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2021.8.25 08:13/ Jun

あなたの会社の研修はいまだに「現場ポットンバイバイモデル」ですか?:コロナが促進する「イベント型研修」から「伴走型研修」への大変革!?

 コロナ禍は、社会の様々な物事を「変革」していきました。
   
 否、正しくいうならば、「これまで変わらなければならない」と考えられていた多くの事柄が、「コロナ禍をきっかけ」に「変わるチャンスを得た」ということだと思います。
  
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 人材開発の世界でいえば、この1年、すなわち2020年ー2021年は、過去20年に匹敵した変化が生まれていると思います。
  
 もちろん、業界や業種によって一概にはいえないところもあるのですが、ざくっと端的にまとめてみると、下記の3点かと思います
  
1.研修・ワークショップのオンライン化が爆発的に進んだ
  
2.研修転移・研修評価が重視されるようになった
  
3.研修を実施する側・参加する側のスキルセットに変化が生じた
  
 今日はこれを論じてみましょう。
  
  ▼
  
1.研修・ワークショップのオンライン化が進んだ
  
 まず、研修・ワークショップが「オンライン化」されることによって、ひとつの場所に、全員を集めるコストがなくなりました。これまで研修事務局を悩ませてきた、アゴ・アシ・マクラの事務手続きも、印刷の手続きもなくなりました
  
 これまでは、コストの面から「何度も研修を行うこと」は難しかったのですがが、これからは「より頻度をあげて、短時間の研修(その分、研修の時間を短くする)を、何度か複数回行うこと」ができるようになってきました。
  
 すなわち、
  
 従来の「長時間・イベント型研修」から「短時間・伴走型研修」に変化することができるようになった
  
 ということです。
  
 ・・・絵にするとこんな感じです。
  

  
 従来の研修は、言葉を選ばずにいえば、いわゆる「集中詰め込み・現場ポットンバイバイモデル」に陥ることもあった(左図)。
  
 コストの面から、研修はイベント的に、詰め込みで、長時間・一時期に行われる。その後は、「学習者、現場にポットン・バイバイされる(研修の終了後に、現場でそれが実践されるかどうかは、学習者任せ)」というかたちになる。研修の転移を「期待される」が、それは「確認・フォローアップされないこと」が多い。結局、人事は「研修転移を祈る(pray)」というかたちになる。
  
 しかし、これに対して、これからの研修は対面・オンラインを組み合わせて「右図」のようになる。
 おそらくこれからの研修は、非常に時間を短くして、前回よりも頻度をあげて集まることができる。研修と研修のあいだの間隔(インターバル)のあいだには、現場での実践を行うことができる。また、次の研修の冒頭部では、研修と研修の間に実践した結果を「持ち寄ったり」「フォローアップ」したりすることができる。
  
 こうした研修形態の変化によって、これまでは、なかなか難しかった「学習者の変化のプロセス(トランジション)」をしっかりとサポート(伴走)することができるということですね。
  
  ▼
  
2.研修転移・研修評価が重視されるようになった
  
 研修ワークショップがオンライン化されると、先に述べたように、研修と研修のあいだの間隔(インターバル)ができます。ということは、そこには「研修で学んだことを実践すること(研修転移)」の「あそび」が生まれ、当然、それが目指されます。
  
 研修で学んだことが、どれだけ現場で実践されたかどうか、すなわち研修転移は「測定」され、それが次の会の研修に行かされたり(形成的評価)、今までもよりも解像度をあげて変化を追うことができるようになります(総括的評価)。
  
 すなわち、研修のオンライン化は、研修転移・研修評価を促進するのです。
 研修転移の測定、評価に耐えられない研修は、おそらく厳しくなると思われます。加えていうと、これからの研修は、研修評価の結果によって、おそらく内容の精選が進むと思います。研修の「量」よりも「質」が重視され、「量をこなすこと」よりも「質の高いものを、確実にやり切るかたち」に変化する気がしています。
  
  ▼
  
3.研修を実施する側・参加する側のスキルセットに変化が生じた
  
 ざっくり申し上げると、これまでは、研修講師は「教える人」「ファシリテーションする人」、研修の事務局は「事務手続き・庶務を行う人」であったかもしれません。しかしオンライン研修の普及は、彼らの仕事にも変化を迫っています。
  
 研修講師の場合は、単に「教える」だけではなく、デジタルに強いことが求められます。また、ここが最も厳しい変化だと思いますが、「現場でのパフォーマンス・ノリ」よりも「言葉・論理で伝える力」が重視されるようになります。
  
 これまでの研修であれば、対面で、パフォーマンスを用いて、「人となり」で伝えられたことが、オンラインではそうはいきません。狭い画角で、相手にわかるかたちで、言葉を使って、伝えなくてはならない、ということになります。
  
 研修の事務局は、これまでのスキルに加え、デジタルに強いこと、デジタル機器の設定、オンラインでのファシリテーションなどが加わってきます。
 また、研修はビデオで記録されることも多いので、そうした素材の管理や運営なども仕事に入ってくることになります。
  
 もちろん、研修参加者にもスキルの変化が求められます。安定したPC環境、安定したLAN・無線環境、チャットツール・ZOOM等への習熟が必要になりますね。
  
 研修にまつわるひとびとの行動、意識にも、いろいろ変化が求められますね。
   
 ▼
   
 今日はコロナ禍における人材開発の変化についてかきました。
  
 わたしは、この1年、いくつかの会社のみなさんと共同研究を実施し、コロナ禍に対応した、新たな研修を開発しています。
  
 いずれも、オンラインを組み合わせ、学習者の「変化」と「研修転移」をしっかりと測定し、伴走していくプログラムです。
  
チームワーキング研修(リーダー・管理職向け:JMAMさま)
https://www.jmam.co.jp/hrm/course/training/twk.html 
  
Management5:管理職研修(管理職向け:パーソル総研さま)
https://rc.persol-group.co.jp/learning/stratified/mgt/management5.html
  
新人研修(新人向け:ダイヤモンドさま:ランディングページは構築中のようです)
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11568
  
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 いずれにしても、この1年ー2年は「過去20年分の変化」に匹敵する変化が生まれるものと思います。R&Dを徹底的に行い、この変化を、なんとか爆走したいと考えています。
  
 あなたの会社の研修は「現場ポットンバイバイモデル」ですか?
  
 それとも
 
 あなたの会社の研修は「研修転移・評価」を重視できていますか?
  
 そして人生はつづく
  
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中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
       
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
     
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
   
仲間から実際に認められた行動のデータから、自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加されました。職場における相互称賛を、自分の強みの発見と目標設定に役立てられます。
 
自身の強みと職場での関係を定期的に把握できるレポーティング機能も追加!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000059483.html
   
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https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
    
ピアトラストお問い合わせ
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