2021.6.15 07:47/ Jun
「怒鳴り込まれたら、勝ちと思え!」
・
・
・
先だって書庫から、臨床心理学の泰斗・河合隼雄さんの「日本人とアイデンティティ」を引っ張り出して再読していました。ふとしたところで、こんな文言が目に飛び込んできました。
日本人とアイデンティティ―心理療法家の着想 (講談社プラスアルファ文庫)
「怒鳴り込まれたら、勝ちと思え」
この言葉は、河合隼雄さんがかつて心理カウンセリングを京都大学で指導していた際、学生たちに繰り返し説いていた言葉だそうです。
曰く、カウンセリングの現場では、患者さんの父親、母親、先生などの関係者が、よく怒鳴り込んでくるのだそうです。
患者さんのことを強く思うがゆえに、自分のあずかり知らないところで、得たいのしれない!?カウンセリングが行われていることに、怒りを感じるのでしょう。かつての心理臨床の現場は、こうした「怒鳴り込み」がたまにあったといいます。
しかし、河合さんは、そんな「怒鳴り込み」に決して動じません。それをいったんは「受け止め」、そのうえで、相手の話を丹念に聞いていきます。
河合さんによれば、むしろ
「怒鳴り込むひととは、熱意のあるひと」
なのだそうです。
河合さんによれば、彼 / 彼女の話を丹念に聞いてあげ、彼らが何に怒りを感じているのかを受け止めてさえあげれば、むしろ、こちら側の「よき理解者」になってくれることが多いのだそうです。
どなりこみとは「熱意」
熱意を傾聴すれば、「よき理解者」に反転する
非常に興味深いものです。
▼
これと類することは、人材開発・組織開発の現場でも、たまーに起こります。
人材開発・組織開発とは、畢竟、「ひとと組織の観点から、組織のなかのケリのついてない課題の解決を行うこと」です。その活動のなかでは、組織のなかにある「触れてはいけないもの」に触れてしまうことがあります。
また、開発とは結局「ケリのついてない課題にまつわるひとびとに、変わってもらうこと」です。
大人にとって「変わること」は痛みをともなうこともあるものですから、やはりそこには葛藤や抵抗も生じます。
だから「怒鳴り込み」も、たまーに起こります。
そんなに数が多いわけではないですが、僕自身も、何度も経験してきました。
しかし、個人的には「怒鳴り込み」などの葛藤・抵抗は、実は、チャンスです。なぜなら、ひとつは、こちら側があの手この手を尽くさなくても、相手が本音・本心を「吐露」してくれるからです。それをまずは丹念に耳を傾ければいいのです。
そして、一番重要なことは、
「怒り」の裏側には、「強い思い」があります
「強い思い」があるから「怒る」のです
そういうときには、
「それほどお怒りを感じているのは承知しました。でも、お怒りを感じると言うことは、Aさんには・・・・に対する強い思いがおありなのですよね。ぜひ、どのようにお考えなのか、お聞かせいただけますか?」
というかたちで「問い」を使って「反転」させます。
そのうえで、その背後にある「思い」を「聞き切る」のです。
ここでのポイントは「聞き取る」ではないことです。「聞き切る」のです。そうすれば、たいてい、今まで見えなかった組織のブラックボックスが見えてくることが多いものです。
そして、思いを吐露できた方は、たいていの場合「よき理解者」や「最大の応援者」になってくれるものです(すべてではありません・・・単なるハラスメント野郎もいますので、注意が必要です)。
個人的には、
一番厄介なのは「怒鳴り込むひと」ではありません。
一番苦労するのは「無関心なひと」なのです。
▼
今日は河合隼雄さんの著作から、怒りと抵抗について書いてみました。
あなたが怒りを感じるとき、その背後には、どのような「思い」がありますか?
そして人生はつづく
(※今日の話は「怒鳴り込んでいい」という話でもありませんし、「怒鳴り込み」を受け止めろ、という話でもありませんよ。行きすぎた行為はハラスメントや犯罪にもなりかねませんよ。今日のお話は、あくまで対人関係のプロフェッショナル、組織のプロフェッショナルのお話です。そういうひとであれば、そういうことも反転させることができる可能性がある、と言うお話です。ただし可能性です!あしからず!)
ーーー
【立教大学大学院で大学院生しませんか?】
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、経営学を基盤にしながら、人材開発・組織開発・リーダーシップ開発を実践できるアカデミックプラクティショナーを養成しています。別名、「ひとづくり・組織づくりの大学院」です。
授業は「フルオンライン」。授業は金曜日夜と土曜日だけ行われており、2年間で、修士(経営学)が取得できます。
来年の大学院入試は2月です。3期生の募集になります!ご興味がおありの方は、ぜひ、下記のページにお越しください!
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース
https://ldc.rikkyo.ac.jp/
ーーー
拙著「経営学習論」の増補改訂版が、東京大学出版会より刊行されました。新たに「リーダーシップ開発」の章を追加し、カバーの装いも変わっています。人材開発の基礎的な理論を体系的に学べる一冊です。どうぞご高覧くださいませ!
ーーー
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)
ーーー
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
ーーー
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます!
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q
ーーー
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
拙著「職場学習論」(東京大学出版会)のカバー・装いが10年ぶりに変わりました(内容は変わっていませんのであしからず!)。ひとは、職場でどのようにして学ぶのか、というテーマを考察しています。どうぞご高欄くださいませ!
ーーー
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。1カ月間は無料トライアルだそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
強みの自己認知と意欲を高める『ポジティブ1on1』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000059483.html
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
ピアトラストお問い合わせ
https://www.peer-trust.com/contact/
ピアトラストの効果まとめページ
https://www.peer-trust.com/research/2020/
ーーー
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約32000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun
最新の記事
2024.12.25 10:57/ Jun
2024.12.8 12:46/ Jun
2024.12.2 08:54/ Jun
2024.11.29 08:36/ Jun