NAKAHARA-LAB.net

2005.8.3 00:36/ Jun

Learning cafe@Todai

 ちょうど今から1年くらいまえ、僕は、当時の日記で、こんなことを書いていました。僕がまだボストンにいたときの頃のことです。

 アメリカの大学、少なくとも僕がこれまで見聞きしていたMITやハーバード大学では- 「サービス」と「責務」をうまく使いこなしながら、大学経営を行っているように思うのです。要するに、どっちかを2者選択するのではない。要するに2分法をこえて、うまく両者の機能を両立させようとしているように見えるのです。
 ある場面では、知的資本を企業などに提供するかわりに、莫大な研究費を企業や外部団体から獲得する。あるいは、自らの智恵を「サービス」として切り売りする。これがサービスとしての側面ですね。
 その一方で、地域の人たちや、学問領域に関心のある人たちを巻き込んで、いろんなプロジェクトを立ち上げたり、フリーで議論に参加できる様々な機会を提供している。これが「責務」の側面。
 でも、ポイントは「責務」といっても、別に堅苦しくない。「エライ先生の議論を壇上から拝聴させていただきます」式のムサクルシイ会議ではなくて、そこにはCokeとAu Bon Painのサンドイッチがあって、それらをつまみながら、智恵を交換しあう場なんです。
 こちらにきて、僕はそうした場をつくっている研究者を何度も見てきました。彼らはファカルティとして人々の尊敬を集めていた。

 そして、このとき、僕は、そうしたコンヴィヴィアリティあふれる場を、日本でもつくりたい、と思っていました。
 —
 帰国直後に、あるメーリングリストではこんなことを言っています。
 

今回の米国滞在で、僕は大学のあり方についても考えさせられました。
 教育/学習のプライヴァタイゼーション(私事化)、市場化(この2つは戦後教育学の最大の課題だと思います)の流れの中で、図書館や大学といった施設は、ともすれば、その業務がすべて「サービス」と見なされやすいように思います。
 事実、僕が滞在したマサチューセッツ工科大学やハーヴァード大学では、片方で、企業や助成団体からたくさんの共同研究契約をむすび、あるいは、日本の5倍~6倍の授業料を学生から徴収して運営されています。教育のサービスとしての側面が、ここに見受けられます。
 しかし、一方で、これらの大学では、どのような人でも参加できる無料のセミナーやシンポジムが毎日のように開催されています。昼食がついているものもありますし、簡単なレセプションがあるものもあります。決して、堅苦しい場ではありません。ジーンズとTシャツで参加できます。要するに、公共の知のサロンを形成する、といった側面を大学が担おうとしています。

 —
 で、ようやくこれを、本日、自分の周囲で実現することができました。何とか「有言実行」をはたすことができました、ホッとしています。
 このblogでも話題にしているとおり、これから僕は「Learning cafe@Todai」「Learning bar@Todai」という研究会を、不定期で企画していきたいと思います。
 Learning Cafe@Todaiは、「ちょっと知的なプチ研究会風ランチ」です。これはお昼に開催されます。一方、Learning Bar@Todaiの方は、夜に開催します。軽くお酒とおつまみをだします。「お酒」をだすといっても、デロデログデングデンの暴言野郎はお断りですよ、、、いつもとは違う、知的な雰囲気で、お酒を嗜んでください。
 CafeやBarの企画は僕が行いますが、「主催元」は、そのときによって「中原研究室」であったり、「TREEプロジェクト」であったり、「BEAT講座」であったりすることが考えられます。それはテーマによって異なります。
 しかし、ランチや軽食を提供するために、いずれの場合でも「協賛者」として「NPO法人 EDUCE TECHNOLOGIES」がかかわることになりました。Educeは、もともと教育工学の研究者支援を、ミッションのひとつにかかげた組織です。今回の試みは、そのひとつになるだろう。代表理事の山内さんと話し合い、そのことを決定しました。
 ちなみに、Learning cafe、Learning barという名称は、上田先生のアイデアから、名前をお借りしています。「Forum」とか「Symposium」とかになっていないところがポイントです。
 Learning cafeやLearning Barは、エライ大先生が一方向的に行うレクチャーが行われる場所ではありません。また全然話のかみ合わないパネルディスカッションが行われるべき場所でもありません。
 というよりむしろ、「未来の学習」「未来の教育」に関心のある人々が話題を持ち寄る。それに従って、自由闊達に意見を述べあえる場です。だから、CafeとかBarということばを使っています。
 先にも述べたとおり、MITやHarvardでは、お昼時、そして夕方、非常にフランクに、人々が集まり、自由闊達な議論をしていました。ドーナツやワインを片手に、「未来の教育」を語るという行為自体が、とってもオシャレで、知的で、当時の僕は羨ましかった。
 ランチどきには「Learning Cafe@Todai」。そして夕方からは「Learning Bar@Todai」・・・本郷にて、いよいよ開店です。
 —
 さて、前置きが長くなりましたが、今日は「Learning Cafe@Todai」の初日でした。
 今日、プレゼンテーションをしてくれたのは、米国最大の教育NPOのひとつであるEducation Development Center(EDC)のイベッタ=タンさんです。彼女は、ハーバード教育大学院を卒業後、EDCで主に、「Online professional Development(オンラインでの教師の専門性向上)」プログラムの開発に従事していました。
 本日のレジュメはこちらのページから
 http://www.nakahara-lab.net/com.html
 本日の「Learning Cafe@Todai」には、東大教育企画室のスタッフ、コンサルタントの方々、eラーニングベンチャー企業の方々、大学職員、学生さん、某市の市議さんまで、多彩な人材があつまりました。今回はすべて英語で発表が行われたというのに、ウレシイ限りです。
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