2018.8.3 07:15/ Jun
先日初稿の校正を終えた原稿に「組織開発の探究ー人材開発とのシナジーをめざして(仮題)」という本があります。南山大学の中村和彦先生との共著で、おそらく10月3日頃にはダイヤモンド社さんから新刊発売になると思います。
組織開発や人材開発を支える思想、その発展の歴史、理論、そして実践事例をまとめた本で、400ページくらいの大著です。編集チームは、いつものように井上さんと間杉さん。今、原稿はダイヤモンド社の編集者・間杉俊彦さんのところで編集がなされていると思われます(お疲れ様でございます)。
みなさま、どうぞお楽しみに!
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ところで、この本で、僕と中村先生は、「組織開発の100年の思想と歴史を紐解く」ということにチャレンジしていきました。詳細は、本をお読みいただければと思うのですが、個人的には「組織開発の歴史」を子細に見つめていると、いくつかの事柄に気づかされます。
この大枠は、以前、僕が南山大学の中村和彦先生から依頼をうけ、同大学で行わせていただいた講演録に収録されています。書籍では、さらにこれらを深掘りしています。
中原淳(2017)「組織開発」再考ー理論的系譜と実践現場のリアルから考える. 人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要), 16, pp211‑273
https://www.ic.nanzan-u.ac.jp/NINKAN/kanko/bulletin16.html
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組織開発の歴史をたぐり寄せてみて、まず気づくこと。
それは、
組織開発には「いいときも、悪いときもあった」
ということです。
ここで「いいとき、悪いとき」というのは、「比喩」に他なりません。
要するに、組織開発には「脚光を浴びてHR業界のスターダムにのしあがる時期」もあれば、「ぺんぺん草もはえないような荒地」をひとりトボトボ歩くような時もあった。対して、人材開発には、あまりそのような「浮き沈み」がありません。僕は、このことにまず気づきました。
それでは、次にわたしたちが考えなくてはならない問いは、こうです。
なぜ、組織開発には「浮き沈み」が存在するのか?
換言するならば、
組織開発は「何」に弱いのか? 何がきっかけに「下火」になったのか?
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この問いに対しては、いろいろなご意見はあると思うのですが、僕の答えは、こうです。
(皆さんの答えを聞かせてください)
1つの前提と2つの課題を述べてみましょう。
前提1.組織開発は「ひと」につく
課題1.組織開発は「異動」に弱い
課題2.組織開発は「普及」に弱い
これをひとつずつ論じてみましょう。
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まず前提1「組織開発はひとにつく」です。これは、そのまんまですね。組織開発で必要になるスキルや知識や価値観は「ひと」につきます。
「ひとにつく」の含意は、組織開発のスキルや知識や価値観は「学ぶこと」にそれなりの時間と経験を必要とすることと、その「ひと」のあり方や考え方によって、組織開発の効果性には大きな差がでやすい、ということです。
もうひとつ付け加えるならば、組織開発の知識やスキルや価値観は、経験を通して学ばれ、更新されていくもので、「他者」に対してなかなか「移転」しにくい特性をもっている、ということかなと思います。
おそらく、組織開発が伝えるべき知識・スキル・価値観のなかで、もっとも大きな影響をもたらしかねないのは「価値観」の部分です。「組織開発は、デモクラティックでヒューマニスティックな価値に基づく実践である」と言われておりますが、このことが逆に、組織開発を外部から学ぶときに困難を引き起こします。つまり、組織開発の存在証明こそが、普及という意味では、組織開発の脆弱性につながるということです。
対して、人材開発もたいがいですが、組織開発ほどには、濃い価値を有しているわけではありません。
価値に基づくということは、どういうことか。もっともシンプルにいいます。組織開発には、人材開発よりも、その価値について「一家言ある人が多く」、その「一家言の違い」を乗り越えられなかったり、他者に伝えきれない場合が多いということです)
そして、この前提こそが、先ほどの2つの課題をひきおこします。
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まず第一の課題「組織開発は異動に弱い」は容易に想像できます。
1970年代の組織開発の本を読んでおりますと、ある会社における組織開発の普及は、社内において熱心にそれを推進していた人がエヴァンジェリストになってはじまり、しかしながら、そのひとの突然の異動によって「下火」になるということを繰り返していたことがわかります。
組織開発のスキルや知識や価値観は「ひとにつき」、かつ「移転が難しい」だけに、それにかかわる人が「異動」をするたびに、その盛り上がりに強い影響を受けてしまうのです。
要するに、課題は「組織開発担当者の人材開発であり、知識移転」です。
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課題2の「組織開発は普及に弱い」というのは、組織開発は「普及すればするほど、苦境に立たされやすい」ということです。
1970年代の事例を読んでおりますと、たいていの組織開発は、組織開発を熱心に学んだひとが社内上層部を説得し、社内に専門部署ができ、その専門部署が展開していくことではじまっていきます。
しかし、問題がここで生じます。
組織開発が社内で好評を得て、話題になればなるほど、組織開発専門部署には「依頼」が舞い込みます。
「うちの職場も、ちょっと、やってくんないかな」
「こっちの職場も、ちょろんと、関わってくれないかな」
かくして、専門部署の仕事は「パンパン」になっていきます。
あるところまではパッションで押し通すのですが、なかなかそれが回らなくなっていきます。
かくして、専門部署の仕事が溢れてくるのです。
皮肉なことに、組織開発にとって「普及」は「諸刃の剣」なのです。
組織開発は、たとえばe-learningなどのように、コンテンツを増産したりするのが容易ではありません。また、すぐにひとを足せるとよいのですが、前提にあったように、「組織開発はひとにつく」という特性をもっています。
要するに、
組織開発は「普及」すればするほど、苦境に立たされます。
かくして、1970年代の組織開発をふりかえってみれば、専門部署による組織開発は徐々に下火になっていきました。対して、職場で現場マネジャーの実施する職場づくりなどが、注目を浴びることになります。現場でできる、手離れのよい活動が、注目されはじめる、ということですね。
おそらく課題は、
組織開発の知識やスキルを、いかに現場の管理職クラスに展開していくのか?
ということになるのか、と思います。
要するに、課題は「組織開発担当者の人材開発や知識移転」です。
結局は同じなのよ(笑)。
もっとも大切なことは、
組織開発を進めるひとを、クオリティを保ったまま、いかに増やすのか、というこの1点です。
今日のブログ、以上。
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今日は組織開発の脆弱性を、人材開発の観点から述べてみました。
組織開発は多様性溢れる社会において、さらに必要になってくる活動であることは言うまでもありません。また、それが奏功した場合の効果性は「パワフル」であり、注目に値するものであると思います。
しかし、組織開発の歴史をひるがえってみると、それは容易な道ではありません。
いつか来た道を繰り返すのか。はたまた、今度は違う道をたどるのか。
僕には将来はわかりませんが、おそらく、ここで述べた1つの前提と、2つの課題は、50年の時をこえても、さして変わらないものと予想します。
ということは・・・この放置しておけば、同じ事が起こりうるだろうな、と思います。これが中村先生と僕が共著を書かせていただいた意味かと思います。
今、組織開発は50年ぶりの、本邦のHRにおいては2度目のルネッサンスを向かえています。
これがしっかり実務に定着するためには、やはり「組織開発担当者の人材開発」こそが重要であると、僕は思います。先ほどの共著が、その役割の一翼を担えることを願ってやみません。
そして人生はつづく
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