2020.5.27 07:59/ Jun
今年の新入生、新入社員は「学び」や「働く」の「かなり手前」にいるので、丁寧にケアやサポートを行っていかなければならないのではないだろうか?
・
・
・
最近、とみに思うことがあります。
3月に端を発した「新型コロナウィルス感染拡大」は、この国の「学ぶこと」と「働くこと」の「時計の針」を、一時期、止めてしまいました。
その間、
9割近い学校が臨時休校に追い込まれました。
多くの新入社員研修が止まったり、延期になったり、オンラインに移行しました。
この国には、
いまだ一度も、学校にいけていない「新入生」がおり
いまだ一度も、出社したことのない「新入社員」がいます。
この過去は、非常に残念なことですが、「変えること」はできません。
胸が痛みます。
▼
今、緊急事態宣言が解除され、
この「時計の進度の遅れ」を取り戻すべく、様々な物事を再始動する動きがはじまっています。
それ自体は大変喜ばしいことです。
ただ、緊急事態宣言の解除を喜びつつも、一方で、
わたしは、あまり物事を性急にすすめ過ぎては、より深刻な問題を引き起こしかねない
ので注意が必要だな、と懸念しています。彼らには「慣らし運転」のような時間が必要なのかもしれません。
・
・
・
いや、気持ちは痛いほどわかるのです。
先生や人事・人材開発などの「学びを届ける側の論理」からすれば、
この間、「時計の針」がとまっていたんだし、
ただでさえ「時間がない」のだから、
とにかくとにかく、詰め込んで「時間を確保」したくなります。
僕だって、そう思います。
ついつい、トップギアにいれて、アクセル踏み込んで、ブッチギリたくなる(笑)??
しかし、今年、新たに学校や企業に入ってくるひとの声や、彼らと直面している人々の声を聞いていると、あることに気付かされます。
それは
今年の新入生、新入社員は「学び」や「働く」の「かなり手前」におり、心が、まだ追いついていないひともいる
ということです。
もちろん、すべてとは申しません(学びたくて学びたくて、働きたくて働きたくて、ウズウズしている剛の者もいます)。
▼
たとえば、新入生。
彼らは一度も学校の門をくぐったことがありません。
教師の顔も知らなければ、
生徒同士、顔もわからない子もいます。
休校が長かった場合には、6割ー7割の子どもの生活リズムは崩れています(後日発表します)。
なかには学びから遠ざかっていた子どもも少なくなく、まだ、リズムができていません。
そういう「学びのはるか手前」にいる新入生に、
「おまえらは、遅れてるんだ」
「とにかく、詰め込まなければならないんだ」
といったところで「ピンとこない」と思うのです。彼らには「慣らし運転」が必要です。
要するに、彼らのマインドが「学びのかなり手前」に置いてけぼりにされていて、心がついてこないのです。
いや、中には真面目な子どもも多いと思います。先日お会いした、ある学生は、こんなことをいっていました。
「さすがに数ヶ月の休校はやばい。でも、突然はじまっても、なんかソワソワする。学級も先生の顔も、誰が暮らすのひとなのかもわからないし・・・」
そのような子どもたちには、まずは「安心安全」や「つながり」を確保することが必要なのではないでしょうか。丁寧にホームルームをやったり、オリエンテーションをするところからだと思います。
そのうえで、彼らが、この間、どのような生活をして、どのような学びの現状にあるのかを確かめることから、話をスタートしなければならないのではないかと思います。
要するに「見守る時間」や「話を聞く時間」を丁寧にとったほうがいいように思うのです。
行きすぎた履修主義の徹底は、おそらく、かえってドロップアウトや心の問題を生み出す気がします。
▼
つぎに新入社員。
今年の新入社員のなかには、まだ会社に一度も行ったことのない方もいます。
彼らは会社の「におい」や「動き」を知りません。
部署とは何か? そもそも職場とは何かが見えていません。
なかには、職場のメンバーには「Zoomごし」でしか会えておらず、それもすべての人の名前が一致しないひともいます。ひとの背格好、雰囲気、人となりもわかりません。
一度も出社したこともないのに、会社のこともまったくわからないのに、給与が振り込まれることに戸惑っているひともいます。
リモートワークをするひとのなかには「孤独」にさいなまれるひともいらっしゃいますが、「職場がないひと」にとってのリモートワークの孤独感は、おそらく通常より高いものがあるでしょう。
要するに「働くことのはるか手前にいる」ような人もいるということです。
もちろん、すべてとは申しません。
しかし、仮にそれが「是」として、その彼らに、
「おまえら、2ヶ月間、自宅で研修受けてたんだろう。さっさと働け」
「おまえら、1ヶ月、自宅待機だったんだから、その分働け」
「Zoomで行う営業に同行しろ、とりあえずログインしといて、だまって見ておけ!」
といっても、おそらく「ピン」とこない人もいるのではないかと思います。
働きたいのだけれども、ここはどこ?
働きたいのだけれども、何からはじめればいいの?
働きたいのだけれども、誰に聞けばいいの?
というかたちではないかと思うのです。彼らには「慣らし運転期間」が必要です。
ですので、より丁寧なインストラクション、職場や所属長への紹介、OJT体制の強化が必要になります。より丁寧にフォローを行っていく体制を整えなければ、おそらく離職・メンタルなどの問題を生み出しかねないようにも思います。
いかがでしょうか?
▼
今日は、今年の「新入生、新入社員は「学び」や「働く」の「かなり手前」にいるので、丁寧にケアしなければならないのではないだろうか」というお話をさせていただきました。
休校期間があったことは、児童や学生のせいではありません。
また、
自宅待機時間があったことは、もちろん、新入社員のせいでもありません。
緊急事態宣言があけ、今年の新入生、新入社員に、急いで、学んだり、働いたりしてほしい気持ちはわかるけれども、あまりに「急ぎすぎる」と、そこにはリスクがあるかもしれません。
いつもよりも、丁寧に
いつもよりも、様子をみながら
少しずつ、しかし、着実に進めていくことが重要かもしれません。
とかく、彼らを迎え入れる側の「わたしたち」は
時間がないので「学ぶこと」から、話をはじめたくなります
時間がないので「働くこと」から、話をはじめたくなります
でも、もしかすると、相手は「かなり手前」の状況にいて、戸惑っているかもしれない。そのことを、心のどこかにとどめていただいても、おそらく損はしない、と思います。
そうすることで短期的には「進捗は遅くなった」としても、中長期には、より高い成果を残していくことにつながるのではないか、と思います。
あなたの目の前の学生たちは、心がついていっていますか?
あなたの会社の新入社員は「働くことのはるか手前」にいませんか?
そして人生はつづく
ーーー
新刊「サーベイフィードバック入門ーデータと対話で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」が好評発売中です。AMAZON人事・マネジメントカテゴリー1位を記録しました。組織調査を用いながら、いかに組織を改善・変革していくのかを論じた本です。従業員調査、HRテック、エンゲージメント調査、教学IRなど、組織調査にかかわる多くの人事担当者、現場の管理職の皆様にお読みいただきたい一冊です!
ーーー
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約25000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun
最新の記事
2024.12.28 09:58/ Jun
2024.12.25 10:57/ Jun
2024.12.8 12:46/ Jun
2024.12.2 08:54/ Jun