2019.10.9 06:35/ Jun
最近の若者は、すぐに他人からの「フィードバック」を欲しがる。
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企業を回っておりますと、1年間に3000回くらい、こんな台詞を聞きます。
たいてい、この台詞を述べるのは、ちょっと疲れている管理職層(笑)。
最近の若者の行動を「面倒くさそうに」考えながら、この言葉を口にしているように見えます。
そして、たいてい、この言葉のあとに続く言葉は、これです。
「そりゃね、最近の若者は、承認欲求が強いせいですよ。だからフィードバックを欲しがるんです」
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なるほど。
僕は、そういうこともあるだろうな、と思いつつも、脳裏で、いつも、それとは別のことを考えています。
「本当に、そうかなぁ」
承認欲求とフィードバックの関係は、僕の研究分野ではないので、僕自身がデータを持っているわけではないですが、この話題の展開に、いつも「首をかしげ」てしまいます。
ここで承認欲求とは、端的にいえば「他者から認められて、自分を価値ある存在と意味づけたい願望」です。
最近の若者がフィードバックを欲しがるのは、承認欲求が強いせいなんだろうか?
どうも、僕には、この説明がピンときません。
フィードバックとは、「他者の目」を通じて「自分の今ここの状況」を、ポジティブな情報であっても、ネガティブな情報であっても、本人に通知することをいいます。
そう考えると「他者から認められて、自分を価値あるものと思いたい」という承認欲求は、ポジティブなフィードバックによって高まるかもしれませんが、ネガティブなフィードバックによっては、抑制されてしまうのではないでしょうか。
ですので、
最近の若者がフィードバックを欲しがるのは、承認欲求が強いせいである
という考えには、ただちに首肯できないのです。
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もし、
最近の若者は、すぐに「フィードバック」を欲しがる。
という命題が「是」だとして(比較研究があるわけではないので、この命題すら仮設です)、その理由を僕が述べるのだとすれば、頭に浮かぶワンワードは、「承認欲求」ではありません。
それは「不確実性」です。
不確実性とは、辞書を引きますと「先が読めないこと」「次に起こる出来事の生起確率が読めないこと」「当事者のコントロールを超えていること」などと書いてある場合が多いものです。
辞書のいずれの説明も成り立ちますが、
僕が思わず脳裏にイメージしてしまうのは、
不確実性とは「自分が乗っているちゃぶ台が、ユラユラと揺さぶられていること」
ではないか、ということです。
つまり、不確実性とは、
常に足下がユラユラし、地に足がつけられず、安定的にたっていられない状況
のようにイメージするのです。
そして、若者がフィードバックを欲しがるのは、社会のなかの、自らの立場が「不確実」であることを知っているから
ではないかと考えます。
自らのたっている足下が、つねにユラユラと揺れているために、「本当にこれでよいのか」「自分は正しくたっているのかどうか」を、他者の目を通じて、補正したいのではないか
と思うのです。
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かつて、ひところの若者は「右肩あがりで、ぐんぐん進む、大きなちゃぶ台」に乗って、人生を全うすることができました。
国は、常に右肩上がり。
企業は、大量生産で、やはり右肩あがり
若者は、目の前に差し出された、勉強をすればいい。
そうすれば、いい就職にありつける
いい就職にありつけば、一生安泰
目の前の仕事を、こなせばいい
60になれば定年
そこからあとは年金に頼ればいい
つまり、かつての若者は「大きなちゃぶ台」のなかで、やることは決まっていたのです。極端なことをいえば、「目の前に与えられたことを頑張ればいい」
そして「目の前に与えられたことを頑張りさえ」すれば、「大きなちゃぶ台」のなかで「不確実性とは無縁の人生」を送ることができた。
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しかし、いまや、そうした「大きなちゃぶ台」は失われている。
もう、若者が安定的に乗っていける「大きなちゃぶ台」はない。
「足下が多少グラグラしている、小さなちゃぶ台」はあるけれど、そこには、どうやら、皆が、最後まで乗っていけるわけではないらしい。
国は、順調に借金だらけ。
企業の先は見通せない
目の前の勉強をしてもいい
いい就職にありつけるかもしれない
しかし、
職についても
企業の先は見通せない
目の前の仕事をこなしてもいい
しかし、この仕事の先に何があるかはわからない「
そもそも終わりが見えない
定年は実質なくなりそう
年金も、それだけでは厳しいらしい
そういう「大きなちゃぶ台」が効力を失った「不確実性の高い時代」を生きているひとは、当然のことながら「ちゃぶ台にしがみつくこと」はできません。
「ほおっておいても、ぐんぐん進む、大きなちゃぶ台」は、いまや失われいる。かわりに「小さなちゃぶ台」はあるけれど、足下はグラグラで、そこに乗っていける人も限られている。
そういう不安定さのなかでは、常に、自分が「正しい」方向に向かっているのかどうかを、自らチェックしなければならない。油断をすれば、足下がグラグラなので「小さなちゃぶ台」からも振り落とされてしまうかもしれない。
だからこそ、若者はフィードバックを求めるのではないか、というのが、僕の仮説です。
自分がたっている地面に、このまま、たっていてもいいの?
その地面に、自分は、そもそも、正しく立っているの?
誰も、答えは、わからないのはわかっている。
でも、自分がどう見えているのかを、教えて欲しい。
だから、他人からのフィードバックを求める
もちろん仮説。
未検証ですが。
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今日は、若者がフィードバックを欲しがるのはなぜか?を、まったく謎だらけの「大きなちゃぶ台理論」で考えてみました。
この文章を書き始めたときは、「ちゃぶ台」は思いつかなかった(笑)。書きながら、「ちゃぶ台理論」を思いつきました。
一瞬、「ちゃぶ台」の部分は、人文諸科学ではおなじみの概念ー「大きな物語」と「小さな物語」という風に、リオタール風に書こうかなと思いました。が、わたしには、どうにもペダンティック(衒学的:学問的に目くらましをかますこと)すぎてやめました。
僕には「ちゃぶ台」が似合っている(笑)
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あなたのまわりの若者は、フィードバックを欲していますか?
あなたのまわりの若者は、大きなちゃぶ台に乗っていますか?
あなたのまわりの若者は、そもそも「ちゃぶ台」を信じていますか?
そして人生はつづく
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【立教経営ビジネスリーダーシッププログラムからのお知らせ】
舘野泰一先生が「立教大学ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査(統括責任者)」に新たに就任なさいました。
中原は、おおよそ2年で、このたび主査を退任し、2020年から開設される立教大学大学院の新コースを支える仕事(大学院・リーダーシップ開発コース主査)に新たに就任します。石川淳 専攻主任のもと、新コースの立ち上げに尽力させていただます。
学部BLP主査在任中は、様々なご協力・ご尽力をいいただきましたみなさまに、心より御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
立教経営にとって、「大学院新コース」と「BLP」は「両輪」だと思っています。また在任中に立ち上げた「データアナリティクスラボ」を加えれば、「大学院」と「BLP」と「データアナリティクスラボ」は、いわば、「三本の矢」とも形容できるでしょう。それらは相互に連携しあうことで、社会で活躍できる希望に満ちあふれた人材を、これまで以上に輩出できるものと思います。
立教BLPカンファレンス2019 新しい教育手法の評価とデータを活かした授業づくり
http://cob.rikkyo.ac.jp/blp/3612.html
わたしは、今後は、大学院からリーダーシップ開発のプロフェッショナルを生み出しつつ、BLPを応援していきたいと思います。 舘野先生のもとで、始動する「新たな立教BLP」を今後とも引き続きよろしくお願いいたします。
BLP新主査就任のご挨拶
http://cob.rikkyo.ac.jp/blp/3613.html?fbclid=IwAR0uCZpLf3rC-_cz-ptDDfRdaVQDp5CaFCTZRJZWk17K9KVAxPpkJ4C_y9c
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