NAKAHARA-LAB.net

2019.6.28 06:29/ Jun

人材開発・組織開発の知識・スキルは、将来、本当に役立つんですか?

 人材開発・組織開発を学んだひとは、社会でどのように活躍しうるのか?
   
  ・
  ・
  ・
  
 以前、僕は、このブログで、こんな記事を書いたことがあります。
  
将来、人材開発・組織開発の仕事をしていきたい学生は、いったい、どういうキャリアを積めばいいのか?
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/10330
  
 初代・3年生のゼミ生も、そろそろ就活(正確にはインターン)。
 いやがおうでも、早期化している就活に巻き込まれるひとも出てきています。ゼミ生のなかには、「ひとと組織」の仕事に従事したいひともいる。
  
 そんななか、せんだっての記事では、
  
「将来的には、人材開発・組織開発の仕事をしていきたいのですが・・・」
  
 という彼らがもつ「素朴な問い」に対して、なんと答えようものかと、ときに逡巡する自分がいる、というお話でした。
  
 僕としては、
  
1.ひとと組織の知識は役立つ
  
2.ひとと組織の仕事にすぐに従事しなくても、現場で事業を行えば、必ずラストワンマイルで「で、誰がやるの?」という話になり、「どういう体制をつくる」という話題になる。つまり、ビジネスをするのなら、「ひとと組織」の話題は、避けて通れない
  
3.結論:やっぱりひとと組織の知識は役立つ、以上
  
 という持論をもっています。
 皆様は、いかが思われますか?
  
  ▼
  
 これに関して、せんだって、非常に興味深いやりとりを学部生といたしました。
  
 曰く(ICレコーダーを持っていたわけではないので要約します)、
  
 わたしは「ひとと組織」に興味があります。でも、英語とか、データ分析とか、そういうハードな分野と違って、「ひとと組織」の知識やスキルって「ソフト」に感じるんです。そもそも計れないし、わかりにくい。
  
 まことに面白いですね。
  
 要するに
  
 英語・データ分析の知識・スキル=ハードスキル
 ひとと組織の知識・スキル=ソフトスキル
  
 という分類が成立するのではないか、ということですね。
 素晴らしい。
  
 確かに・・・そうだねぇ。
  
 たしかに、そういう分け方をすれば、ひとと組織の知識やスキルは「ソフト」なのかもしれない。「ひとと組織検定」があるわけではないし、点数もつきにくい。「ソフト」だから、本当に役立つのかな、と不安に思ってしまう、ということですよね。
  
  ▼
  
 ハード、ソフトという分け方は面白いなと思いつつ、「あまのじゃく・中原」としては、一方で、こういう反論も可能かな、と思ったりします。
  
 英語・データ分析の能力は、テクノロジーが進展してしまえば、もしかすると、機械・人工知能との役割分担がおきやすい領域かもしれない。「計れる」ということは「数値にできる」ということであり、「数値にできる」ということは「コンピュータが操作可能である」とも考えられる。
  
 実際に自動翻訳や、データ解析の自動化は、日進月歩で進んでいる。
  
 一方、「ひとと組織の知識・スキル」は、それが比較的難しい領域かもしれない。
  
 あなたが、どのようなことがきっかけでモティベーションをもつのか、学び出すのか?
 あなたが、他者に影響力を及ぼすためには、何をしなければならないのか?
 あなたが自分らしさをいかしながら、チームに貢献する方法はなんなのか?
 あなたが、チームを立て直すためには、どのように組織開発をするのか?
 あなたは、人生100年時代に、どのように働き、どのように学ぶのか?
  
 は、あなたしか、知りようがないことだから。それは試行錯誤のなかでリフレクションすることで、あなた自身が学び出すしかないことだから。ちなみに、僕のゼミ(3年生)の授業の終わりは、どんなことを学ぼうとも、いつも同じです。
  
 「で、君たちは、どう生きるの?」
    
 だから、ちょっとだけ「思考実験」をすると、
  
 ひとと組織の知識・スキル=「ソフトスキル」
  
 という分類もなりたつかもしれないけど、
  
 ひとと組織の知識・スキル=「パーマネントスキル」
 (パーマネント=永久のスキル=ひとと組織があるかぎり、永久に役立つ知識)
  
 という考え方もできるかもよ。

 だから、この世に「ひとと組織」があるかぎり、「ひとと組織の知識・スキル」は「永久(パーマネント)」に役立つかもよ。
 ちなみに、これは、せんだって、南山大学で開催されたワークショップで、コリガン先生がおっしゃっていたこと。いいことおっしゃいますよね(たぶん・・・英語だったので、僕のヒアリング能力が腐っていなければ)。
   
 ま、僕としては、ソフトだろうが、パーマネントだろうが、どっちでもいいけど(笑)
 英語も、データ分析も大切。
 しっかり学ぼうね(笑)。
  
  ▼
  
 今日は「ひとと組織」の知識・スキルは、いかに役立つのか、ということで、ちょっとだけ思考実験をしました。僕としては、どの領域も重要だと思っているし、役だ立たないから学ばない、というのはどうかと思っています。むしろ、自分が興味をもつ領域ならば、「他人が役立つといおうが、いわまい」が「好きになさいな」というのが本音です。
  
 たった一度の学生時代
 お好きになさいな
  
 でも、「たった一度の学生時代」だからこそ、将来に役立てるものを学びたい。自分の能力やキャリアをたかめたい、という気持ちも痛いほどわかる。
  
 というわけで、
  
 ひとと組織の知識・スキル=「パーマネントスキル」ぢゃい
  
 てな感じで、ケツをまくってみましたが、どうでしょうね。
 ま、僕としては、どっちでもいいんだけどね(笑)
  
 目の前にある
 自分のやるべきことを
 今、やるだけ
  
 ひとと組織の知識・スキルは、本当に将来役立つんですか?
  
 そして人生はつづく
  
  ーーー
   
2019年8月21日(水曜日)ー22日(木曜日)「マナビフェス2019」が開催されます。「マナビフェス」は「2030年の学びのあり方」を考え、アクションを起こしていこうと考える方々が、全国から1000名規模でお集まりいただく「フェス」となります。第一線を走る研究者や実践者の方々が「教育や学びのあり方」を考えるための「最先端の知識」をおしげもなく披露してくれます。また100名以上が集まるポスターセッションもございます。2日間で最先端まで理解を深めませんか?
  

  
【マナビフェス2019お申し込みサイト】
https://be-a-learner.com/manabifes/2019/
  
  ーーー
  
新刊「未来を語る高校が生き残る」・・・2020年の大学入試改革、2022年の新学習指導要領改訂。社会をきりひらく人材を育成するために、高校・大学・企業に何ができるか? アクティブラーニング、カリキュラムマネジメント、そして「未来を語ること」。「未来を語ること」を通した学校づくりを提唱する中原研究室×河合塾×JCERIの研究の最新知見です。どうぞご笑覧ください。村松灯、渡邊優子編著、中原淳監修、学事出版さんからの出版です。
  
 
   
  ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・ラーニングエージェンシー著)が重版出来!1万部突破です!AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました!。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
    

   
  ーーー
  
「育児は仕事の役に立つーワンオペ育児からチーム育児へ」(浜屋祐子、中原淳著 光文社新書)、AMAZONカテゴリー1位(光文社新書)、経営学カテゴリー2位を記録しました。育児と仕事の良好な関係、ワンオペ育児を乗り越え、チーム育児に転換していくヒントがあふれる書籍です。浜屋祐子さんの修士論文の知見をモティーフにした、育児の科学。どうぞご笑覧くださいませ。
   

  
  ーーー
     
新刊「データから考える教師の働き方入門」(辻和洋・町支大介編著、中原淳監修)好評発売中です。1日の労働時間が約12時間におよぶ、先生方。その働き方を見直し、いかに持続可能な職場をつくりだすのか、を考えます。「サーベイフィードバック方の組織開発を応用した働き方改革」の事例として、教育機関以外の組織でも応用可能です。どうぞご笑覧くださいませ
    

   
  ーーー
    
新刊「残業学」重版出来、6刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・ラーニングエージェンシー 旧:トーマツイノベーション著)が重版出来!1万部突破です!AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」を記録しました!。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
  
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

  
 ーーー
   
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約11000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
   
友だち追加
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.29 08:36/ Jun

大学時代が「二度」あれば!?

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?

2024.11.26 10:22/ Jun

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?