2020.6.9 06:50/ Jun
オンライン研修をデザインするとは「決める・わける・つなげる・お土産化する」である!?
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私だけがそう思っているのかもしれませんが、ここ数ヶ月、人材開発の業界は、50年に1度くらいの「パラダイムチェンジ」が起こっているような気がします。
人材開発の業界は、新型コロナウィルス感染拡大の影響をもろにパッコリと受けてしまい、1)対面型の研修がストップするか規模縮小か延期しているところが多く、2)かわりにオンライン研修が爆増しているのです。
よく知られているように、企業研修は、一般に、「公開型」ならば「不特定多数のビジネスパーソン」が参加します。たとえ自社研修であっても、多くの研修は特定多数が集まり、かつ双方向性が高いものです。要するに、新型コロナウィルスとは「研修殺し」なのです。とりわけ対面集合研修にいたっては・・・。
現在の感染拡大の状況をみますと、おそらく、企業研修の本格的再開には、もうしばらく時間がかかるのかもしれません。
対面型の集合研修だけしかしない、できない企業、関係者は、この間、非常に苦しい闘いに迫られています。
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一方、かわりに、爆増しているのが「オンライン研修」です。
現在、わたしのところに来るほぼ99%のご相談が、オンライン研修ということになっています。ラーニングイノベーション論、HRリーダーズフォーラムなどの、従来、対面集合研修で行っていた研修も、今年は「フルオンライン」での実施になっています。わたしのもとへは研修などへの登壇依頼もございますが(ほとんどお引き受けできていません)、それよりも多いのは、
従来、対面集合研修で行っていた研修を、いかにオンラインに置き換えるのか?
というご相談です。
今日は、この命題・・・すなわーち
対面型集合研修をオンラインに置き換えるとき、重要なことは何か?
について、ゆるゆると考えてみましょう。
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対面型集合研修をオンラインに置き換えるとき、重要なことは何か?
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さて、皆さんは何を思われますでしょうか?
ツールの選定?
通信回線速度の確保?
パワポの準備?
うーん、それもあるかもしれませんが、僕は「全く違う答え」を提案させていただきます。
思うに、「対面型集合研修をオンラインに置き換える」ときに、もっとも重要なことは、この言葉の使用・・・とりわけ「置き換える」という言葉の使用を、いますぐに、ただちに「停止」することなのだと思います(笑)。
ポカーン。
比喩的に申しますが、
対面型集合研修は、そのまま「オンライン」には「置き換わり」ません。
もうすこし具体的にいうと、
対面型集合研修を、そのままオンラインでやろうとすると、学習者の集中力が切れたり、疲労が高まったりして、従来の学習効果を維持することは極めて難しい
のではないかと思います。
その意味で、
対面型集合研修は、そのまま「オンライン」には「置き換わらない」
と申し上げているのです。
それでは具体的にどうするか?
もちろん対面型集合研修で行っていたものを「すべて捨てる」必要はありません。しかし、もっとも非常に重要なことは、「対面集合研修を置き換えて、オンラインでも同じことをしようとするのではない」と、僕は思います。
むしろ、
対面型集合研修のエッセンスを「抽出」しつつ、オンライン型研修として「まったく新たにつくりなおす」という発想にたつこと
が一番重要なことであるように思います。
このことに、覚悟を決めること。
腹をくくることが、まず非常に重要だと思います。
思うに、
オンライン研修とは「新たな門出」なのです。
けだし、
オンライン研修とは「対面型集合研修」を「オンラインフレーバー」でコーティングすることではない
のです
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それでは、そこまでは腹をくくれたとして、そのつぎに大切なことは何か?
様々な答えがあるでしょうが、僕がもっとも重要だと思うことのひとつは
「オンライン」という「ざっくりした曖昧ワード」の利用をただちに「停止すること」だ
と思っています。
むしろ、プロフェッショナルであるわたくしたちは、もっともっと「解像度」をあげて、オンラインの「内部」を、ディテールにこだわってデザインしなくてはならない。オンラインと形容している中身を、顕微鏡で、子細に観察していかなくてならないのです。
思うに、
学習効果の高いオンライン研修とは、「オンラインか、オフラインか?」という「メッシュの粗い」議論では、デザインできません。
むしろ、
「オンライン」のさらにさらに「内部」をじっくり見ることが重要なのです。
さらに解像度をあげて、よりディテールをデザインしなくてはなりません。
では何をすればいいのでしょうか?
具体的には、
1.どういうメディアを使って
2.どのタイミングで
3.何を教えて
4.結局、何をお土産に「お持ち帰り」してもらうか?
を考えなくてはならないのです。
たとえば、こういうことです。
1のメディアに関していえば、オンラインといっても、オンデマンドビデオを用いるのか、Zoomを用いるのか、Slackでチャットさせるのか、いろいろあるでしょう。
それらをざっくり、十把一絡げに「オンライン」と呼んでしまっては、それ以上の学習効果の高いコンテンツをつくることができません。
2や3の「どのタイミングで何を教えるか」も極めて重要でしょう。
オンデマンドビデオを視聴させて、そのあと、Zoomなどで対話を行わせるのか。それとも、ビデオを見させて、課題を個人で行わせたあとで、Zoomで対話するのか。
その目的によって、メディアを用いるタイミングと内容が異なります。あいだにどんな演習や学習活動を挟み込むのかも考えなくてはなりません。
4の「お土産のお持ち帰り」も重要なポイントです。
1や2や3で「いろいろ、ハイパーアクティブに動いたわいいけど、結局、総じて、何が学べたのか?を個人としてまとめあげること=何をお土産として現場にお持ち帰りできるのか」は、非常に重要な視点です。
わたしが先ほど述べた「解像度をあげてディテールをデザインする」とは、こうしたことを徹底的に考え抜くことです。そのうえで、「学習者の学習経験をトータルにデザインすること」に他なりません。
Zoomでオンラインミーティングをファシリテーションすることだけ、Zoomで対話することだけ、Zoomで講義をすることだけを考えても、不足があるのだと僕は思います。
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というわけで、畢竟、学習効果の高いオンライン研修のデザインとは、オンラインにフィットしたかたちで「学習者の学習経験をトータルにデザインしなおすこと」です。
そして、その際には、
1.決める
2.分ける
3.つなげる
4.お持ち帰り
が重要になります。
絵にすると、こんな感じ。
まず、オンライン研修のデザインで重要なことは「1.決める」です。
決めるとは「何をどの程度教えるのか」を決めること。そのためには、絵にあるように、学習者の「今の状況」と「めざす姿」の差分を考えることです。この「差分」にあたる部分が、「学習者が獲得しなければならない学習経験の総体」ということになります。
そのつぎに行わなければならないことは「2.分ける」です。
「分ける」とは、「どのメディアをつかって、どのタイミングで、何を学習者に考えてもらうのか、何を思考してもらうのか」を考え抜くことです。
何でもかんでもZoom、何でもかんでも「ビデオ」とするのではなく、そのメディアの特性に応じて、伝えたいメッセージによって、メディアを使い分けていくことが重要です。
三番目に重要なのは「3.つなげる」です。
「つなげる」とは「2.わける」で分けてしまった学習コンテンツを「のりしろ」をもって「つなぎなおし」ていくことです。
たとえば、わかりやすい事例でいえば、
1.今、仮にオンデマンドビデオで、ある内容を個人で学んだとします
2.そのつぎには、その内容を「使って(のりしろ)」、個人で「課題」に取り組ませます
3.さらに、その「課題」を「使って(のりしろ)」、Zoomで対話を行います
4.さらには、その対話を「使って(のりしろ)」、個人でリフレクションをします。
このように、個々の学習コンテンツ同士には「のりしろ」がなければなりません。個々の学習コンテンツを「のりしろ」でつないで、「学習者の、一連の学習経験をトータルにデザインすること」が重要なのです。
そうしないと、
内容ブツブツ切れた、ツギハギだらけの、フランケンシュタインみたいな学習コンテンツ
が生まれてしまうのです。
あべし。
ちなみに、くどいようですが、最後に必要なのは、「3.つなげる」でトータルに学んだものを個人としてしっかり振り返り、外化(言葉にしたうえで)、しっかりと「お持ち帰り」をもって現場にかえってもらうことです。
ぜーぜー。
今日のお話は大学院の授業ならば課題解決で取り組む、かなり難易度の高い内容ですが、みなさん、コロナ禍でお忙しいでしょうから、ザクッと説明しました。
ちなみに、ひとづくり・組織づくりの大学院・・・立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースでは、「人材開発・組織開発論1」という授業で、オンデマンドビデオ開発+オンラインワークショップの開発実習を行います。大学院の授業はフルオンライン化されておりますが、この授業では、受講生の皆さん自身に「オンラインの人材開発」を行っていただきます。春学期の授業よりもさらにさらに難易度があがりますよ。ただ・・・この大学院を卒業した頃には、Dxに対応した人材開発・組織開発を実践できるスキルがついているはずです。受講生のみなさま、お楽しみに!
立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コースの授業の様子はこちらです!
https://ldc.rikkyo.ac.jp/news/
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今日は、いま、猛烈な勢いでDx化が進んでいる人材開発の領域のホットトピック、オンライン研修のデザインのお話をさせていただきました。ホットトピックではありますが、理論的には歴史は古く、人材開発の基礎中の基礎をなす内容なのかなと思います。
こうした知見は、今ほど重要になっている時期はないとは思うのですが、通常の大学で、これをきちんと学べるところは極めて少ないのではないかと思います。
たとえば、これからは初等中等教育でいえば、分散登校+オンラインの併用が考えられると思うのですが、要するに必要なのは、こういう知見だと思います。
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ちなみに・・・最後の最後に「ちゃぶ台」を返すようで恐縮ですが・・・
今日、ご紹介した内容は、これは何もオンライン研修だから必要なのではなく、本来的には「オフラインの対面型研修」でも必要なんだと思います。学習効果の高いコースをつくろうとするならば、これらの作業は、「オフライン」と「オンライン」問わず必要なのです。(ちゅどーん・・・爆撃!)
それでは「オフライン」ではあまりこれらの知見が喧伝されないのはなぜなのか?
それは思うに「オフライン研修」とは、すこし目的や学習デザインが「ゆるくて」も、その場の雰囲気やノリで乗り切ったり、講師の行う細やかな声かけや観察、そして学習者が空気を読み合い、先生の意図を読んで動くことで、相互にカバーしあい「何とかなる部分」があるのです。
あるいは、「オフライン研修」には、それこそ「慣性」が働いており、強いて、こうしたことを意識せずに実践されてきたところもあるのかな、と思います。
もちろん、すべてがすべて、そうだとは申しません。学習効果の高い対面型研修とは、こうしたデザインをきっちり踏まえているものだと思いますし、プロフェッショナルの仕事だなぁ・・・と思わずうなってしまう研修は多々ございます。
しかし「オンライン研修」では、そうはいきません。その場の雰囲気やノリは、なかなか伝わりませんし、講師の細やかな声かけや観察はなかなか難しいところがあります。学習者が空気を読み合い、先生の意図を読んで動くことも厳しいのです。なにせ、時空間に距離があり、上半身だけしか見えないコミュニケーションですので・・・。
ですので、そうした部分がオンラインで抜け落ちている分だけ「より緻密なデザインや工夫」が必要になる、といったことなのかな、と思います。
オンライン研修は「きっちりやらなければ」、より「成立しない」のです。
昨今は、オンラインで授業を行っている先生も多いかと思うのですが(お疲れ様です)、おそらく、オンラインでやる方が疲れるのではないでしょうか。そのひとつの理由は、オンラインで授業を行う方が、めちゃめちゃデザインしたり、工夫したりしなくてはならないので、疲れるのだと思います。でも、本当は、それは「対面集合の授業」でも必要なことだったんだ、とも思います。
もしかすると、この100年に1度の災害を乗り越えたあとに、オフラインの研修に戻ったとしても、ニッポンの対面型研修のレベルはあがるかもしれません。
しかし、とりわけ今は・・・みなさまのオンライン研修が、より学び多きものになることを願っています。
そして人生はつづく
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追伸.
今日のお話の参考になるのは「研修開発入門」「研修転移の理論と実践」などかと思います。ちなみに、この内容をセミナー化した「研修開発ラボ」は従来は対面型集合研修で実施されておりましたが、こちらは、現在、フルオンライン化を進めております。 島村公俊さん、鈴木英智佳さん、関根雅泰さん、ダイヤモンド社の永田正樹さん、広瀬一輝さんと企画中です。どうぞお楽しみに!
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