NAKAHARA-LAB.net

2020.7.8 07:16/ Jun

ITは「文房具」ではない! 息をするための「ボンベ」である! : ニッポンは「教育現場のIT利用の後進国」である!?

 ITは「文房具」ではない! 息をするための「ボンベ」である!
   
  ・
  ・
  ・
  
 近年、「仕事の現場」は、猛烈に変化しているような気がします。職種や業種にもよるので一概にはいえませんが、ITがすみずみまで普及し、働く人々にとって不可欠なものになっているのです。
  
 さらにコロナ禍は、ITの必要性を極限まで高めました。
   
 いまや、ホワイトカラーであるならば、テレビ会議やチャットツールなどの様々なコミュニケーションツールを利用して仕事をするのは「日常の風景」になっています。
 ワード、エクセルなどのツールが使えるのは「最低限」。ひとによっては、さらに高度な専門のソフトウェアを駆使して仕事をしています。就職・採用ですら「オンライン」です。もはやITなしでは仕事を探すことすらできません。
   
 仕事の現場で働いている方々からみると、アタリマエダのクラッカーでしょうが、
  
 ITを使えないで、仕事の現場で活躍することは不可能になりつつあるのです。
  
 もちろん、職種にもよりますが。
  
  ▼
  
 ひるがえって「教育機関」です。
 とりわけ初等・中等教育。
  
 今回のコロナ禍で、僕は、久しぶりに「教育機関のITの現状」を目の当たりにしました。誰かを責めたいわけではありません。事態が深刻であることが伝われば、それでいいと思います。
    
 僕が20年ぶりくらいに目にした「教育機関のITの普及・利用の状態」が、僕がふだんめにする「仕事の現場」とあまりにも「格差」が生じていることに驚愕し、「めまい」がしました。恥ずかしながら、僕は「無知」でした。 
      
 メールボックスをひっくり返し、僕がこの数ヶ月でいただいたメイルを読み直します。
    
 曰く
    
・「キーボードを押したら、5秒後に、文字が表示される古すぎるコンピュータなんて使えない!」とおっしゃる先生からメイルをいただきました。
    
・「教育委員会のつくったYoutubeの動画は、学校からはカクカクしすぎて見られないんです。校内のネットワークが狭すぎて」とおっしゃる先生からも嘆きのご連絡をいただきました。
   
・「学校のWebページに生徒への動画を置きたいのだけれども、容量が5メガしかないんです」とおっしゃる校長先生にも出会いました。
   
・条例で教員が情報発信はできないんです。次に、市の個人情報保護の会合が開かれるのは、数ヶ月後ですね。それまでは何もできません。

  ・
  ・
  ・

 ごめんなさい。
  
 気分を害する方がいらっしゃるかもしれませんが、正直に告白すると、
   
 ニッポンの教育現場のITの利用状況は「むごいな」
   
 と思いました。というよりも、
  
 ニッポンの教育現場のITの利用状況は「さむい」
  
 といってもいい。何とかしなくてはなりません。僕にできることがあれば、貢献したい気持ちが高まっています。先日、あるところからお声がけいただいたので、僕は、僕なりのやり方で、この問題に取り組む「新たな試み」を、志をともにする方々とはじめようと画策しています。
  
  ・
  ・
  ・
  
 実際、いろいろ調べてみると、びっくりしました。
  
 たとえば、経済協力開発機構(OECD)が2018年に行った調査によると、課題や学級活動で、ICTを「いつも」または「しばしば」活用させているとした日本の中学教員の割合は17.9%。OECD平均(51.3%)。大きな幅があります。
  
 下記の記事などを見ていただくと、すぐにその現状がご理解いただけるのだと思います。
  
 要するに、ニッポンの子どもたちは、ゲームやチャットで情報機器を「世界一使いこなしています」が、一方、それが「学習」に紐付いていない。日本は情報機器を「教育に世界一使いこなせていない国」のひとつです。
   
ゲーム&チャットは1位で学習は最下位…日本の15歳のICT活用の実態
https://resemom.jp/article/2020/01/09/54151.html
  
 しかしながら、わたしたちは「ここから始める」ほかはないのです。

 それは、
    
 ニッポンは「教育現場のIT利用」の後進国である、という事実
    
 そして、
  
 ニッポンは「ITの遊興利用」の先進国である事実から、
   
 ビジョンを描き、前を向いて、新たな試みを企てていかなければならない。
        
 このままでは、かなり厳しい。
 しかし、ここから地に足をつけて始めるほかはないのだと思います。
  
  ・
  ・
  ・
  
 今日は、いろいろなことを書きました。
 僕は「IT屋」ではありませんし、「情報機器」も売っていません。
   
 単なる「仕事と学び」の研究者です。
   
 しかし、その観点から、仕事の今後を考えるとき、ひとつ確信に近いことがあります。
  
 教育機関では、よくITを「文房具」に喩えます。
 
 わたしたちは、この「メタファの使用」を、そろそろ「見直さなくてはならない」のではないでしょうか。
  
 教育現場では、よく、教育関係者が、こんな物の言い方をするのをよく耳にすることがあります。
  
「子どもに高価な文房具であるITなんて与えなくていい。鉛筆、消しゴム、紙で十分」
  
 僕はそうではない、と思うのです。その前提(メタファ)から間違っている。
  
 敢えて、メタファで返すのならば、
  
「ITは、ボンベみたいなものです。スキューバダイビングで、息をするために必要なボンベ!」
  
 これから仕事の現場を生きる子どもたちは、おそらく、それなしでは、息切れ・窒息してしまい、深遠な世界を探求することすらできません。
  
 だから、
  
 ITを「文房具」に喩えるのは、辞めるべきだ
  
 と思います。
  
 それ以上に事態は深刻だな、と感じます。
  
  ▼
 
 今日は、教育現場のIT利用に関することを書きました。
 事態は深刻である。しかし、わたしたちは、希望をもって、ここから地に足をつけて考え、実践していけるのだと思います。
  
 未来の働き手に「ボンベ」くらい与えてあげてください。
  
 不確実性がさらに高まり「荒れ狂う海」を、「ボンベなし」の無酸素状態で冒険するのは、あまりにも無謀ではないかと思います。
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
  
新刊「サーベイフィードバック入門ーデータと対話で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」が好評発売中です。AMAZON人事・マネジメントカテゴリー1位を記録しました。組織調査を用いながら、いかに組織を改善・変革していくのかを論じた本です。従業員調査、HRテック、エンゲージメント調査、教学IRなど、組織調査にかかわる多くの人事担当者、現場の管理職の皆様にお読みいただきたい一冊です!
  

  
 ーーー
  

    
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
   

  
 ーーー
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約28000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.29 08:36/ Jun

大学時代が「二度」あれば!?

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?

2024.11.26 10:22/ Jun

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?