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2020.2.15 11:04/ Jun

働き方改革を「熱量アゲアゲ・現場ポットンモデル」や「詰め込み・ポットン・祈るモデル」で行ってはいけない!:現場に「対話」を促すための「働き方見直し・ビデオ映像」大公開!

 働き方改革を「熱量アゲアゲ・現場ポットンモデル」や「詰め込み・ポットン・祈るモデル」で行ってはいけない!?
  
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 このところ、日本中の企業・組織において、働き方改革、いわゆる「長時間労働是正」のプロジェクトが進行しております。この社会課題、すでに「法制化」もなされているので、さらに広がっていくものと思われます。
 この社会課題に関しましては、これまで僕や僕の共同研究者のみなさんも、企業・学校とわず、様々なプロジェクトに関与させていただいてきて、いくつかの「経験値」を積み重ねてきました。今日は、その経験値の中から学んだ「教訓」をご紹介したいと思います。
  
 働き方改革の推進・・・そのプロジェクトを通して「僕たちが学んだ教訓」を端的に述べるのであれば、
 
 働き方改革を「熱量アゲアゲ・現場ポットンモデル」で行うともれなくコケる
  
 ということです。
  
 ここで「熱量アゲアゲ・現場ポットンモデル」というのは、
  
1.長時間労働の是正をおこなう主体を「管理職ひとり」と位置づけ
  
2.管理職を対象としたワンショットの研修・講演会を実施し、
  
3. 管理職だけに、知識とやる気(熱量)をもたせ
  
4.あとは現場にポットンして、
  
5.管理職のなかで、現場で実践をしてくれるひとがでてくるのを待つ
  
 という、世の中で行われている「典型的な働き方改革の研修」です。
   
 もうすこし抽象的にいうと、
   
 詰め込んで(Tsumekomi)
 ポットンして(Potton)
 祈る(Pray)
  
 といえるかもしれません。
    
 ワンショットの研修や講演会で、
 知識ややる気を詰め込んで(Tsumekomi)
  
 現場にポットンにして(Potton)
  
 成果がでることを神様に祈る(Pray)
 (笑)
      
 このモデル、わたしは「TPPモデル」と呼んでいますが、まず、このモデルで成功した働き方改革を、僕は、知りません。
 このモデルでは、おそらく研修転移(研修で学んだことが現場で実践されること)は起きないのではないか、と思うのです。
      
 なぜなら、管理職だけが熱量を帯びているこのモデルでは、現場(森)を動かせるだけのパワーを持ち得ないことが多いからです。
 どんなに熱量をもって管理職がかえっても、現場にかえれば、そんなことは1ミリも知らない「冷え冷え感」が現場に漂っています。現場にいる多くのひとびとに、「働き方」を変えなければならないことの意義、必要性を、しっかりと説明し、そこに共感がうまれないかぎり、現場は変わらないのです。
    
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 それじゃあ、どうするのか?
    
「管理職に対する研修」をドライバとして長時間労働の是正を行うならば(それ以外のやり方もありますが、このブログででは、ここに限定します)、下記の3点が必須となるのではないかと思います。僕や、僕の周囲の共同研究者たちが開発している方法は、下記の通りです。
   
1.管理職が「働き方改革」の意義を学び、現場で何らかの「実践」を行う、複数回からなるアクションラーニング型の研修とする
   
2.研修では、管理職には「武器」をわたす。
  
 2-1. 武器のひとつめは、現場を「見える化」し、サーベイフィードバックを実行するためのシステムである
  
 2-2. 武器のふたつめは、現場のひとびとに、働き方改革の意義と方法をつたえる映像である
  
3.現場の働き方の改革は、管理職がひとりでおこなうのではなく、彼/彼女にコアチームをつくってもらうことからはじめる
  
 3-1. 管理職には、現場のキーマンを集め、現場を動かす作戦を彼らと練ってもらい、サーベイフィードバックを現場で実施する
  
 3-2. 管理職と現場のキーマンで、サーベイでわかったデータをもとに現場に対話を促せたときのみ、効果がでる
  
 絵で描くと、こんな感じです。
   

   
 専門用語でいえば、
  
1. 管理職をチェンジエージェント(変革の中心人物)とした働き方改革のプロジェクトを組織してもらう
  
2. そのプロジェクトでは、サーベイフィードバック型の組織開発の手法を用いながら実施してもらう
  
3. 1と2をうまく組織化するアクションラーニング型の研修を実施する
  
 ということになりますね・・・。
  
 先ほどの絵で重要なのは「上段」では人材開発をしていて、「下段」では「組織開発」をしているということですね
   
 よき人材開発は、組織開発をともなう
 よき組織開発は、人材開発をともなう
   
 を地でいくようなデザインです。
 これは著書「組織開発の探究」で繰り返し申し上げていたことです。
  

  
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 このスタイルで、働き方改革に取り組んでいるのは、横浜市の小中学校の約80校です。
 3年前から横浜市教育委員会と立教大学中原淳研究室では、教員の働き方に関する共同研究をさせていただいておりましたが、その研究知見を「お届ける手段」として、今年度、高潮研修を実施させていただきました。
  
 具体的には、
     
1)今年度、横浜市の新任校長になられた先生方の学校(約80校)を対象としたアクションラーニング型の研修を実施させていただき
    
2)その研修を受講した校長先生方は、学校にかえったあとで、組織開発をしていただく
   
3)校長先生には、副校長先生、主任の先生方など学校のキーマンたちを巻き込み、
  
4)彼らをコアチームとしたサーベイフィードバック型の組織開発を実施し、
    
5)現場の先生方のご理解を得て、なるべく多くの方々を巻きこみ
  
6)学校ぐるみで「働き方」を見直すプロジェクトに従事していただく
   
 といったようなことを実行してきました。
    
 このプロジェクトは、横浜市教育委員会の山本朝彦さん、飯島靖敬さん、柳澤尚利さん、山内裕介さん、野口久美子さん、根本勝弘さん、立田順一さん(現・緑園西小学校)、外山英理さん(南吉田小学校)、松原雅俊さん(横浜国立大学)らと3年かけて企画し、大学側からは辻和洋さん(立教大学)、 町支大祐さん(帝京大学)などが中心になってすすめ、調査などには民間から飯村春薫さんにもご協力をえて、実施したものです。
     
 すでに知見の一部は「データからみる教師の働き方入門」として、町支大祐さん・辻和洋さんらが編者となって出版されております。
 今後の成果は、今後、町支大祐さん・辻和洋さんらが中心となって、論文化をさせていただくことになるのかなと思います。
  
  
  
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 「熱量アゲアゲ・現場ポットンモデル」いえいえ「TPPモデル」に陥ることなく、働き方の見直しを推進することー
 そのときに、わたしたちが、何より重視していることは何だったでしょうか?
    
 それは、
  
 校長先生を「丸腰」で現場にお返ししない、ということです
 校長先生には「武器」をお渡しして、変革のエージェントになっていただくこと
  
 を意図しました。
    
 わたしたちは、下記のように校長先生に使っていただける「2つの武器(ツール)」を用意しました。
    
1.学校の現在を「自動で見える化」する自動集計アンケートシステム
 三十問程度のサーベイで学校の今を「見える化」し、全市平均と直ちに比較することのできる自動集計システムです。教職員育成課の野口久美子さんが、素晴らしいマクロを組んで、それが、いまやWebのシステムにもなっています。校長先生が現場の先生に説明するときのパワーポイントも用意しました。こちらのパワーポイントに、自動集計アンケートシステムで得られた画像をコピペすれば、学校の見える化ができるようになっています。
   
2.研修からかえった校長先生が、今回の取り組みを説明するときに用いることのできるDVD映像教材
 こちらは、わずか10分の視聴で、本取り組みの意義を、研修に参加していなかった先生方でも理解することができるように編集されています。
   
 このうち2に関しては、横浜市教育委員会、また、昨年、トライアルのプロジェクトを実施させていただいた折本小学校の榮秀之先生のご厚意により、横浜市今日のYoutubeで公開されています。ぜひご覧いただければと思っております。
   

  
【先生の働き方をみんなで考えたい!】
(横浜市教育委員会・立教大学中原淳研究室共同研究にて開発)
   
 このビデオは、校長先生が現場のキーマンを組織するとき、ないしは、現場の先生方と意識あわせをするとき、場合によっては、保護者の皆さんに学校の現状をご理解いただくときに見てもらうように開発されたものです。子どもが、先生の働き方をレポートする、という方法で、わずか10分間で、働き方の改善方法を説明しています。「熱量アゲアゲ・現場ポットンモデル」に陥ることなく、現場で働き方について「対話」をうながすために開発された映像教材です。
  
 横浜市では、これらの映像教材やサーベイフィードバックを用いながら、働き方の見直しにお取り組みいただいておりますが、このやり方のエッセンスは、他の自治体、ないしは、企業等でも活用いただけるのではないかと思います。これを機会に、働き方の見直しが、日本全国でさらに進むことを心より願っております。
  
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 なお、このビデオの開発にあたっては、光学姉妹の大房潤一さん、大房明美さん、大房さんの弟子の夏目現さん( I was a Ballerina)にご協力いただき、横浜市教育委員会と立教大学中原研究室のメンバーで議論を行いながら、夏目さんに作成いただきました。
  
 すこしだけ、個人的な思いを述べさせていただくと、実は、僕の数々のプロジェクトでご一緒させていただいた、映像作家の大房潤一さんは、こののち、病で、この世を去られることになります。これが僕と大房さんとの最後の仕事になりました。病床につかれた大房さんは、最後の最後まで、クリエィティブでありつづけようとなさっていました。
 奥様によりますと、このプロジェクトのキックオフの会議のあと、大房さんは、ご自宅に帰られたあと「今日は、クリエィティブな話ができて、楽しかった」と言っておられたようです。この言葉を思い出すたび、僕は、涙があふれてとまりません。
  
 今回、このビデオが、Youtubeで公開されることになり、多くの方々の見ていただけるようになることは、非常に嬉しいことです。
  
 大房さん、天国から、見てますか?
 あのアイデアが、こんなかたちになりましたよ。
     
 また、いつか、プロジェクトでご一緒しましょうね。
   
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 今日は、「熱量アゲアゲ・現場ポットンモデル」や「TPPモデル」に陥らないように、働き方を見直すための方法を考えてみました。わたしたちの考えた人材開発、組織開発のやり方が、よいと思われるようでしたら、ぜひ、多くの現場で実践していただければと思います。今日は学校でお話をさせていただきましが、こちらの方法は、結局、民間企業でもまったく同じです。
  
 わたしたちも、辻さんや町支さんを中心にしながら、この成果を論文等にまとめていければと考えています。
  
 そして人生はつづく
  
  
  

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