NAKAHARA-LAB.net

2019.2.13 06:53/ Jun

「うちの社員はしゃべらない」のではなく「しゃべらせない何か」が組織にあるだけ!?

「事実をありのままに言えですって!・・・そんなことは、たぶん大きな町全体を見渡したって、日に二度も起こっていやしませんよ。それに話を聞く方だって、話し手より機嫌がいいとは限らないでしょう。
   
だから、話したとおりに聞いてもらえるっていうことも、大きな町全体を見渡したって、日に二度あるやなしやってことになるのです」
  
(ディドロ(1984)「宿命論者ジャックと主人」より引用)

  
 ・
 ・
 ・
  
 大きな町を見渡しても、「話したとおりに聞いてもらえるひと」は、この世には、そう多くはない。
  
 人材開発などの「ひとと組織」にまつわる分野で仕事をしておりますと、研究の傍ら、研修やワークショップに登壇する機会が与えられることがあります。
 僕の行う研修では、僕が一方向にレクチャーするのは、たいてい全体の3分の1くらい。残りの3分の2は、参加者の皆さんがディスカッションをしたり、相互にヒアリングをしたりします。
  
 登壇する前に、時折、人事関係者の方がよくおっしゃる「ひと言」があります。
  
「先生、うちの社員は、あまりしゃべらないと思います。研修では、いつも、しゃべらなくて困っているのです。ちょっと苦労するかも知れませんが、よろしくお願いします」
  
 かくして、研修やワークショップがスタートします。
  
  ▼
  
 もちろんのことですが、研修は、いきなりディスカッションやヒアリングには「入りません」
  
1.今日の研修の目的は何か?
  
2.なぜ、わたしたちはここにいるのか?
  
3.この研修はディスカッションやヒアリングをするけれども、なぜそれをするのか?
  
4.情報発信をするときのポイントと、やってはいけないことは何か?
  
5.情報の受け手に期待されていることは何か?
 
 実際のディスカッションやヒアリングに入る「前」までに、研修全体の目的をおさらいし、「なぜ、ここに自分たちがいるのか」をしっかり打ち込みます。
 そのうえで、ディスカッションやヒアリングなどで留意したらいいこと、何を目指すのかという目的などをしっかりと伝えます。
 参加者のなかに、「今日は何を話してもOKなんだ」という雰囲気を少しずつ少しずつつくっていきます。誰かが情報を発したら、しっかり「聞ききること」を実践していきます。
  
 そうすると・・・
  
「あまりしゃべらない」とか「いつもしゃべらない」とか言われていた社員の皆さんが、少しずつ口をひらきはじめ、最後の最後には、時間が足りなくなる状態になることがほとんどです。時間が来ても、しゃべることをやめようとしない。多くの方々が、誰かに何かをお話ししています。
  
 つまり、多くの場合・・・
  
「うちの社員がしゃべらない」のではない
  
 のです

  
「社員をしゃべらせない状態にしている何か」が社内にあるだけ
  
 あるいは
  
「うちの社員の話を、聞き切るひと」が社内にいないだけ
  
 かもしれません
  
 たいてい研修やワークショップの後日アンケートには、こんなひと言が書いてあります。
  
「社内のひとと、こんなに話せたことはない」
「今日は、話せてよかった」
  
 もちろん、多忙を極める現代社会においては「話したとおりに聞いてもらえること」は、そう多くはないかもしれません。組織論的に考えるのであれば、官僚制の組織において、コミュニケーションとは「取引コスト」に他なりません。無駄口を叩いているくらいなら、仕事をせよ、という話になります。
  
 しかし、「うちの社員はしゃべらない」と決めつける前に、まだできることがあるように思います。
  
 多くの人々には、誰かに聞いてもらいたい「ストーリー」がある
  
 のですから。
 
 人材開発は、まずは、そこを信じましょう。
  
  ▼

 今日は、「話を聞くこと」について書きました。「誰もが、本当は、語りたいストーリーをもっている」。誰かに聞いて欲しい話がある。
  
 あなたには、誰かに聞いて欲しい話がありますか?
 最近、あなたは、誰かの話にきっちり耳を傾けていますか?
  
 そして人生はつづく
  
 ーーー
  
新刊「残業学」重版出来、5刷決定です!(心より感謝です)。AMAZONの各カテゴリーで1位を記録しました(会社経営、マネジメント・人材管理・労働問題)。長時間労働はなぜ起こるのか? 長時間労働をいかに抑制すればいいのか? 大規模調査から、長時間労働の実態や抑制策を明らかにします。大学・大学院の講義調で語りかけられるように書いてありますので、わかりやすいと思います。どうぞご笑覧くださいませ!
  

 
 ーーー
  
新刊「女性の視点で見直す人材育成」(中原淳・トーマツイノベーション著)が、ついに刊行になりました。AMAZONカテゴリー1位「企業革新」「女性と仕事」。女性のキャリアや働くことを主題にしつつ、究極的には「誰もが働きやすい職場をつくること」を論じている書籍です。7000名を超える大規模調査からわかった、長くいきいきと働きやすい職場とは何でしょうか? 平易な表現をめざした一般書で、どなたでもお読みいただけます。どうぞご笑覧くださいませ!
  

 
 ーーー
   
新刊「組織開発の探究」発売中、重版4刷決定しました!AMAZONカテゴリー1位「マネジメント・人事管理」を獲得しています。「よき人材開発は組織開発とともにある」「よき組織開発は人材開発とともにある」・・・組織開発と人材開発の「未来」を学ぶことができます。理論・歴史・思想からはじまり、5社の企業事例まで収録しています。この1冊で「組織開発」がわかります。どうぞご笑覧くださいませ!
  

 
 ーーー
  
【注目!:中原研究室のLINEを好評運用中です!】
中原研究室のLINEを運用しています。すでに約10000名の方々にご登録いただいております(もう少しで1万人!)。LINEでも、ブログ更新情報、イベント開催情報を通知させていただきます。もしよろしければ、下記のボタンからご登録をお願いいたします!QRコードでも登録できます! LINEをご利用の方は、ぜひご活用くださいませ!
  
友だち追加
  

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2024.12.8 12:46/ Jun

中原のフィードバックの切れ味など「石包丁レベル」!?:社会のなかで「も」学べ!

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:54/ Jun

なぜ「グダグダなシンポジウム」は安易に生まれてしまうのか?

2024.12.2 08:12/ Jun

【無料カンファレンス・オンライン・参加者募集】AIが「答え」を教えてくれて、デジタルが「当たり前」の時代に、学生に何を教えればいいんだろう?:「AIと教育」の最前線+次期学習教育課程の論点

2024.11.29 08:36/ Jun

大学時代が「二度」あれば!?

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?

2024.11.26 10:22/ Jun

「人事界隈」にあふれる二項対立図式の議論は、たいてい「不毛」!?