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2020.5.8 08:15/ Jun

オンラインのコミュニケーションには「あそび」や「隙間」がない!? : 合目的的なコミュニケーションを超えたところにある「相互のケア」!?

 オンライン会議、オンラインゼミというものは、非常に「合目的的な場」だと思います。
 オンラインでのコミュニケーションには「あそび」がない、と申しましょうか。そこに「隙間」がない。
   
 時間になったら、ポチッとクリックして、会議や授業に参加し、そこにはみんながいて、すぐに用意されている会議や授業がはじまる。
 用事が終われば「ミーティングを退出ボタン」を押す。突然、画面が消える。目の前には、モニタしかない。誰もいない。
  
 オンラインでの集いの場では、こちらが相当に「意図」しないと、なかなか、そこに「あそび」や「すきま」ができません。
 ここで「あそび」や「すきま」というのは、「とくに目的が定まらない、ひとびとのやりとりの時間」のことをさしています。
  
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 さて、それでは「あそび」や「隙間」とは、具体的には、どんなやりとりか?
  
 たとえば、会議が始まる5分くらいまえに、たまたま会議室にはやくはいってしまい、同じように、はやく着いたひとと、語るひと言、二言。
  
「林くんさ、最近、どうなの? 元気?」
  
 とか。
  
 たとえば、授業の合間に廊下でばったり学生とあって、交わすひと言、二言。
  
「お、久しぶり。元気そうだな。最近、なにやってんの?」
  
 とか。
  
 こういう、とくに「目的の定まらない、即興的な会話の機会」「とくに意図があって発している言葉ではないけれど、相手の状況がわかるようなやりとり」は、オンラインでは、なかなか生まれにくいのかな、と思います。
 逆にいうと、オンラインでは、そうした「合目的的ではないやりとり」を意図的につくらなければならないということになるのかな、と思います。そうしないと、コミュニケーションが「合目的的」で、つねにアウトプットを志向し、かつ生産的になりすぎる。
  
  ▼
  
 最近、最近の学部・大学院のゼミでは、敢えて、そうした「あそび」や「隙間」の時間を意図的につくったり、あるいは、ふとしたときに、なるべく学生やメンバーの近況を聞くようにしているつもりです。
  
 ときには、会議などがはじまる前に、ひとりずつ近況報告をしたりします。人数が多いので、学部や修士では無理ですが、大学院の博士ゼミなどはそうしています。
  
 学部ゼミなどでは、ブレークアウトセッションにはいったときに、「近況」を聞いたりします。修士は、今度、そうした場をつくりたいねという声が、スタッフからでてきています。
 
 あそびや隙間の時間・・・学生からは、いろんな声が聞こえてきます。
  
「学校にいけなくても、いつもは平気なんですけど、ときに、ちょっと寂しくなっちゃうんですよね。もう、このまま卒業しちゃうのかなって。もう、キャンパスには1度もいけずに、卒業になっちゃうかもしれないんだなって・・・」
  
「家にいるのは好きなんで、全然、気にならないですね。でも、家族で、こんなに長い時間を過ごすことは、もう人生でないんだろうなって思ったりもします」
  
「最近、ばててます。チームでの課題解決をやっているんですけど、オンラインでやった方が、めちゃくちゃハードワークになるんですよ。だって、いつだって暇ですから、誘いは断りにくい。終電もないんで、無限にミーティングできちゃうし、自分からは、もうやめようよ、とか言い出しにくい。切ったりしにくい。オンラインは、終わらせる理由がないんです。だから、ちょっと最近、疲れてるんです」
  
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 学生ごとに、今回の出来事がいろいろなかたちで「意味づけられていたり」、そこに「さまざまな感情」がわいていることがわかります。そのひとなりに、翻弄されたり、不安などを抱えたり、課題を抱えたりしていることも、わかります。
 今は、そういうものを「他者に吐き出していくこと」「相互に吐き出していくこと」も重要なのかなと思います。そうした場を、意図的にオンラインにもつくっていくことが必要だな、とも。
  
  ▼
  
 昨日は「当たり前が壊れた」というお話を、4年生の丹尾沙也花さんと久保田陸くんがしておりました。
 
 曰く、
 
 これまで自分たちが「当たり前」だと思っていたものは、実は「当たり前」ではなかった。
 自分たちの「当たり前」はあっという間に、壊れた。
 
 授業の合間にチャイムがなること
 昼食のときに友達とだべること
 飲み会の帰りに、酔っ払って歩く帰り道
  
 しかし、今は「当たり前が壊れたこと」を嘆いても仕方がない。このピンチをチャンスに変えて、前向きに動いて行くほかはない。
  
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 丹尾さんや久保田がいうように、自分の目の前にある「当たり前」は、いつ「当たり前」じゃなくなるかはわからない。
 だからこそ、「当たり前」が「当たり前」であるときには、時間を貴重にしなければならないのかな、なんて思いながら、僕は、話を聞いていました。
  
 なるほどな・・・
   
 当たり前が壊れたのか・・・。
   
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 コロナウィルスの感染拡大は、長期戦の様相を呈しています。
 僕の大学では、オンラインの授業がはじまって、おそらく昨日で5週目。
 もう一ヶ月くらい、この状況で、さまざまな授業や会議が行われています。
 そのことには、心から感謝をしています。これがあるおかげで、なんとか、学生やメンバーとつながれている。もし、これがなければ、それどころの話ではない。本当に学生が見えなくなってしまうのだと思うのです。
  
 今日は「オンラインでのひとびとのやりとり」について書きましたが、今、わたしたちにとれる選択肢は、そう多いわけではない。
 むしろ、この時代に、ネットがあったからこそ、何とか、ひとびとはオンラインでつながり合えている、のだとも思います。ですので、この状況には、とても感謝しています。
  
 しかし、オンラインには当然、不足するものもある。
 いいえ、オンラインでは、こちら側が意識してつくりあげていかなければならないコミュニケーションというものがあるような気がします。
  
 そのひとつが、おそらく、合目的的ではない人々のやりとりのなかに埋め込まれている「相互のケア」だったり、「不安の吐露」だったりするのかな、と思います。
  
 そうした機会を工夫してつくっていきたいな、と今日この頃です。
 いやー、忙しい! やること満載だわ(笑)
   
 大丈夫。
 明けない夜は、ない。
   
 そして人生はつづく
  
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