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2021.6.25 07:51/ Jun

あなたは「武器(手段)」をいじくり回して「本当の敵(課題)」から逃げていませんか?

 優れた社会科学とは「問題駆動型」であり「方法論駆動型」ではない
   
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 せんだって、大学院ゼミで「ケーススタディにまつわる5つの誤解(Five Misunderstandings About Case-Study Research)」という論文を読みました(Flyvbjerg 2006、ualitative Inquiry 12(2), 219-245.)
  
 定性的な研究、とりわけ、ケーススタディ(事例研究)にまつわる「5つの誤解」をかかげ、その問題をひもとくこの論文は、1万件を超えるほどの引用がある「お化け論文」です。この論文を報告してくれたD3の辻和洋さんには、心より感謝です。おつかれさま。
  
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 論文のなかでは、下記の5つの誤解について、著者がさまざまな理論や概念を駆使して反論していきます。
  
1.理論的な知識は実践的な知識よりも価値がある
  
2.単一の事例からは一般化できない
(単一の事例研究は科学の発展に寄与しない)
  
3.事例研究は仮説の生成に最も有用である。
(仮説の検証や理論の構築には他の方法が適している)
  
4.事例研究には検証への偏りがある
  
5.特定の事例研究を要約することはしばしば困難である
 
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 いかがでしょうか?
   
 上記の5つの誤解(命題)・・・・これらは、いかにも「ゴリゴリの実証主義者」「数字こそすべてと考える研究者」「定量エビデンス信奉者」が、どこかの学会や審査会で、饒舌に語りそうな命題ですね。どこかで聞いたような台詞ばかりです(トホホ)。
   
 この5つの誤解に対する著者の反論の中身は、論文をお読みいただくとして、興味深かったのは、冒頭の指摘です。
   
 すなわち、
   
 優れた社会科学とは「問題駆動型」であり「方法論駆動型」ではない
   
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 要するに、わかりやすくパラフレーズすれば、
    
 学問における探究とは「解くべき課題が何であるか」が一番大事
 課題を解く「方法」は「その後に考えるべきこと」だ
      
 ということだと思います。
      
 こう書いてしまうと「アタリマエダのクラッカー」的な命題ですが、昨今の研究者の世界というのは、これとは逆の事態が進行しがちです。
    
 テクノロジーの進展がすさまじく、解析手法が今日も、明日も、あさっても高度化しています。そうなると「方法至上主義」「解析至上主義」に陥るひとも増えてきます。
    
 つまり極端な話、
    
 とにかく「最新の方法」を使ってみたい、試してみたい
 最新の方法をつかって「解く課題」は
「まー、なんだっていいわな」
    
 ま、てっとりばやく測定できて
 査読もとおりやすそうな
「鉄板の質問項目」で、チョロンと、ペロンと、調査でもやってみよかー
  
 ま、たぶん、以前、論文で検証されたことと、
 ほとんど、変わんない結果だろうな・・・
 この「最新の方法」をつかっても、
 たんに分析を厳密になるだけだしな。
  
 ま、でもいいや。
 とにかく「最新の方法」を使ってみたいだけだから
    
 となりやすいのです(泣)。
  
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 著者は、これに異を唱えます。
    
 学問は、「解くべき問題」に対して「最適な方法」を採用するのである。
        
 こう書いてしまうと、アタリマエダのクラッカーですが(二度目)、わたしは、この著者の考えにとても近いです。
     
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 だってね、今、仮に、あなたが、ある冒険物語の「勇者」で、自分の目の前に「倒さなければならない敵」と「武器」があるとしましょう。
 
 一番大事なことは、「敵」を倒して、この「物語」を完了させることでしょう。
  
 それなのに、武器をいじくり回して、「倒さなければならない敵」ではなく「雑魚キャラ」を切りまくっても、しょうがないでしょう。
   
 そのうち、本当の敵に、やられちゃうよ(笑)。
    
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 今日は、探究における「解くべき課題」について書きました。
    
 課題が「先」、方法は「あと」
 目的が「先」、手段は「あと」
  
 あなたは「武器(手段)」をいじくり回して「本当の敵(課題)」から逃げていませんか?
     
 あなたが、今、本当に「向き合わなければならない課題」は何ですか?
  
 自戒をこめて
  
 逃げてばっかりいると、逃げ癖ついちゃうよ。
  
 そして人生はつづく
   
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