NAKAHARA-LAB.net

2020.3.30 09:12/ Jun

オンラインでのグループワークを活性化させる「問い」と「手続き」と「アウトプット」!? : 「ファシリテーション」よりも「めっこりした事前の打ち込み」で「沈黙お見合い」を避ける方法!?

オンラインでのグループワークは「問い」と「手続き」と「アウトプット」だけで、かなり良くなるのではないか?
  
オンラインでのグループワークは「しょぼい問い」と「もやっとした手続き」と「曖昧なアウトプットイメージ」だけで「世紀末」のような惨い常態に陥るのではないか?   
  ・
  ・
  ・
  
 4月新年度からはじまるオンライン授業の実施のため、今日も、明日も、試行錯誤が続いています。
  
 このところオンラインのことばかりネタにしていますが(もう飽きた??感想聞かせてください)、それはこの問題が、多くの教育機関にとって「喫緊の課題」になりうるからです。以下は、あくまで「僕の私見」ですが、それでもよろしければ読んでください。
  
  ▼
  
 なんせかんせ痛すぎるのは、今回のコロナウィルスの感染拡大は、「学び」にとってもっとも「礎」となるものに制限をかけている。
  
「学び」にとって最大の「礎」とは、
  
 人々が出会い、集い、話をすること
  
 です。
  
 人材開発・組織開発・リーダーシップ開発にとって「人々が出会い、集い、話をすること」は、「基本中の基」なのにもかかわらず、それが感染拡大の脅威から「やっちゃだめよ」「自粛してくださいよ」と言われてしまう可能性が極めて高いのです。
 
 そうした「基本の基」をフルに実現するのだとするならば、もう「オンラインで実現」と判断せざるをえない、ということになるのかな、と思うのです。
  
  ・
  ・
  ・
  
 もちろん、教室環境に人を集めて、それらを行うことも不可能なことではありません。
 しかし、その場合は、換気・手洗い・消毒・発熱管理等々を行うことに加えて、1)社会的距離を保つこと、2)話をしないこと、などが加わる可能性が高いと考えられます。
  
 つまり2メートル離れたところに先生がいて、生徒は距離をあけて座っているところで「一方向の講義」をすることしか、実質は、実現できない可能性が高いのではないか、と勘ぐってしまいます。
  
 しかし、感染拡大のリスクをしょってまで「一方向の講義」のために教室にひとを集めるのは、学ぶ側にとっては健康被害が生まれますし、教育機関側にとっても経営上のリスクをとらなければならないので、かなり厳しい。
 ならば、同様の効果があるとされているオンラインで授業実施ということの方がいいんじゃないか、という議論も当然生まれうる。
  
 あるいは、教室のなかで万が一、先生が感染していたり、学生のなかに感染者がでたら、ただちにその授業はどうなるか。どんなにオフラインで行っていても、すぐにオンラインで実施ということになりえます。
  
 授業は休講になってラッキーと考えるひともいるのかもしれませんが、所定の学習が実現できないのなら単位をだせません。
 もし万が一、授業が成立せずに単位が出せないことが続発すれば「授業が受けられない教育機関」ということになります。春学期で終わればまだマシですが、これが秋学期まで入ってしまえば・・・。学べない教育機関に新入生はくるんでしょうか・・・。
    
  ・
  ・
  ・
  
 つまり、もう「詰んでいる」のだと思います。
   
 オンラインか、オフラインか、という「ORの論理」ではない
  
 むしろ
  
 オンラインの学びを基本にしつつ、もし万が一希望が生まれれば、オフラインを実施できるかもしれない
  
 となるのかな、と思うのです。
  
 以上、あくまで私見でした。
  
 というわけで、個人的には、かなりの確率でフルオンラインの授業に試行錯誤するほかはないのだと思っています。僕も「腹をくくって」います。
  
 オンラインの授業をやりたくてやりたくて仕方がないわけじゃない(泣)。最近は、そんなにITに詳しくないし、ZOOMだってさわり始めたのは1ヶ月くらい前からです。やっぱり学生には会いたい。
  
 オンラインのネタばかりをブログに書きたいわけじゃない(泣)。いろんな研究のネタもあるので、その話もしたいのだけれども、今は、人々に届かない気がする。
    
  ・
  ・
  ・
  
 というわけで、自分の仕事をまっとうし、学生のためを考えるならば、少しでも、試行錯誤しよう、悪あがきをしようと思っています。
  
 そこで、毎日毎日、試行錯誤を繰り返しているので、オンラインネタばかりになる(笑)せっかく試行錯誤しているので、ぜひ「学びのおすそわけ」もさせていただきたいな、と(笑)。そこでモティベーションを高めようとしています。
  
 毎日毎日、この話題がつづきますが、どうか、もう少しだけ(希望的観測・・・)、お付き合いくださいませ。
  
  ▼
  
 今日は、ブレークアウトセッションについて考えてみました。
 ブレークアウトセッションとは、「大人数で行っている会議・授業を脱して、数人のグループにわかれて行われるグループワークセッション」のことです。
 
 ZOOMなどのツールでは、これをボタン1つで「パコーン」と行うことができます。
  
 でも、このブレークアウトセッション・・・何も考えずに「パコーン」とグループを分けてしまうと、まずうまくいきません。何が起こるか、というと・・・
  
 グループのなかに「沈黙のお見合い」が起こるのです
  
 これは中原ゼミのオンラインマニュアルにもまさに学生が指摘していました。
  
オンラインゼミ・チームビルディングの企画・運営マニュアルができました!:どなたでも無料でダウンロードいただけます!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11415
  
 グループに分けられたのはよいけれど、何を誰からしゃべっていいかがわからない。誰も司会をしないし、誰も話し始めない。しょっぱいムードが漂い「沈黙のお見合い状態」だけが永遠とつづく・・・。
  
 ということが起こりえます(笑)。
  
 これを防止するためには、すぐに「オンラインファシリテーションが必要だ」という話になりやすい。
  
 実質、そうしたものも生まれてきているようですが、学生が数百人いるような講義だと、そういうひとを要請することも難しい。
 また教員がオンラインでのファシリテーションを身につけても、個々のグループワークに、めっこりと入っていけるわけではない。
  
 しからば、オンラインファシリテーションもうまくいくのかもしれないけれども、それとは異なる、より簡便な方策で、グループワークを活性化したいと考えます。
  
 そこで試行錯誤。
  
 その結果ですが、僕は、オンライングループワークがうまくいくためには「問い」と「手続き」と「アウトプット」がクリアになれば、そこそこうまくいくと思います。
 オンラインファシリテーションがなくても、グループワークは活性化しそうだなと思いました。つまり「ファシリテーションには頼らずとも、グループワークに入る前の、事前のめっこりとした打ち込み(クリアな教示)」で課題解決ができるのではないか、ということです。
  
 つまり
  
1)グループに与える、脳をフル回転させる「問い」
  
2)どのように話し合いをするかという「クリアな手続き」
  
3)グループワークの最後に何を「成果」として残さなければならないのかという「アウトプットのイメージ」
  
 これらを、グループワークに別れるまえに「めっこり」と打ち込んでおけば、そこからは学習者にある程度任せていても、うまくいくような気がしています。
   
 上記3つに関する、より詳細な注意ポイントは下記のとおりです。
   
1)問い
   
・問いは「グッと考えさせる、シンプルなもの、ひとつ」にする。「〜について考察したあとで、〜についてまとめなさい」といった二つ以上の作業を含む者にしない
  
・「問いに対するアウトプット」を個人としてだすのか、グループとして出すのかを決める。
  
・アウトプットの際、どのように何分で、誰が、何を表現するのかも決める。たとえば「全体の授業に帰ってきたら、1分で、口頭で、司会者が、グループでまとめた答えを話してください」のようにクリアにする
  
・問いに関して、自分で考える時間を十分もたせたあとで、グループワークに持ち込むとよい。オンラインでのグループワークは、持ち寄りパーティである。
  
オンラインのチームワークは「持ち寄りパーティ」である?!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11395
  
  ▼
  
2)手続き
  
・「誕生日が1月に一番近いひとが司会者です。そのつぎに近い人はタイムキーパーです。話し合いの司会・タイムキーピングをしてください」といった具合に、司会者・タイムキーパーは指名しておく
  
・「誕生日が12月に一番近い人から、自分の意見をいってください」という風に、発言の順番も決めておく
  
・「グループワークでの発表は、司会者の方が行ってください」という風に、全体授業に戻ったあとでの発表者も決めておく
  
・ブレークアウトセッションでは「残り3分」で一度制限時間をグループに提示する。残り2分、1分、30秒は、司会者からチャットで各グループに提示する
  
・5分ないしは10分が限度。長いブレークアウトセッションにしない。それでも「お見合いになってしまったときのこと」を考えると短いくらいがちょうどよい。
  
・ZOOMの場合は「名前を変更し、きちんとした姓名」にさせると、グループワークのあいだ、お互いに呼びやすい。あだ名とかを避ける。
  
・グループワークでトラブルなどが生じたり、ZOOMが落ちた場合に、緊急で連絡がとれるような手段(LINE,Slack)などを「別チャネル」でもっておく
  
・1回の授業のなかでグループワークのメンバーをかえると、自己紹介などで時間がかかる。
(同じメンバーでいけるか、そうでないかは、状況によって異なる。沈黙お見合いが生じるグループが多い場合は、シャッフルもやむをえない)
  
・万が一グループワークが早く終わってしまったときには「追加の問い」として考えてほしいもの、話し合ってほしいもの、一応だしておく(使わないにこしたことはない)。話し合あいが終わってしまって、何もせずに、沈黙お見合いになってしまうことを避ける。
  
  ▼
  
3)アウトプット
  
・なるべくシンプルに、クリアに聴くことのできるアウトプットとする。1分以上、しゃべらせない
  
・アウトプットを紙とマジックで書いてもらい、それをそのままみせてプレゼンさせるのもよい。1分以上、しゃべらせない
  
 ・
 ・
 ・
  
 ここ数回の試行錯誤で僕が気がついたことは、こんなことでしょうか。ひたすら、リモートでツールを使い込んで、経験学習を重ねて言っています。
  
 ぜひ、皆さんのノウハウも足していってくださいね。そうしたものを共有しつつ、100年に1度の困難をみなで乗り越えることができたとしたら幸いです。

 ま、ちなみに、今日のノウハウは、オンラインでもオフラインでも、あんまり変わらないけどね。
 オンラインの方が、問題が顕在化しやすくなっているだけですね。
  
 そして人生はつづく
  
オンライン授業を楽しくするための「たったひとつの工夫」!? : アクティブティーチングのすすめ!?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11405
  
  ーーー
   
新刊「サーベイフィードバック入門ーデータと対話で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」が好評発売中です。AMAZON人事・マネジメントカテゴリー1位を記録しました。組織調査を用いながら、いかに組織を改善・変革していくのかを論じた本です。従業員調査、HRテック、エンゲージメント調査、教学IRなど、組織調査にかかわる多くの人事担当者、現場の管理職の皆様にお読みいただきたい一冊です!
   

  
 ーーー
  

    
「組織開発の探究」HRアワード2019書籍部門・最優秀賞を獲得させていただきました。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
   

  
 ーーー
    
【注目!:中原研究室記事のブログを好評配信中です!】
中原研究室のTwitterを運用しています。すでに約25000名の方々にご登録いただいております。Twitterでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記からフォローをお願いいたします。
   
中原淳研究室 Twitter(@nakaharajun)
https://twitter.com/nakaharajun

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.29 08:36/ Jun

大学時代が「二度」あれば!?

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?

2024.11.26 10:22/ Jun

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?