2021.2.2 08:22/ Jun
先生は、いったい、どのように企業の方と「共同研究」しているんですか?
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最近、何度か、これに類する質問を若手研究者の方からいただきました。
たしかに言われてみれば、僕の研究のほぼ90%(10%は密かにやっている個人研究)は、企業の方々との共同研究となっております。おそらく、過去20年のキャリアのなかで、これまで数十件にわたる研究をさせていただきました。
おそらく、若い彼 / 彼女は、その様子をご覧になっていたのでしょう。
たしかに、そうした内容は、大学院の正課の教育課程では学ぶことはできません。ゆえに、そのような質問をいただいたのだと認識しています。
僕個人でいえば、これまで、企業との共同研究で駆動する知恵は、敢えて、自分1人では言語化したことはありませんでした。
そのときは、時間も少しあったので、マインドセットから、プロジェクトマネジメント、契約の細かなところにいたるまで、お話をさせていただきました。自分にとっても、よき振り返りの時間になり、なかなか貴重な時間でした。
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企業の方と共同研究をする場合、心がけなければならないこと、知っておかなければならない知識は、枚挙に暇がありません。プロマネのこと、共同研究の体制作り、法務のこと、権利のこと・・・いつか機会があったら、こうしたことについてもお話できればと思います。が、ここでは、そのひとつだけをご紹介させていただきたいと思います。それは、どちらかというと、マインドセットにまつわることです。
企業の皆さんと共同研究するときに、わたしが最も気をつけていることのひとつに「言葉」があります。
とりわけ、共同研究をするときには、双方のあいだに「境界をつくることば」を極力用いない、ということをめちゃめちゃ配慮していると思います(それが成功しているかどうかはわかりません)。社会背景や問題関心が異なる2つの組織が出会い、ともに何かを成し遂げるので、その集団に亀裂が入る言葉を、なるべく用いないようにしているのです。
仮に、ひとつ例をだしてみましょう。
たとえば、共同研究において僕は「実務家」という言葉を極力用いません。
なぜなら、
自分のことを「実務家」と呼びたいと思っている「実務家」は、ひとりもいないからです。
また
お互いのことを「実務家」と呼び合う「実務家」同士は少ないものです。
(もちろん、ゼロではないとは思いますが・・・)
すなわち、
実務家という言葉は、「実務家ではないひと」から「実務を行うひとびと」に対して主に用いられる言葉
なのだと思います。
すなわち、実務家という言葉は、たとえば「研究者」といったような「実務家以外の社会的属性を表象する言葉」と対照づけられるとき、とりわけ、意味を輝かせる言葉です。
そして、その言葉は、ひとびとのあいだに「実務家」と「研究者」という分類を際立たせ、そのあいだに「境界」をつくりだします。ときには、それがいきすぎると「分断」につながるのです。
わたしは研究者
あなたは実務家
だから、わかりあえない
だから、ともにできない
となるのです。
だからこそ、僕は、共同研究においては「実務家」という語の使用を停止します(ふだんは用いていることはあるかもしれません)。むしろ、「わたしたち」という言葉を用いるのだと思います。
なぜなら、共同研究とは「ともになすこと」なのです。
そこに集うひとびとが目標のもとに「ともに為すこと」が重要なのであり、そこには「境界」や「分断」は必要ありません。
このように、言葉のなかには、ひとびとのなかに「境界」を作り出す言葉。境界を強化してしまう言葉、というものがあります。たとえば「研究 vs 実践」「アカデミア vs ビジネス」といったものもそのひとつでしょう。
これらの言葉は、ふだんは、何気なく用いてしまうものかもしれません。
しかし、共同研究においては、こうした言葉を極力避ける、ということも・・・・すなわち、こういう細かいことへの配慮も、また必要なのかもしれないな、と思います。
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今日は共同研究の些細な事についてお話をさせていただきました。こんな些細なことなの、とお思いになったかたもいらっしゃるかもしれません。が、背景や利害の異なる集団が、ともに目標を共有して、達成していくためには、そういう細かな配慮から必要になるのだ、と思います。
たかが言葉
されど言葉
です。
そして
神はディテールに宿る
のです。
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あなたは、職場やプロジェクトのなかで、「境界と分断」をつくりだす言葉を、何気なく用いていませんか?
そして人生はつづく
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