NAKAHARA-LAB.net

2016.4.26 06:17/ Jun

なぜ、日本の大学教員には「メンター」がいないのか? 国全体に潜む「一国一城の主」信仰!?

 ご迷惑をおかけするかもしれないので、お名前をあげさせていただくことは、この場では差し控えますが、先だって、米国の有名総合研究大学で教鞭をとっておられる先生と、ランチをご一緒する機会を得ました。
 おかげさまで、ランチでは、ここ最近あったことなどをお互いに情報交換させていただき、よい時間を過ごすことができましたが、その際、話題になったことのひとつに
 なぜ、日本の大学には「メンタリングの制度」がないのか?
 なぜ、日本の大学教員には「メンター」がいないのか?
 ということがありました。
 日本の大学にしかつとめたことがない僕自身は、「大学教員にメンターが必要である」という議論は初耳でしたが、その先生からしてみると、このことは「とても不思議に見える」そうです。
 曰く、
 米国の研究大学で、テニュアトラック制度を引いている場合、たいていの経験の浅いファカルティには「メンター」が割り当てられるそうです。
 
 すでにテニュアを取得した職位の上の教員が、「メンター」になり、テニュアの審査がおこなわれる4年前ー5年前から、どのような研究を為していけばいいのか。どのように業績をつめばいいのかを指導するそうです。
 そうした指導は、テニュアトラックにのり、正規のプロフェッサーになったあとでも、続く場合があるとのことです。
 その先生には、現在、数名のメンティがいて、指導をおこなっているとのことでした。
 へー。
 世界は広い。
 勉強になります。
  ▼
 
 なぜ、日本の大学には「メンタリングの制度」がないのか?
 なぜ、日本の大学教員には「メンター」がいないのか?
 この問いに対する答えは、「短絡的」に答えようとすれば「テニュアトラック制度がないから」になってしまいそうです。
 もちろん、その答えでもよいのだけれども、その奥底を掘り返してみると、そこには日本人に共通する、ある「固有のメンタリティ」も見えてきそうです。
 そして、その「メンタリティ」は、大学教員ならず、ビジネスパーソンでも、医療の現場にも、程度の差こそはあれ、染み付いているような
気がします。
 ワンセンテンスで申し上げますと、それは「一国一城の主信仰」とでも言えるものです。
 要するに、「ある程度の職位にある大人」は、もはやメンタリングや助言の必要の無い「一国一城の主」であり、かつ「完成された人間」である。
 「完成された人間」なのだから、これから学ぶべきことや、他人から指導を受けるようなことは、そうない。
 すでに「一国一城の主」である彼 / 彼女に対して、外部からの働きかけを為すなんて恐れ多い
 という考え方です。
 実際に、「一国一城の主さん」が、「完成された人間」で、もはや学ぶ必要が無く、最大限のパフォーマンスを発揮できているのならば、まったくそれでも問題がないのですが、実際はそうはいかないことの方が少なくありません。
 筋のわるい意志決定をおこなったり、そもそもの目標設定を誤ったり、一人では「気づくこと」のできないもので、しかし、とてつもなく重要な物事を見落としてしまうことは、そう少ないことではありません。
 
 そのような場合には、大学教員のみならず、成り立てホヤホヤの課長や部長や執行役員、やはりそれなりの職位にあったとしても、必要な場合には、メンタリングなどのかたちで「外部からの働きかけ・支援」というものが必要なのではないかと思います。
 いかがでしょうか?
  ▼
 今日は「大学教員のメンタリング」という内容について書きました。今回の記事は聞き書きなので、この現象がどの程度一般性のあることか、僕は知りません。
 また、大学から割り当てられるようなオフィシャルなメンタリングは、日本の大学には少ないとは思います。
 が、個々の大学教員は、インフォーマルにメンタリングをおこなってくれる先達教員を、持っているような気もします。
 少なくとも、僕の場合は、判断に迷ったときなどは、いつもお世話になっている先生方がいます(ありがとうございます!感謝です!)
 あなたの組織には「一国一城の主」信仰が蔓延していませんか?
 本来、「耳の痛いことをいうべき瞬間」をやり過ごしていませんか?
 あなたの組織の「一国一城の主」は「裸の王様」のようになっていませんか?
 そして人生はつづく
 ーーー
新刊「会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング」が4月19日発売されました。おかげさまでAMAZON「経営学・キャリア・MBA」で1位、「光文社新書」で1位、「マネジメント・人材管理」で1位を瞬間風速記録しました(感謝です!)。
「働かないオジサン」「経験の浅い若手」などなど、現場マネジャーなら必ず1度は悩むジレンマを解き明かし、決断のトレーニングをする本です。どうぞよろしくご笑覧いただけますよう、御願いいたします。

4月15日発売、新刊「アクティブトランジション:働くためのワークショップ」もどうぞよろしく御願いいたします。

ブログ一覧に戻る

最新の記事

2025.4.24 12:39/ Jun

あなたの近くに「崩壊」しているものはありませんか?:「崩壊」は突然「ちゅどーん(爆音)」ではない!

あなたは、データを「愛していますか」?:データ自体が何かを「語り始める」くらいまで、あなたは、データに向き合っているのか?

2025.4.14 18:11/ Jun

あなたは、データを「愛していますか」?:データ自体が何かを「語り始める」くらいまで、あなたは、データに向き合っているのか?

自分の所属する「組織(ハコ)」によって、あなたは「有能」にも「無能」にもなりえる件

2025.4.6 18:11/ Jun

自分の所属する「組織(ハコ)」によって、あなたは「有能」にも「無能」にもなりえる件

わたしのサバティカルは「旅するサバティカル」and「学び直しのサバティカル」に決めました!:「ひょっこり・ひょうたん島」で「錆び付いた刀」を研ぎ澄ます!?

2025.4.1 18:20/ Jun

わたしのサバティカルは「旅するサバティカル」and「学び直しのサバティカル」に決めました!:「ひょっこり・ひょうたん島」で「錆び付いた刀」を研ぎ澄ます!?

【中原からのお願い】ファミリービジネスにおいて「事業承継」をご経験された方、ぜひ、アンケート調査にご協力いただけませんでしょうか?

2025.4.1 10:33/ Jun

【中原からのお願い】ファミリービジネスにおいて「事業承継」をご経験された方、ぜひ、アンケート調査にご協力いただけませんでしょうか?