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2018.6.21 06:24/ Jun

年収800万円でも、次の子どもは「難しい」!? : 「将来、自分がもらう給与」はわからないのに「働く意味」を考えていることの不思議 !?

 0~1歳児の親で、金銭的な理由から「子どもをもっとほしいが難しい」と考える人は、800万円以上でも「約68%」いるらしい
   
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 昨日、こんな調査結果(東京大学 Cedep・ベネッセ教育総合研究所による共同調査)をFacebookのタイムライン上で発見して、興味深く拝見させていただきました。
  
次の子ども、年収800万円以上の夫婦でも68%が「金銭面で難しい」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180620-00000057-sasahi-life
  
もともとのプレスリリースはこちら
https://berd.benesse.jp/up_images/research/20180620release1.pdf
  
「年収800万円でも68%は2人目の子どもをもつことを難しいと考える」という両機関の発見事実に関しては、おそらく、ひとによって評価が「わかれる」のだと思います。
  
「まっ、そうだよね、足りないと思うだろうね」
  
 という方もいれば、
  
「えっ、そんだけあっても、足りないっていうのかね」
  
 という方もいらっしゃるのでしょう。
 ですので、この部分については、僕は、何も申し上げません。
  
 皆さんは、どう思われますか?
  
  ▼
  
 ただ、僕は、このニュースを横目に見ながら、この4月から、大学で教えるようになって、個人的に「発見」したことを思い出していました(N=1の個人的経験なので、あしからず)
  
 それは、
  
 大学生の皆さんは、驚くほど「お金のこと」を知らない
  
 ということです。

 仕事柄、授業では、人材マネジメントや人的資源管理の教育内容のなかで、「給与」や「賃金」を扱います
 そのときに、様々な問いを学生の皆さんに投げかけますが、まぁ、なかなか、このやりとりが面白い。
  
 たとえば、僕が、
  
「日本の新入社員」は、最初の年の年収は、平均で、いくらくらいでしょうか?
  
 という問いを投げかけたとします。
  
 平気のへーちゃんで「800万円くらい」という反応がかえってくる場合もあります。学生によっては「250万円くらい?」という答えをだすひともいます。
  
 250万円から800万円までずいぶん、開きがありますね。
 さ、どっちが本当?
 君ら、あと数年後に就職するんだよね?
 数年後には「向き合わなければならない数字」だよ。
  
  ▼
  
 時には、こんな質問もなげかけます。
  
 みんなは、自分の世帯年収として、いくらほしい? 夫婦2名で、子どもは2名いたとして、いくらあったら、やっていける?
  
 この質問に対しては、
  
 1000万円くらいという声もでてくる場合があります。いやいや「400万くらい」でも大丈夫だ、という声もでてきます。
  
 いいんです。「いくら欲しい」と聞いているだけなので、いくらでも(笑)。
  
 でも、世帯年収1000万円を実現するとは、リアルに、どういうことが必要になるかを、考えて欲しい。もし、自分がその金額の給与を受け取るのなら、どういう働き方を今後していけばいいのか。
 自分は、つとめる企業の賃金テーブルのなかで、いつ年収1000万円を実現できるのか。はたまた、できないのか。
  
 夫婦のうち、ひとりで働いて1000万円を可能にすることができるのは、全体の何%くらいの労働者なのか。
 もしかすると、世帯年収1000万円を実現するには、夫婦ふたりで働かなければならないのか。もし夫婦共働きで働くのなら、どのような制度や職場環境が、なければならないのか。どういう日本の労働慣行が、それを疎外しているのか。
  
 そういうことをリアルに考えて欲しいな、と思います。
   
  ▼
  
 冒頭のニュースは、授業やゼミなどで今度紹介し、学生たちに考えてもらうきっかけとして、面白いなと思いました。
  
0~1歳児の親で、金銭的な理由から「子どもをもっとほしいが難しい」と考える人は、800万円以上でも「約68%」いるらしい
  
 800万円でも半数以上は「難しい」と考えているのです。そうならば、賃金が低すぎるのか、いなか。なぜ賃金が低く抑えられるのか。
 どのような働き方を自分たちは行えば、子どもをもうけることができるのか。そのためには、夫婦で、どのような働き方をしなければならないのか。
  
 こういうことを授業で議論できたとしたら、面白いですね。
     
 冒頭申し上げましたとおり(N=1の僕の経験ですが)、
  
 大学生は「お金のこと」をあまり知りません
  
 しかし、皮肉なのは、それにもかかわらず、彼らは「働く意味を考えること」や「働くための自己分析」を迫られています。
  
「自分が稼ぐと、いくらお金がもらえるのか」は知らないのに、「自分が何をやりたいのか?」を考えることを迫られている。
  
「自分は、将来、理想となる家庭を築くのに、どのくらいのお金がかかるかは知らない」のに、せっせと「自分に何が向いているのか」をせっせと自己分析して、将来を考えているのです。
  
 まことに、香ばしい感じです。
   
「働く意味を考えること」や「自分に何が向いているか」を考えることも大切なのでしょうけれども、もう少し「お金」に向き合って欲しいな、と思ってしまうのは僕だけでしょうか。あるいは、お金に向き合う学習機会があってもよいのかもしれません。
  
 ま、「お金」だけで「幸せ」になることはできないけれど・・・
 人生「たかがお金、されどお金かな」とも思います。
  
 そして人生はつづく
  
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