2019.7.31 06:08/ Jun
「いや、こないだ管理職研修があってね・・・そのとき、ケースメソッドっていうのを、やったんですよ。何十枚もあるビジネスケースを読み込んで、講師の先生を中心に、みんなで自由闊達に議論するんです。
でも、この「自由闊達」ってのが、とんだ茶番でね。わたしも勇気をもって発言したら、講師の先生に【違う!】って言われちゃったんです。
他のひとも、発言したらね、先生の予想とは違う答えだったみたいで、【華麗なるスルー】をかまされましてね・・・。
結局ね・・・最初から「答え」は決まってるんですよ。やっているのは、ケースメソッドという名の【答えのあてっこ】です。とんだ茶番。
講師が【答え】をもっていて、それを【あてっこ】するなら、さっさと【答え】をふつーに教えりゃいいのに、と思います。最近は働き方改革で、ただでさえ時間がないんですから」
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ビジネス教育、管理職教育の現場では、よく「ケースメソッド教授法」というものが行われます。
ここでケースメソッド教授とは、
1.組織変革や事業創造などのビジネス事例が「読み物(ケース)」に仕立て上げられていたものを教材として
2.受講生同士がそれを読み込み、解釈した上で
3.授業当日は、講師を中心に受講生同士が議論し、
4.自分が「当事者」だとしたら、どのように意思決定を行うかを話し合うような教授法
をいいます。
一般には、ロースクールやビジネススクールなどの一部で、こうした授業がなされます。
一般に、リアルな社会では、あまり「意思決定の失敗」は許容されません。しかし、ケースメソッドでは「失敗は許容」されます。ケースを通じて「架空の事例」を丹念に読み込み、「他者の経験」から「代理学習」を行うことで、意思決定のトレーニングを行うことができます。
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しかし、このケースメソッド、いいところばかりではありません。
講師の先生には、高い授業力、蓄積された経験などが必要になります。数十人の学生に発問を行いながら、学んでもらうことをめざす、このメソッドでは、講師が一時的に「場の権限」を受講生に「預ける=手放すこと」が求められます。いや、高い授業力ともいうけど・・・本当の本当は「勇気」と「柔軟さ」かな。「恐怖」に打ち勝つ「勇気」と「柔軟さ」
場を受講生に委ね、手放すことは、慣れないうちは怖いものなんです。
そこに必要なのは、場を手放す勇気と、受講生から何がでてきても許容できる「柔軟さ」かもしれません。
そして、これに熟達するには、それなりの時間と経験を必要とするのです。
よって、巷には「ケースメソッド教授法」ならぬ「ケースメソッド教授法もどき」が闊歩することになります。
冒頭ご紹介した
発言したら「違う!」って言われる ケースメソッド
ケースメソッドという名の「答えのあてっこ」
ケースメソッドの最中に頻発する「華麗なるスルー」
は、その典型的な症状です。
要するに、講師は「ケースメソッド教授法」を実践しているようでいて、実は「ケースメソッド教授法」を行っていないのです。受講生にディスカッションをうながしているようでいて、自分が想定した答えをあてっこさせたり、そこに導いているだけ。
だったら、
さっさと【答え】をふつーに教えりゃいいのに・・・
と思ってしまいますよね。
ケースメソッド教授法なんて行わずに、さっさと、あんたが講義をすればいいのに、と。
その方が断然早い(笑)
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かつて、僕も、これまで多くの方々のケースメソッド教授法を受講させていただいてきて、中には、そのような思いを感じたことがあります。
さすがに、
発言したら「違う!」って言われる ケースメソッド
ケースメソッドという名の「答えのあてっこ」
ケースメソッドの最中に頻発する「華麗なるスルー」
は経験はしたことはないですが、たぶん、このケースメソッドには「筋書き」があるんだろうなくらいは思っていたような気がします。
今、現在、僕が仕事を御一緒させていただくなかで、もっとも、素晴らしいケースメソッドを実践なさる先生といえば、九州大学ビジネススクールの星野裕志先生です(星野先生とのご縁は、ヤフー常務の本間浩輔さんにいただきました!ありがとうございました!)。
先生には、僕が主宰している慶應丸の内シティキャンパスの授業「ラーニングイノベーション論」にもご出講いただき、そこで毎年学ばせていただくことを、僕自身がもっとも楽しみにしております。むしろ、僕は勝手に星野先生に「私淑」しているといっても、過言ではございません。先生のこと、先生の授業を、わたしは心からリスペクトしています。
僕が先生から学んだことは多々ありすぎて、ひとつ選べと言われても「リンダ困っちゃう」なのですが(笑)、たとえば、せんだっての授業で、先生は下記のようなことをおっしゃっていました。
「ケースメソッドは、考えるプロセスを学んでもらうんです。「出した答え」を記憶することが目的じゃないんです。講師は、流れをつくってはいけない。自分の答えに、はめてはいけない。もし自分の答えと違っていたら、実は、僕がだした答えとは、違っていたんですよねと、正直に受講生に言えばいい。そして、受講生と考えればいいのです。受講生を、自分の型にはめてはいけません。正直に誠実に授業をすればいいのです」
ICレコーダーを持っていたわけではございませんので、一言一句同じというわけにはいきませんが、僕は、この言葉の深さに唸ってしまいます。
もし自分の答えが違っていたら、受講生に正直に誠実に「自分の答えは皆さんのものとは違った」と、僕は言えるだろうか。
そして、そのうえで、ともに受講生と考えることができるのだろうか。
僕は、そこまで授業で、誠実にいられただろうか?
マリアナ海溝なみに、深いぞ(笑)。
ケースメソッドは。
いつも真摯で優しい星野先生は、楽しそうに授業をなさいます。
鳥のように自由に教室を動き、受講生を巻き込んでいきます。
星野先生、僕、精進します。
またいろいろ教えてください。
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今日は、ケースメソッド教授法について書かせていただきました。ケースメソッドは、企業研修やビジネススクールでの教育にも広がりをみせているので、どこかで遭遇した方もいらっしゃるかもしれませんね。皆さんは、どのようなケースメソッドを経験なさってきましたか?
あなたの周囲には、発言したら「違う!」って言われるケースメソッドがありませんか?
あなたの周囲では、ケースメソッドという名の「答えのあてっこ」が行われていませんか?
あなたの経験するケースメソッドでは、「華麗なるスルー」が頻発していませんか?
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あなたはケースメソッドで「考えるプロセス」を学べていますか?
そして人生はつづく
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