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2021.9.17 08:28/ Jun

学生・受講生の「刺激になりました症候群」を引き起こしているのは、教員側の「何でもいいから書いときなさい病」ではないか!?

 学生・受講生の「刺激になりました症候群」を引き起こしているのは、教員の「何でもいいから書いときなさい病」ではないか!?
      
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 昨日、わたしは下記のような問いでブログ記事を書きました。
    
あなたの周囲では「刺激になりました症候群」や「ためになりました病」が感染拡大していませんか?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/13350
   
 この記事に対しては、ありがたいことに、予想以上に、様々な反響!? RTなどをいただき、心より感謝いたします。
  
 ま、そのいくつかのコメントは、漫画「ついでにとんちんかん」の間抜作さんの挿絵が懐かしい、といったものでございました(間抜作は、簡単なので、図工2の、わたくしめでも描けます)。
 これも、また微笑ましいことです。おそらく同時代にジャンプを読んでいた方のコメントでしょう。時がたつのは早く、思えば、遠くにきたものです。

 
 
 ところで、授業・ワークショップ・セミナーなどのあとの「1ミクロンくらいの厚さしかない、ペラっペラっの、浅い振り返り」である、
    
 「刺激になりました症候群」
 「ためになりました病」
 「気づきを得ました症候群」
 「学びになりました病」
      
 また、その亜種の
   
 「学ばせていただきました病」
 「目ウロコでした症候群」
   
 は「学習者の問題」でることもまた事実ですが、実は、同時に教員の問題であったりします。具体的には、教員のスキル不足、経験不足、インストラクション不足が、こうした問題を招いているケースが多いものです。自爆、ちゅどーーーーん
      
 自戒をこめて申しますが、学習者がこうした病に罹患してしまう裏側には、教員の側でも課題を抱えているケースが多いのです。すなわち、教員も「病」をともに抱えているのですね。自戒をこめて。
    
 教員が抱える病の典型的ケースは、下記の3点
    
 「振り返りの目的打ち込み不全症候群」
 「何でもいいから書きなさい病」
 「時間不足の尻切れトンボ症候群」
  
 です。
 
 今日は、これを論じてみましょう。
    
  ▼
  
 まずひとつめの「振り返りの目的打ち込み不全症候群」。
    
 自戒をこめて申し上げますが、昨今の教育業界は、「そら、振り返り、やれ振り返り」とはいうものの「振り返りの意義・必要性・目的」をどの程度、学習者に「打ち込めている」でしょうか?
    
 学生などの話を聞いていると、よくこんな学生に出会います。
  
「振り返り、なんで、やるんですかね? 振り返り、嫌いです。毎授業、毎授業、感想かくの、めんどくさい」
  
 要するに「振り返りの目的・意義」が打ち込めておらず、しかしながら、「振り返りブーム」となっているので、毎授業、毎授業、授業のあとに「振り返りという名の、単なる感想」を書くことが求められているのです。そして大量の「振り返り嫌いさん」たちが生まれている。
     
 そもそも「振り返り」とはなんでしょうか?
 それをどのように伝えているでしょうか?
 そして、それは「なぜ」やらなくてはならないものなのでしょうか?
 
 これらをどのように説明なさっていますか?
  
 シャバの多くの物事は、下記の4つが相手に伝わらないと、相手はなかなか動かないものです。
  
 Why do?(なんでやるの?)
 Why now?(なんでこのクソ忙しいのに、いまなの?)
 Why me?(なぜわたしがやんの?)
 What’s merit?(どんなメリットがあるの?)
  
  ・
  ・
  ・
  
 振り返りは、なぜやるのでしょうか?
 デューイがやれっていったから?
 コルブが大事っていったから?
 コルトハーヘンが、重要だって述べたから?
  
 学習者にとって、デューイも、コルブも、コルトハーヘンも、はっきり言って、どうでもいいんです。誰よ、それっ、てかんじ(彼らを軽んじているわけではないです!:誤解なさらずに!)。なぜ、振り返るか、なぜ大事なのかを伝えなければならないのは、教員ひとりひとりの「言葉」です。つまりは、あなたであり、わたしです。自爆ちゅどーーーーーん。
    
  ▼
    
 つぎに教員側が罹患してしまう深刻な病は、「何でもいいから書いときなさい病」です。ひとことでいえば「雑な振り返りインストラクション」ですね。
    
 このケースだと、学習者に、何(what)について、どのよう(how)に振り返るのか、ということを十分伝えられないケースがほとんどです。そのように「雑」にふられると、ふりかえりは、「単なる感想」になります。
  
 こうした症候群を防止するやり方には、様々なものがありますが、ワークシートなどで「問い」を小さく区切って、いくことも、また一計です。
      
1.今日のセミナーの「何の情報(What1)」から
  
2.あなた自身は「何(What2)」を考えて
  
3.それが自分自身にとっては「何の意味があったのか(What3)」
  
4.これから「何」を考え、何をしていきたいのか(What4)」
    
 を細かく刻んで考えてもらうということです。ただし、これを毎回やると、マンネリ化して、もれなく嫌われます。
  
 だとすれば、振り返りは、焦点と回数をしぼったほうがいい。
加えて、 振り返りを求めるときは、1歩踏み込んで、具体的に、具体的に問う
   
 などなどを、心に留意しておくと、ちょうどいいというのが僕の経験則です。
  
 実際そうなんです。
   
 振り返ってばかりいても、前に進みません。
 3歩、前に進んで、1歩、振り返るくらいがちょうどいいのではないでしょうか。
 かつて、チータもそう言ってでしょ?(笑)
 1歩進んで、1歩ふりかえっても、それ、前に、ぜんぜん、進んでいませんね。足踏みだよ、それ。
  
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  ・
  ・
  
 ちなみに、「何でもいいから書きなさい病」の変異種にはZoomのブレークアウトルームでの「カメラオフ・沈黙5分の地獄のブレークアウトルーム病」があります。こちらは、教員側の「何でもいいから話しなさい病」という雑な振り返り要請によって深刻化します。
  
 たとえば、Zoomのオンライン授業などで、教師が安易にブレークアウトルームをつくり
  
「何でもいいから話してください」
  
 などと「雑」に振り返りをもとめると、この病が発動します。
  
 ていうか、さっきまで他人だったひとと、いきなり強制対面状況に持ち込まれ、カメラ目線で正対し、
  
「何でもいいから話してください」
  
 と言われても、話すことなんか、ないのです。
 そうなると、カメラオフの状態で、数人で沈黙の5分間を過ごすことになります。これは、現在の大学生などで被害者は多いのではないでしょうか?
  
 君たちが悪いわけではありません。
 Zoomが悪いわけでもありません。
 自戒をこめて申し上げますが、それは、教える側のスキル・経験値が低いのです。インストラクションが下手くそなのです。
  

(今日も、きのうに引き続き、間抜作。あまりにもなつかしかったもので。。。深い意味はありません。たんなるイラスト)
   
  ▼
  
 最後の病は「時間不足の尻切れトンボ症候群」です。
 これは、そのまんまですね。
  
 「しっかり振り返ってくださいね。あっ、時間は30秒ですけど」
  
 では振り返れないのです。
  
 なぜなら「よき振り返り」の前には「考えるための時間(Thinking time)」が必要だからです。
  
 つまり
  
 よい振り返りの前には「間(MA)」が必要
  
 です。
  
 この「間(MA)」や「考えるための時間(Thinking time)」をしっかり確保することが必要です。
   
  ▼
  
 このように学習者側の問題・・・
    
 「刺激になりました症候群」
 「ためになりました病」
 「気づきを得ました症候群」
 「学びになりました病」
 「学ばせていただきました病」
 「目ウロコでした症候群」
  
 などなどは、教員側の下記の問題、すなわち、
   
 「振り返りの目的打ち込み不全症候群」
 「何でもいいから書きなさい病」
 「時間不足の尻切れトンボ症候群」
  
 などなどと、ともに病に罹患しているケースが、実に多いものです。
 自戒をこめて、一教員としては、こうした事態を引き起こさないようにしたいものですね。
  
 今週もようやく終わりました。
 ふぅ。
 なんとか、走りきりました。
   
 みなさん、よき週末を!
 そして人生はつづく
  
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