2022.3.23 08:16/ Jun
研修評価とは、この20年で何一つ「変わること」がなかった「最後の秘境」である
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関根さん、林さん、島村さんなどの心ある仲間とともに、「研修評価の教科書」という本を書いています。現在、この本の最終校正中なのですが、冒頭、こんな文章があります。少し長くなりますが、新刊から引用してみましょう。
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筆者(中原)は人材開発・組織開発の研究者です。この20年間、様々な企業の人材開発や組織開発の取り組みに関わらせていただきながら、細々と研究を続けてきました。
企業の皆さんと議論を重ねながら、新人研修、OJTトレーナー研修、管理職研修、職場改善のためのフィードバック研修やリーダーシップ研修など、数えきれないほどの研修を企画し、実施し、評価してきました。わたしの20年は、企業の皆さんと「実践をともに為すこと」に賭けた時間であったと思います。
この20年を思い起こすと、人材開発の世界にも着実な変化がありました。
思えば、20年前は、「オンライン研修」という言はありませんでした。当初はごく単純なHTMLで書かれたウェブサイトのようなものが、WBT(Web-Based Training:Webを活用した教育訓練)などと呼ばれ、珍しがられていた記憶があります。
その後、2000年台に入ると「eラーニング(e-learning)」という言葉が生まれ、一時は「eラーニングが教育を変える」「eラーニングが人材開発を変える」などというスローガンのもとに、時代の寵児のようにもてはやされました。
2010年代にはいると「Mooc(Massive Open Online Course:大規模公開オンラインコース)」という言葉が喧伝されていた時期もありました。しかし、どれだけデジタルの力が、新たな言葉でラッピングされようとも、人材開発の中心は「対面で行う集合研修」であり、この研修スタイルは20年間ほとんど変わることがありませんでした。
ところが、このコロナ禍で状況が一変します。コロナ禍は「オンライン研修」というものを、否が応でも、人々に強制体験させる機会になりました。一度、オンラインで研修をやってみると、案外、うまくいってしまうものです。様々な研究知見でも、オンライン研修の効果は対面研修とほぼ同等というのが、研究者の合意するところです。
今や、多くの企業が、オンライン研修を取り入れるようになり、対面研修を行う場合も、オンライン研修と組み合わせたハイブリッド研修のような形で行われるなど、研修スタイルは大きく変わりました。人材開発における研修の姿は、こうして20年で激変しました。
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理論にまつわる言葉も、20年前はまだまだ未成熟でした。
例えば、今から考えると信じられないことですが、20年前は「経験学習(Experiential Learning)」という言葉は人口に膾炙していませんでした。当時は「OJT」「研修」「自己啓発」が組織における大人の学習を語る唯一の言葉でした。
「組織のにおける大人の学習」を、より高い解像度で描き出す理論的用語やフレームワークは、わずか20年前には存在してすらいなかったのです。
その状況が一変したのは2000年代にはいってからです。経験学習(experiential learning)に加えて、「職場で人が学ぶこと(職場学習:Workplace Learning)」の理論が発達しました。さらには、ひとびとが組織の内と外を往還しながら学ぶこと、すなわち越境学習の概念が生まれます。
理論の発展とともに、実践も発展しました。経験学習や職場学習の概念の延長上に、1on1など上司・部下ミーティングの取り組みが行われるようになり、企業の人材開発には大きな変化が生まれています。プロボノや兼業、副業など、組織内外を往還するような学習が、越境学習という理論で語られるようになりました。
(中略)
かくして、人材開発の世界は、この20年で激変しました。しかしながら、一方で、20年間、何一つ変わらなかった領域があります。それが本書で取り上げる「研修評価」です。
研修評価という言葉を聞いて、研修の企画・実施に携わったことのある人であれば、誰もが“あの光景”を頭に思い浮かべるのではないでしょうか。そう、研修終了後、1枚のアンケート用紙が配布され、受講生が答えさせられる“あの光景”です。
配布されたアンケート用紙には、「研修の内容には満足しましたか?」といった研修満足度を測るための質問項目が並び、5段階のスケールのひとつに丸をつけ、自由記述欄には研修を受けての感想などを書き込み、事務局に提出します。事務局はアンケート結果を集計し、5点満点で4点以上だったら合格、などと、満足度で研修の良し悪しを測り、上司に報告する…といった具合です。
オンライン研修が多くなってきた今では、アンケート用紙が、オンラインのアンケート画面に置き換わっているとは思いますが、このように研修の直後に、質問紙調査で満足度を問い、研修の良し悪しを測るという評価方法は、20年間、何一つ変わっていません。
研修評価とは、ある意味、手つかずのまま残された「人材開発の最後の領域」であり、人材開発の効果を最大化するために、大きく質を転換しなければならない最大の領域の一つだと言えます。本書は、ニッポンの「研修評価」をアップデートするために生まれました。
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かくして新刊「研修評価の教科書」は、研修評価の理論や知見を紹介しつつ、ニッポンの研修評価をアップデートすることをめざして書かれています。
そのために必要なのは「実現可能な選択肢」です。
すなわち、アカデミックにルーツを持ちつつも、「アカデミックな世界基準で求められる厳密性」に「耽溺せず・囚われず」に、現場で日々日々用いられていく方法が、複数存在していること。それぞれの現場の実践者が目的と狙いたい効果に応じて、数ある「選択肢」のなかから適切な評価手法を選べるようにすることが重要なのです。
本書は、
企業のなかで持続可能で、かつ、実践可能な「評価の選択肢」を提案すること
をめざして、編まれています。
校正作業は、あと少しなのですが、、、なにせ年度末やら新年度準備やらで、やるべきことが多すぎて、なかなか遅々としてすすみません。
しかし、そうも言っていられないので、皆さんに作業工程を公開することで「あとに引けない状況」をつくりだし、自分を鼓舞しようとしています。最後の手段です。これで、もう後にはひけません(笑)しかし、考えてみれば、そうやって、僕は「後に引けない状況」を自らつくり、生きてきました。
人材開発の「最後の秘境」へようこそ!(あっ、言っちゃった・・・まだできてないのに・・・)
秘境へ皆さんをガイドする「遊歩道」は、今整備中です。が、4月には通行可能になると思います。
あと、もう少しです。
突貫工事、頑張ります。
そして人生はつづく
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武蔵野大学・島田徳子先生、ダイヤモンド社の皆さん(広瀬一輝さん、永田正樹さん)との数年にわたる共同研究と、NPO法人日本ブラインドサッカー協会との連携で、スマホで手軽に受検できる「アンコンシャスバイアス測定テスト」と、内製化研修(プレゼンキット)を開発しました!。この問題は、学術的な背景などは、わたしどもが、テスト結果に基づき動画像(ビデオ)で解説させていただきます。ご利用くださいませ! ご自身の組織にもっともフィットしたアンコンシャスバイアス研修をつくることができます。どうぞご利用くださいませ!
ダイヤモンド社が「アンコンシャスバイアス研修」を開発
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000045710.html
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新刊「チームワーキング」がオンライン管理職研修になりました。JMAMさんからのリリースです(共同開発をさせていただいた同社の堀尾さん、ありがとうございました。中原は共著者の田中聡さんと監修をつとめさせていただきました)。どうぞご笑覧ください!
リリースしました!「チームワーキング研修版」
https://www.jmam.co.jp/hrm/training/special/teamworking/
書籍「チームワーキング」おかげさまで「重版」を重ねております。応援いただいた皆様に心より感謝いたします。
https://amzn.to/3esCOrW
すべてのリーダー、管理職にチームを動かすスキルを!
ニッポンのチームをアップデートせよ!
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職場診断ツール&ワークショップ「OD-ATRAS(オーディ・アトラス)」が多くの職場で使われはじめています。サーベイはもとより、それをいかに「フィードバック」するかに焦点をあてたツールです。ワークショップも開発しております。どうぞご笑覧くださいませ!
職場診断ツール&ワークショップ「OD-ATRAS」 (パーソル総合研究所・中原の共同開発)
https://rc.persol-group.co.jp/consulting/survey/service/od-atlas.html
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【好評発売中】1on1のコツをまとめた映像教材を、中原とPHPさんで共同開発しました。上司用、部下用あります。1on1について「同じイメージ」をもつことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス(上司用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
経験を成長につなげる1on1(部下用)
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
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【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます!
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q
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新刊「フィードバック入門:耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術」絶賛発売中、13刷重版出来です!。AMAZON総合13位、1位(マネジメント・人材管理カテゴリー、リーダーシップカテゴリー)を記録!年上の部下、若手のトンガリボーイ、トンガリガール。職場には、多様な人々が集っています。難易度の高い部下育成に悩む管理職向けの新書です。どうぞご笑覧くださいませ。スピンアウト企画にDVD教材「フィードバック入門」、研修、通信教育もあります。こちらもどうぞご笑覧ください。
『フィードバック入門』スピンアウト企画
https://www.php.co.jp/seminar/feedback/
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【泣くな!新米管理職!】
おかげさまで10刷重版出来。「駆け出しマネジャーの成長論」は、「実務担当者」から「新任管理職」への役割移行をいかに進めるかを論じた本です。「脱線」をふせぎ、成果をだすためには「7つの課題」への挑戦が必要であることを解説しています!全国の管理職研修で用いられています。どうぞご笑覧くださいませ!
パーソル総合研究所と中原は、このテキストをもとにした「マネジャーになる研修」を開発しました。種部吉泰さんとディスカッションは、非常に楽しいものでした。このコースについても、どうぞご覧くださいませ!
「マネジャーになる」 研修:プレイヤーからマネジャーへの移行期支援プログラム
https://rc.persol-group.co.jp/seminar/become-a-manager.html
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
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【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約36000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun
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