2012.5.7 06:30/ Jun
小西貴士(著)「子どもと森へでかけてみれば」を読みました。
この本は、清里高原で「キープ・森のようちえん」という野外保育の実践に関与なさってきた小西貴士さんによる写真集です。「キープ・森のようちえん」は、KEEP自然学校が主催している野外保育です。
キープ・森のようちえん
http://www.keep.or.jp/ja/shizen_school/yochien/
小西さんは「森のようちえん」にきた子どもを、18万枚の写真としてとりため、「森のようちえん」で子どもがどのような経験をし、どのような出来事に遭遇したのか、短い物語をつづっています。
清里の森をおとずれた子ども、親は、様々な出来事を経験し、様々な物語を生み出します。そうした物語のひとつひとつを、小西さんは、ファインダーにとどめ、さらには、その情景を豊かに描写し、この写真集を編みました。
同様の著作には、2008年に出版された「森のようちえんのうた – 八ヶ岳の森に育つ子どもたちの記憶」(写真:篠木誠、編著:キープ協会)があります。
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たとえば、じょーくんとふみやくんの物語。
彼らは、森のひろばの「木のブランコ」の順番をめぐって、けんかをはじめます。上に下にのっかかって、のっかかられて、約15分。どろんこになってけんかをします。
しかし、けんかは長続きしません。森の静寂、カッコウの鳴き声。はたと、彼らは、正気にもどります。
ひと言、ふた言、言葉をかわすようになります。そのうち、二人は笑って、一緒にブランコにのります。
(前掲書 p16-19より筆者加筆・修正して引用)
こう書いてしまうと、なんだ、そんな些細で小さな出来事か、とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。でも、その小さな出来事を見つめ、物語を綴る見識とは、一朝一夕につくものではありません。
これはわたしの指導学生の脇本さんの研究ですが、彼の研究によると、「あまり経験をもたない教師」は「子どもの様子」を看取ることができない、のだといいます。意外ですね、目の前に子どもがいて授業をしているはずなのに、子どものことに関心がいかない。
むしろ、彼らの関心の多くは、教育技術や授業内容に向けられる。しかし、それを子どもがどのように経験し、どのように感じているのかを、看取るまでの心的余裕がない。その目がなかなか持てない、のだといいます。
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くどいようですが、ここ、あそこで生まれる、こうした「小さな物語」をしっかり「見て」、子どもの「声」をきき、ファインダーに「おさめ」、かつ「物語をつづること」は簡単なようでいて、難しいことのように思います。そのためには、場を看取る経験を様々に積まなければなりません。
本来ならば、そこで掲載されている写真や全文をぜひ、ここで紹介したいのですけれども、それは不可能です。
もしご興味をお持ちの方がいらっしゃったら、ぜひ、手に取ってみていただけると幸いです。僕も、こんな写真をとり、物語を綴りたいな、と思いました。
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畢竟、僕は、「ファシリテーションに必要な知」とは、「フィールドワークの知」や「エスノグラフィーに関する知」に似ていると思っています。
この話、以前、どこかで述べたような気もするのですが、要するに、両者ともに「今、ここで起こっている出来事・学習者の反応」といった「プロセス」を把握することが求められるということです。それは「プロセスの知」と言い換えてもよいかもしれません。
おおっ、やっぱりググってみると、あったね。
一年強前に、書いていたね。
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プロセス・出来事に対する「まなざし」:Learning barの「ブクログ本棚」をつくりながら考えたこと
https://www.nakahara-lab.net/blog/2011/02/learning_bar_34.html
目の前の人たちがどう動いているのか、何にワクワクしていて、何に困惑しているのか。何を話して、どういう状態にあるのか。それをきちんと「見ること」「聞くこと」「解釈すること」ができなければ、その先に、どんな「打ち手」、どんな「ファシリテーション」の手法を身につけていても、それを、適切なタイミングで「行使」することは「不可能」であるからです。
(2011年2月20日 NAKAHARA-LAB.NET ブログ)
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小西さんの写真集は、こういう観点からも非常に興味深く読まさせて頂きました。
写真や文章の美しさに心を動かされるのに加えて、個人的には、「かかわることの熟達」と「カメラを通して学習者を看取る目」と「物語をつづること」の関連について深く考えさせられました。
今日から「仕事」に復帰です。
そして人生は続く。
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