NAKAHARA-LAB.net

2020.10.2 09:01/ Jun

円滑に「リモートワーク」をするための「貯金」がそろそろ尽きてきた!:職場の「シェアードメンタルモデル」と「チームの成果」!?

 円滑に「リモートワーク」をするための「貯金」がそろそろ尽きてきた!
       
  ・
  ・
  ・
     
 秋学期の大学院・中原ゼミでは、リモートワーク研究、バーチャルチーム研究にまつわる論文を、みなでシコシコと読んでいます。せんだっては博士1年の堀尾志保さんが、「バーチャルチームにおけるリーダーシップ」にまつわる論文を報告してくれました。
    
 せんだって読んだ論文では、
   
時間的空間的距離が増し、情報通信技術に媒介される仕事のやり方に移行し、バーチャリティ(virtuality)が増加するごとに、上司が行使する垂直型のリーダーシップの効果は薄れる
  
 といったような内容が報告されました(堀尾さん、お疲れ様でした)。
  
 リモートで仕事をしていると、これまでのように、オラオラでリーダーシップを発揮していた上司は、たいがい厳しくなることがよく知られています。
 オラオラでは、次第に仕事を引っ張れなくなる。それぞれのメンバーが自らの強みをいかし、チームに貢献し合おうとする職場をつくっていく方向に、リーダーシップのあり方を転換する必要があるのだな、と改めて思いました。
  
 ▼
  
 さて、季節はめぐりめぐり、もう10月です。
  
 2月後半にリモートワークに入られた方は、半年をこえ、もう7ヶ月がたとうとしています。
  
 このところ、企業の方とお話をしていて、よく聞く話としては、
  
 円滑にリモートワークをするための「貯金」がなくなってきた
  
 といった類いのお話をよく伺います。ここで「貯金」というのは、あくまでもメタファですね。メタファは企業によって違いますが「貯金」とか「貯蓄」とか「貯め」とかいう言葉がよく用いられます。
  
 ここで「貯金」とは
   
1.職場のメンバーのあいだで
2.共有している
3.仕事をする意味・意義・やり方などに関する
4.暗黙の共有知識
  
 のことをいいます。
  
 要するに、緊急事態宣言になる以前に蓄積してきた「職場メンバー間に、暗黙のうちに共有されてきた知識」が、リモートワーク開始から半年をこえ、7ヶ月に至ってくると、そろそろ尽きてきた、色あせてきた、ということです。
  
 別の喩えでいうのならば、
  
 職場メンバーが「同じ船」に乗っている感覚が失われ始めている。
  
 それが次第に失われていくと、職場のメンバーのあいだにギスギスが生まれたり、ちょっとした認識の違いや誤解が生まれやすくなってきている。そういう現象が、次第に散見されるようになってきている。いくつかの企業で、こんな類いの話を伺いました。
  
  ▼
  
 先ほどの「貯金」のメタファは、経営学的にいえば「シェアードメンタルモデル(Shared Mental Model : 共有されたメンタルモデル)」ということになるのだと思います。
  
 シェアードメンタルモデルとは、
  
1.職場メンバーのなかで
2.仕事に関する知識などが
3.個々人の頭の中でどう整理・秩序化されていて
4.どの程度共有されているか
  
 ということを示す概念です。
  
 職場メンバー間で「同じようなシェアードメンタルモデル」を共有していれば=シェアードメンタルモデルがそろっていれば、チームは高い成果をだすことができます。
  
 一方、
  
 職場のメンバー間で、テンデバラバラな事柄を、テンデバラバラに共有していれば、チームの成果はドサイアクになります。
  
 先ほどのお話に戻りますと、リモートワークがはじまって、半年がたった。
 リモートワークをはじめるまえには、ある程度は揃っていた「シェアードメンタルモデル」が次第に揃わなくなりはじめてきている。
 時空間をへだて、ネット越しでのコミュニケーションでバーチャリティが増加しているがゆえに、それが色あせ始めてきている。
  
 だとすれば、必要なのは、
   
 職場メンバー間のシェアードメンタルモデルを「揃わせること」
  
 職場レベルの組織開発
  
 職場で発揮されるリーダーシップのありかたを見直すこと
  
 をそろそろ行っていくことなのかもしれないな、と思います。
  
 皆さんの職場は、いかがでしょうか?
  
  ・
  ・
  ・
  
 ちなみに、きょうのお話は、
  
 1.リモートワーク以前には「シェアードメンタルモデルが揃っていて」
 2.リモートワークが長期化したがゆえに「シェアードメンタルモデルが揃わなくなっている職場」
  
 をケースとしてお話しいたしました。
  
 ただ、広いシャバの世界には、
  
 1.リモートワーク以前からも「シェアードメンタルモデルが揃っていなくて、テンデバラバラで」
 2.リモートワークが長期化したがゆえに「シェアードメンタルモデルとか言ってる場合じゃないほど、さらにさらにテンデバラバラな職場」
  
 もあるのかもしれませんね。
  
 そういうのはどうしたらいい?
 でも、それって、リモートがあろうと、なかろうと、テンデバラバラなんだよね。
 てことは、そもそも、「マネジメント」が機能していないってことですよね。
  
  ・
  ・
  ・

 あなたの職場メンバーは「シェアードメンタルモデル」が揃っていますか?
 あなたの職場には「貯金」がまだありますか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
         
新刊「サーベイフィードバック入門ーデータと対話で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」がこのたび、HRアワード2020書籍部門のリストに入賞したそうです。
   
ここから、みなさまによる投票で、最優秀賞、優秀賞が決まるとのご連絡を得ました。本書は、従業員調査、エンゲージメント調査などをもちいて、組織開発を行うときに、マネジャーの方々に留意いただきたいポイントをまとめたものです。どうぞ応援のほど、よろしくお願いいたします!
  
HRアワード2020(投票)
https://jinjibu.jp/gfrm/eventEnquete/award-20-0001/form/
    

   
  ーーー
   
【祝・eラーニング完成!】中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース完成しました。リーダー・管理職になる前には是非もっていたいフィードバックスキルを、PC、スマホ、タブレット学習可能です。ケースドラマでも学べます! 
     
中原淳監修「実践!フィードバック」eラーニングコース:Youtubeでデモムービーを公開中!
https://youtu.be/qoDfzysi99w
   
「実践!フィードバック」コース ありのままを共有し、成長・成果につなげる技術(PHP)
https://www.php.co.jp/el/detail.php?code=95123&fbclid=IwAR2he6Z_PTe3YiahcnCv3z9pNRXvrajPwVaRS8LLAYFkbWVH167qHDfYF5Q    
   
  ーーー
   
「研修開発ラボ」(ダイヤモンド社)が、フルオンライン化して大幅リニューアルしました。初回は、特別講座「人材育成の原理・原則を学ぶ」で中原が講演させていただきます。人材開発の「基礎の原理」を学ぶことのできるトレーニングプログラムです。どうぞお越しくださいませ!
    
研修開発ラボ 特別講座「人材育成の原理・原則を学ぶ」
https://diamond-labo0911.peatix.com/
  
 ーーー
   

     
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
    

   
 ーーー
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約28000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.28 09:58/ Jun

専門知の「パワフルさ」と「盲目さ」!?

2024.12.25 10:57/ Jun

「最近の学生は、昔からみると、変わってきたところはありますか?」という問いが苦手な理由!?

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点