2021.2.17 08:06/ Jun
リモートワークでのOJTには「メリット」もあるのではないか?
・
・
・
コロナウィルス禍で進むリモートワーク・・・都市・地方、業種・業態によって、これが一様に進んでいるわけではないのですが、大都市圏においては、その動きが顕著なようです。
先日、実家の家業がオフィス家具を扱っている、ある学生さんがこんなことをおっしゃっていました。
曰く
「父親によると、ものすごい勢いで、都心では、オフィスの解約が進んでいるようです。古いビルになると、もう7割が空きという状態も、珍しくないようですね」
・
・
・
賃貸費は、「完全無欠のド固定費」です。ただでさえ業績がよくない企業が少なくない中で、ただちに見直されるのは固定費の削減でしょう。この動きが、どの程度、一般性をもつかはわかりませんが、しばらく注視が必要なようです。
▼
ところで・・・以前にも、このブログで申し上げましたが、
リモートワークは「新参者」には厳しい
ものです。
とりわけ働いた経験を持たない新入社員にとってはなおさら。これまでだって「右も左もわからない状況」で組織にに新たに参入しているのに、コロナ禍でリモートワーク状況で、それを経験しなければならない状況は「右も左も上も下もわからない」状況なのではないでしょうか。
別の言葉で例えるならば、新入社員にとってのリモートワークでの組織参入・OJTとは、
「暗い洞窟に、手袋をはめて、耳栓をして、目隠しをして、歩け」
と言われているようなものなのかなと思います。
さて、そういうことになってきますと、これまで以上に、OJT(On the job Training:職場で業務経験を通して学ぶこと)が重要になってきます。そして、巷には、この「リモートワーク下のOJT」について「悲観論」が多く語られております。わたしも、その難しさを語ってきたところがあるので、下記は、自戒をこめて申し上げます。
曰く、悲観論は
リモートワークにおけるOJTは「プロセス」が見えないからシンドイ
リモートワークにおけるOJTは「隙間時間」がなかなつくりにくいのでシンドイ
リモートワークにおけるOJTは「他者理解に時間がかかる」のでシンドイ
などなどでしょうか。要するに「シンドイ節のオンパレード」です。
・
・
・
しかしながら、丁寧に、今年のOJTを経験なさった方々に聞き取り調査を続けていくと、むしろリモートワークにおけるOJTにも「メリット」があることがわかります。
たいてい述べられる「メリット」は下記の3点です。
1.業務の様子、先輩から教えてもらっている様子を「録画」できる環境を用意している。あとで見直すことができるのがよいと好評だ。
(業務をオンデマンドビデオ化している場合を含む)
2.業務の様子を「言葉」にしてくれている、マニュアル化しているので、仕事を覚えるのが早い
(背中を見て学べ、仕事を見て盗めからの脱却がはかられている)
3.指導・フィードバックのときにテレビ会議だと緊張しないようだ。今までよりもOJT指導員や先輩との指導でコンフリクトをおこすケースが減っている
(プレッシャーなどをあまり感じない)
これら上記の3点は、OJTの泣き所である下記の3点の裏返しです。
OJTの泣き所とは、
1)仕事のなかで生じる出来事によって即興的に行われるので計画性・体系性が低い。学び直そうと思っても、再現性が低い。
2)あえて言葉にされることがなく、ともに生活することによって身体化をはかることが求められる
(だから業務の標準化から遠くなりがち)
3)先輩や教えてくれるひととの相性が重要になる。「誰から学ぶか」が極めて影響が大きい。そして、ともすれば「合わない先輩」とブラックボックスになってしまうので、ハラスメントなどが起こりうる可能性がある
・
・
・
もちろん、これらのメリットを享受するためには、会社側が、コロナ禍に応じて、OJTの対策をとってくれていることが前提になります。すなわち「録画環境」を提供してくれたり、「言葉」や「マニュアル」をつくってくれていたりしているのか、そもそも先輩やOJT指導員側が、指導・フィードバックの技術をもっているのか、どうかが問われます。
ちなみに、新入社員の皆さんへの聞き取りでもっとも面白かったのは、下記の言葉です。
「わたしたちは、今年しか知らないんです。これまでと比べてどうかは、わたしたちには、わかりません。私たちは、これしか知らないのですから。今の環境で、なんとか頑張って、仕事ができるようになろうと思います」
そうですよね。
新入社員の皆さんに「ビフォーコロナや「過去」はないのです。
新入社員の皆さんにとっては「今、ここ」が「現実」なのです。
だから、過去をいったんペンディングして、「今、ここ」の現状を受け止め、「今、ここ」で最もWorkする(成果をだせる)OJT環境を整備する必要がある、のだと思います。
▼
今日はリモートワークでなされるOJTには「メリット」もあるという話をさせていただきました。
おそらく、今後のシナリオは下記の3点です。端的に言ってしまうと、コロナ禍をきっかけに、OJTの革新が進む企業と、そうでない企業の格差が広がるものと思われます。
まず、第一の企業群は「OJTアップデート企業」です。
OJTアップデート企業は、コロナ禍をきっかけに、従来型OJTの泣き所を見直し、OJTの整備をさらにはかり、今日のブログにおいてメリットと指摘されている内容を整備するのだと思います。
次に第二の企業群は、「置き換えOJT企業」です。
「置き換えOJT企業」は、おそらく、従来のOJTを単純にリモートに置き換えようとするのだと思います。生産性が上がるわけではないですが、とりあえず、リモートワーク環境下には対応できるでしょう。
最後に第三の企業群は、「OJT機能不全企業」です。リモートワークの進展で従来のOJTが機能不全に陥っているのにもかかわらず、対処を何ら行わず、さらに競合他社との差がついてしまうのだと思います。
コロナ禍は、大きなチャレンジを企業・組織に課しているのだと思います。
あなたの会社は、OJTをアップデートしますか、置き換えますか、それとも機能不全に甘んじますか?
あなたの会社は、OJTのメリットを生み出すために、今から何ができるでしょうか?
そして人生はつづく
ーーー
【新刊予約発売中】
新刊「学校がとまった日」の特設サイト完成!&予約販売開始中! 緊急事態宣言・全国一斉休校で「学びを継続できた子どもの特徴」は?学びをとめないために学校にできることは?:書籍の内容が概観できます!どうぞご覧くださいませ!
新刊「学校がとまった日」の特設サイト
http://toyokan-publishing.jp/stop/index.html
新刊「学校がとまった日」予約販売開始中(AMAZON)
ーーー
【好評発売中】1on1の失敗・成功ケースをまとめ、映像教材を中原とPHP研究所さんとで開発しました。失敗しない1on1について、具体的なイメージをもって学ぶことができます。どうぞご笑覧くださいませ!
上司と部下がペアで進める 1on1 振り返りを成長につなげるプロセス
https://www.php.co.jp/dvd/detail.php?code=I1-1-061
ーーー
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます!
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q
ーーー
ラーニングエージェンシーさんと中原研究室の共同研究により開発した「女性の視点で見直す人材育成:トランジションサポートプログラム」のご提供がはじまっています。ライフステージに応じて、役割移行を支援する、きめ細かい研修となっています。共同研究の成果は書籍「女性の視点で見直す人材育成」としても刊行されています。
女性の視点で見直す研修 トランジション サポート プログラム
https://www.learningagency.co.jp/service/transition/
ーーー
。AMAZONの各カテゴリーで1位記録!(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。
長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
また残業学プロジェクトのスピンアウトツールである「OD-ATRAS」についても、ご紹介しています。職場の見える化をすすめ、現場マネジャーが職場で対話を生み出すためのTipsやツールが満載です。ご笑覧ください。
対話とフィードバックを促進するサーベイを用いたソリューション「OD-ATLAS」の詳細はこちら
https://rc.persol-group.co.jp/learning/od-atlas/
ーーー
「研修開発ラボ」(ダイヤモンド社)が、フルオンライン化して大幅リニューアルしました。人材開発の「基礎の原理」を学ぶことのできるトレーニングプログラムです。どうぞお越しくださいませ!
研修開発ラボ 特別講座「人材育成の原理・原則を学ぶ」
https://jinzai.diamond.ne.jp/seminar/SEMINAR0495/
ーーー
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
中原研究室では、一般社団法人ピアトラストさんとの共同研究で、相互称賛アプリ『Peer-Trust(ピア・トラスト)』の研究を行っています。
相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が導入された職場では、職場のメンバー同士が、お互いの日々の仕事を観察し、そこにキラリと光るものがあったときに「称賛カード」というものをメッセージとともに送りあいます。利用人数20名までは「無料」だそうです。ご興味があえば、ぜひ、ご利用くださいませ。
あなたの会社のリーダー・管理職は「部下の強み」を観察できますか?:相互賞賛アプリ「ピアトラスト」が示唆する「リーダーの条件」とは?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/12062
ーーー
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約31000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun
最新の記事
2024.12.25 10:57/ Jun
2024.12.8 12:46/ Jun
2024.12.2 08:54/ Jun
2024.11.29 08:36/ Jun