2019.7.26 06:47/ Jun
※7月29日はブログを休止させていただきます。土曜日の大学院説明会・日曜日のビジネスリーダーシッププログラムのサマーキャンプと、ともに走り抜けました。7月30日から再開させていただきます!
「あなたのチーム」は「関係性の罠」にはまって、言いたいことがいえず、創造性を失っていませんか?
・
・
・
「関係性の罠」は、立教大学で兼任講師をつとめ、また自らもコンサルティングファーム(ポラリスパートナーズ)を経営なさっている留岡一美先生の造語です。
ポラリスパートナーズ(留岡先生)
http://www.polaris-partner.com/about.html
留岡先生におかれましては、2年生向けのリーダーシップ教育プログラム(BL2)で大変熱心にご指導をいただき、心より感謝しております(ありがとうございます・・・学生から、よく留岡先生のご指導が熱意にあふれ、素晴らしいという話題をうかがっておりました)。
以下、留岡先生の知性と慧眼に最大の敬意を表し、せんだって、留岡先生からうかがった「関係性の罠」について、お話をさせていただきたいと思っております。
▼
さて、留岡先生がおつくりになった「関係性の罠」という造語は、世の中でよく知られている「ある概念」に「警鐘」をならすべく提案なさったものだと思います。
それは「関係の質」という概念です。
「関係の質」の概念は、ダニエル・キムさんという方のつくられた「成功の循環モデル」というもののなかに含まれるものです。「成功の循環モデル」は、人事界隈では、よく引用されるサイクル論です(学術論文で、このサイクルが述べられることはまずありません・・・実務界ではよく用いられます・・・出所は知りません。モデルが実証されていることも、僕は見たことはありません)。チームで成功をめるためには、下記の4要素、とりわけ「関係の質」を高めることが重要だとされます。
要するに「チームで成功をおさめたい」のであれば、まずはチームメンバー間の「関係の質」を高めなければならない、ということですね。そうすれば、チームメンバーの「思考の質」が変わり、ひいては「行動の質」も変わるので、「成果もでるがな(成果の質)」というお話です。
かくして、このモデルの広がりによって、巷では「関係の質」を高めるための、研修、組織開発、チームビルディング手段が提案され、消費されるようになりました。要するに、「チームのメンバー同士が知り合い、仲良くなるための機会」が、研修やワークショップとしてつくられ、多くの職場で消費されているのです。もちろん、チームでの課題解決に信頼関係や相互理解は、必要であることは言うまでもありません。
しかし、一方で、ここで留岡先生が問題提起なさっているのは、この「サイクル」がとりわけ日本においては「罠」として機能しかねないこともあるのではないか、ということでしょう。
すなわち「関係の質」を高めるということで「メンバーが仲良くなるだけ」が志向されてしまうと、そこに「メンバー間の同調圧力」が駆動し始め、「言いたいことが言い合えない」雰囲気になってしまう。これが「関係性の罠」です。
本来ならば、メンバー間に「仲が良いこと」にくわえて、「言いたいことを言い合えること」が「関係の質」として定式化されなければならない。しかし「関係の質」の概念が、イコール、「仲がよいこと」としてだけ定式化されはじめると、言いたいことがいいあえず、かえって思考の質が高まらず、創造性が失われるのではないだろうか。
妄想力を高めて、このバッドサイクルを定式化してみれば、下記のようになるのでしょうか。
いかがでしょうか?
あなたのチームは「関係性の罠」にどっぷりハマっていませんか?
「関係の質」を高める研修を受けて、「関係の質牧場」のようになっている組織の話を、最近、よく伺います。
「関係の質牧場」では「関係の質」研修のおかげで、「青空快晴で、羊がめぇめぇと平和に鳴いている」ような状況が生まれている(笑)。
あなたのチームは「関係の質牧場」のようになっていませんか?
めぇめぇ。
▼
今日は「関係性の罠」という留岡先生のお言葉をきっかけに、「関係の質」という概念の本質について考えてみました。
この概念の本質を考える上で、さけて通れないのは、この概念が提唱された社会・文化的背景です。
この概念はアメリカ生まれの概念です。
「関係の質」は、いわゆる「個人主義」が台頭し、ひとを集めても、テンデバラバラで、なかなかまとまらないアメリカ社会「だからこそ」生まれたとはいえないでしょうか。人を集めても、テンデバラバラで、個人が言いたいことをガシガシ言い合う(スピークアップ)する社会だからこそ、「関係の質を高めなさい!」ということで「少しは相手本位に考えなさいな」「空気読みなさいな」というメッセージが「意味がある」のだと思います。
ひるがえって、日本の場合はどうでしょうか?
いわゆる「集団主義」が比較的強く、メンバー間の多様性もアメリカほど高くない社会では、「関係の質」を高めようとすると、かえってメンバー間に同調圧力がはたらき「スピークアップすること(Speak up:声をあげること)」から遠ざかってしまうということがありえるのだと思います。それが「関係性の罠」でしょう。
・
・
・
人事界隈では「洋モノ」の概念が、いつも、とってつけたように輸入されます。しかし、「概念」には、それが生まれた「社会的文脈・文化的文脈」がございます。
これは、かつて増田弥生さん(元・ナイキ)がおっしゃっていた「たとえ」ですが、かつて明治時代、日本の欧米使節団が「欧米の水道システム」を視察したときの話です。その際、日本の使節団のひとりは「欧米の水道システム」があまりに素晴らしいので、「水道の蛇口」ばかりを大量に購入してきたことがあるそうです。でも、「水道の蛇口」だけを「輸入」してきても、水道の水が日本で利用できるわけではありません。
こうした「蛇口の輸入」が、明治、昭和、平成、令和と、いまだに止まりません。
・
・
・
「あなたのチーム」は「関係性の罠」にはまって、言いたいことがいえず、創造性を失っていませんか?
「あなたのチーム」は「関係の質牧場」のようになっていませんか?
そして人生はつづく
ーーー
■関連記事
「心理的安全バブル」にご注意を!! : 心理的安全とは「チームで仲良くぬるま湯につかること」ではない!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10487
あなたの組織は「モチ」ですか「オムスビ」ですか「チャーハン」ですか「米不足」ですか?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9597
ーーー
【〆切間近:全国からポスターセッションぞくぞく!】2019年8月21日(水曜日)ー22日(木曜日)「マナビフェス2019」が開催されます。「マナビフェス」は「2030年の学びのあり方」を考え、アクションを起こしていこうと考える方々が、全国から1000名規模でお集まりいただく「フェス」となります。第一線を走る研究者や実践者の方々が「教育や学びのあり方」を考えるための「最先端の知識」をおしげもなく披露してくれます。また100名以上が集まるポスターセッションもございます。2日間で最先端まで理解を深めませんか?
【マナビフェス2019お申し込みサイト】
https://be-a-learner.com/manabifes/2019/
ーーー
新刊「未来を語る高校が生き残る」・・・2020年の大学入試改革、2022年の新学習指導要領改訂。社会をきりひらく人材を育成するために、高校・大学・企業に何ができるか? アクティブラーニング、カリキュラムマネジメント、そして「未来を語ること」。「未来を語ること」を通した学校づくりを提唱する中原研究室×河合塾×JCERIの研究の最新知見です。どうぞご笑覧ください。村松灯、渡邊優子編著、中原淳監修、学事出版さんからの出版です。
ーーー
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・ラーニングエージェンシー著)が重版出来!1万部突破です!AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました!。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
「育児は仕事の役に立つーワンオペ育児からチーム育児へ」(浜屋祐子、中原淳著 光文社新書)、AMAZONカテゴリー1位(光文社新書)、経営学カテゴリー2位を記録しました。育児と仕事の良好な関係、ワンオペ育児を乗り越え、チーム育児に転換していくヒントがあふれる書籍です。浜屋祐子さんの修士論文の知見をモティーフにした、育児の科学。どうぞご笑覧くださいませ。
ーーー
新刊「データから考える教師の働き方入門」(辻和洋・町支大介編著、中原淳監修)好評発売中です。1日の労働時間が約12時間におよぶ、先生方。その働き方を見直し、いかに持続可能な職場をつくりだすのか、を考えます。「サーベイフィードバック方の組織開発を応用した働き方改革」の事例として、教育機関以外の組織でも応用可能です。どうぞご笑覧くださいませ
ーーー
新刊「残業学」重版出来、6刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・ラーニングエージェンシー 旧:トーマツイノベーション著)が重版出来!1万部突破です!AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました!。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
ーーー
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約11000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
最新の記事
2024.12.25 10:57/ Jun
2024.12.8 12:46/ Jun
2024.12.2 08:54/ Jun
2024.11.29 08:36/ Jun