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2020.6.8 07:50/ Jun

プレゼンテーションとは「想定反論者」との「対話」である!?

 プレゼンテーションとは「想定反論者」との「対話」である!?
   
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 僕がプレゼンテーションのときに気にかけていることのひとつに、
      
 1.プレゼンを組み立てるときには「自分のプレゼンに対する反論者」をエアで妄想し
   
 2.反論者が「思わず口にしそうな内容」を、最初から自分のプレゼンの中に入れ込み
   
 3.この「想定反論」に対して、さらに「反論」となるような情報を提示することで
   
 4. プレゼンの話題を進行させている
   
 ということがあります。
   
 要するに、
   
 僕のプレゼンは「想定反論者」との「擬似的な対話」で進行するように組み立てられている
   
 ということです。
  
 あまりお役に立たないTipsかもしれませんが、今日は、そのことをご紹介しましょう。
  
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 これ、具体的にどういうことかと申しますと、例を用いてご説明しましょう。
 たとえば、今、自分が「長時間労働を是正するべきだ」というメッセージが含まれるプレゼンをしているとします。
   
 そのときに、僕ならば、このメッセージに対して「反論」をしてきそうなひとをエアで妄想しておきます。
 たとえば、長時間労働是正を例にあげるのであれば、これに対する典型的な「反論」とは、こういうものです。
   
「長時間労働をやめてしまえば、若手が育たないではないか!!!」
  
 実際、経営者のなかには、長時間労働の是正に対して、こういう反応をしめすひとがいます。
 そこで、僕はプレゼンをするときに、敢えて、この「声」をコンテンツのなかに入れ込んでおきます。
  
「僕が、長時間労働の見直しは必要だというと、たいてい、こんな声があがってくるんですよ。長時間労働をやめてしまえば、若手が育たないではないか!ケシカラン、プンプンみたいな声がね」
    
 そのように自ら「反論」を紹介し、いったんその声を引き取ったうえで、その「反論」に「反論がえし=切り返し」を行うようなデータをだしていきます。
      
 まずはいったん引き取ります。
     
「気持ちはわかるんです。その方は、ご自身が若いときに、一生懸命汗水たらして働いていたと思うんですよね。本当にお疲れ様です・・・」
    
 しかし、ここからが「切り返し=反論返し」です。
    
「しかしですね・・・時代も変わってきておりまして、実際のデータを見ていくとですね、これが「真逆」なんです。
  
長時間労働をやめれば、若手が育たないではないんですね。長時間労働をやるから、若手が育たないんです。じゃあ、データを見ていきましょう。
  
このデータにありますように、長時間労働をしていると、上司からのフィードバックも受けられない、振り返りの時間も得られないひとが増えていきます。経験学習のサイクルも回らないんです。つまり、長時間労働は、学習を阻害してしまうんですね」

  
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 僕のプレゼンは、たいてい、こんな風に「対話的」に進行させています。
   
 冒頭、僕が
   
 プレゼンテーションとは「想定反論者」との「対話」である
   
 と申し上げたのは、そういう意味です。
   
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 それでは、なぜ、このような面倒なことをするのでしょうか。
 いろいろ理由はあるとは思いますが、それは端的に言ってしまえば、
  
1.「情報やデータの羅列」を避け、プレゼンに「起伏(ストーリー)」をつくるため
  
2.反論者の声をあらかじめ取り上げることで、「いろいろ検討した結果」、「今の結論」になっていることを主張するため
  
3.反論者の意見をいったんはかならず「引き取ること」で、「感情的ハレーション」を避け、相手に意見を受け取ってもらいやすくするため 
    
 なのかな、と思います。
  
 世の中は、どんなことを主張しても賛否両論です。
 自分の言いたいことには、必ず、どこかに「反論者」がいます。
    
 そのようななか、
  
 プレゼンとは、自分の情報を提示することではありません。
  
 プレゼンとは「相手に情報を受け取ってもらいやすくする行為」です。
  
 ですので、あらかじめ反論を想定したうえで、それに対する対処を行っていくことが、僕は重要なのかなと思います。
  
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 今日はプレゼンのお話をしました。今日ご紹介したのは、僕が僕自身で心がけている方法で、他の方に、どの程度通用するかはわかりません。でも、一度、お試しになってみるといいかもしれません。

 当社比で恐縮ですが、この方法をやるようになってから
  
「僕のプレゼンを聞いて、ケシカラーンとブチ切れるオッサンが、統計的有意に減少した」
   
 うように思います。必ず「反論」を踏まえて、お話をいたしますので。
 
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 皆さんはプレゼンなさるときに、どんな工夫をなさっていますか?
     
 そして人生はつづく
    
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