ということです。
(ちなみに、フリーイラストから借用させていただいたので、このイメージは「石蹴り」になってしまいました。が、ほんとうは、わたしが抱いているイメージは、そうじゃないんですよね。静かな湖面に、ひとりひとりが、たっている。ときに、自分の考えを表明する。そのときに、湖面に小石をなげる。静かな波紋が広がる。しかし、ときに、誰も小石を投げないときがでてきたり、波紋が重なり、カオスになったりする。そういうとき、ファシリテータがかかわる。つまり、ファシリテータ自身も対話に介入する=働きかける。それがファシリテータのつくる波紋です)。
            
 グループに「気づき」をもたらすためには、湖面に「波紋」が必要なときもあります。しかし「波紋」は大きくなりすぎれば、カオスをもたらしてしまいます。波紋が小さすぎれば、どこかで消えてしまいます。
    
 自分がグループに対して声をかけていくときに大切なのは、1)介入の大きさ(どのくらいの大きさの石をなげかけるのか)、2)影響のインパクト(どのくらいの波紋をつくるのか)、3)タイミング(いつ石を投げるのか)です。
     
1.介入の大きさ
 あなたが湖に投げるのは「漬物石」ですか?
 それとも「小石」ですか?どの方向に石をなげるのか? 
     
2.影響のインパクト
 真上に石を投げて湖面にたたきつけるのか、それとも石蹴りをするのか?
 湖面の波紋は、どのくらいの大きさを予想するのか?
      
3.タイミング
 湖面は安定しているか?
 誰かが、石を投げたあと、どの程度、時間をあけるのか。
 湖面がざわついてるときに、次を投げても、波紋が重なり、みんな混乱するだけです
   
 いかがでしょうか。
 少しはイメージを脳裏に思い浮かべられるでしょうか。
 うーん、、、難しい?
    
 もしもっとよいメタファがあったら、ぜひご教示ください。
    
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 今日は「グループでの対話をいかに促すか」という、ちょっとマニアックな話をしました。
    
 今日、見てきたとおり、人材開発・組織開発は「サイエンス」でもあり「アート」でもあります。それはちょうど「科学知」と「臨床知」の交差する場所にあるのです。ま、人工知能やロボットには、簡単には代替できない、と思います(笑)
    
 グループへの介入は「ためらって」はいけません。
 しかし、急いでもいけません。

   
 対話は「無理に促す必要」はありません。
 無駄に「ファシる」必要もありません。

    
 静かな湖面に、皆がたちましょう。
 そこに、健全な「問い」と「安心安全の環境」さえあれば、自然と対話は深まっていくものだと思います。
    
 しかし、時に「波紋」が必要なこともある。勇気をもって、ときに「石」を投げて、波紋をつくること。それがコンサルタント(とりわけ、プロセスに介入するので、プロセスコンサルタントと言います)の役割なのかな、と思います。
   
 そして人生はつづく
    
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ダイヤモンド社が「アンコンシャスバイアス研修」を開発
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自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
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https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
ピアトラストお問い合わせ
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https://www.peer-trust.com/research/2020/
    
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