2010.1.17 13:42/ Jun
話題の書籍、WIRED編集長クリス・アンダーソンが著した「FREE」を読んだ。クリス・アンダーソンは5年ほど前、「ロングテール」というコンセプトを世に送り出したジャーナリスト。今度は「フリー」あるいは「フリーミアム」というコンセプトをひっさげての凱旋である。
この本ではフリーの歴史から、最新のITビジネスモデルまで様々なことが述べられている。その主張は多岐にわたるが、枝葉を落とし、おおざっぱに、かつ大胆に、僕の言葉でまとめると下記のようになる。
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1.ITテクノロジー(サーバの能力、ストレージの容量など)の限界費用は、限りなくゼロに近づいている
2.1を背景にして、デジタルのものは、たとえばデジタルコンテンツなどは、遅かれ早かれ、無料になる、つまりは「フリー」になる運命にある
3.2にあがなって、課金を行ったり、コピー防止技術などを整備しても、無駄である。そして、高度にデジタル技術が発展する現代では、遅かれ早かれ、多くの事業ドメインで、「フリー」と戦うことになる。
4.しかし、「フリー」から利潤をあげる仕組みは、確実に存在する。
5.フリーから利潤を生み出すビジネスモデルには、1)フリーではないものを販売し、そこからフリーを補填する直接的内部相互補助(携帯電話は無料、通話は有料など)、2)第三者がお金を支払うけれど、多くの人にはフリーとして提供される「三者間市場」(女性は入場無料、男性は有料など)、3)フリーによって人を引きつけ、有償のバージョン違い、機能向上版を用意する「フリーミアム」などがある。
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こんなところだろうか。
この本の核心である「フリーミアム」については、下記の専用サイトに詳しく説明されているので、ぜひごらんいただきたい。
フリーミアム
http://www.freemium.jp/about
要するに、フリーミアムと、は「フリー(無料)」によって人を広くひきつけて、そのうちの一部に(数パーセントであってもよい)、基本サービス以上のサービスを有償で買ってもらうというビジネスモデルをいう。
一般的な商品であれば「フリー」で提供する商材には限界がある。なぜなら、商材の単価が確実にかかってくるからである。
しかし、テクノロジー維持の費用も、コピーに関する費用もほぼゼロに近いデジタル商材の場合には、フリーで配布できる商材の量が、非常に大きい。よって有償のサービスに移行してくれる顧客が、わずか数パーセントしかいなくても、もともとの母数が大きいだけに十分成り立ってしまうのである。
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本書を読んで真っ先に脳裏に浮かんだのは(というよりも空想したのは)、今、最も動いている、という「電子書籍市場の未来」についてである。このフリーという動向は、「現在の電子書籍の市場の混乱」を、さらに混沌としたものに変えかねないなと、専門外ながら、思った。
周知のとおり、今、電子書籍の市場は、AMAZONのキンドルが市場投入されたことをきっかけに、第二次電子書籍戦争が勃発していると言われている。水面下では「出版社」「取次」「書店」そして「著者」をめぐって、「静かなる戦い」が勃発している。
一般的なリアル書籍の収益構造は、下記だと言われている。もちろん、この数字は一概には言えない。
・著者印税が10%くらい
・出版社が25%くらい
・取次が15%くらい
・書店が15%くらい
・製品原価は35%くらい
今、起こっている静かな戦争は、この「配分をめぐる戦い」と「誰が著者を押さえるのか」という戦いである。
本の流通が電子書籍が中心ということになってしまえば、「出版社 – 取次 – 書店」というこれまでの流通チャネルが壊れる。そのような状況になれば、結局は「著者」を上流で押さえたものが勝つ。
もちろん、著者だって黙って指をくわえて見ているわけではない。条件のよいところと組むことができれば、印税をさらにあげることができる。
勘のよい著者は既に動いている人もいると聞く。
自らブログやTwitterなどのマーケティング手段をもち、編集者とデザイナーのネットワークをもち、さらに電子書籍の会社との関係さえもっていれば、これまでの著者印税を大幅に増やすことも不可能ではない。
要するに、「出版」に関係するそれぞれのステークホルダーが、他を「中抜き」しようとして争っている、のである。
しかし、この戦い、非常に厳しい戦いである。既存のビジネス、既存の関係を維持しつつ、つまりはリアル書籍を出していたころの関係を維持しながら、新しいモデルを模索しなければならない。たとえていうならば、「一方でしんがり戦をやりながら、新しい覇者をとらなければならない」のである。特に、これまで関係の深かった書店、出版社、取次にとっては、厳しい戦いであろうと想像する。
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こうした出版業界の群雄割拠の動きに加えて、「フリー」の動きが「さらなる混沌」を生み出すのではないか、というのが、専門外の僕の「勝手きままな空想」である。
電子書籍といっても、結局は「デジタルのもの(ビット)」である。ということは、たとえフリーになるとはいかずとも、価格の低下は避けられないのではないだろうか。アンダーソンの議論を敷衍して考えれば、そういうことになる。
だとすれば、どのように利潤を上げるか、だ。
僕が思ったのは、本による収入低下を補うために(あるいはさらなるマーケティングを加速させるために)、一部の著者や、著者を押さえた出版社(もう出版社という名前ではないかもしれない・・・)が中心になって、「著者」と「読者」がメンバーの「場づくり」「イベント」を仕掛けてくるのではないか、という予想である。
極端に言えば、要するに、こうである。
本は限りなく安くなってくる。だから、それだけで必ずしも利潤をあげることは考えない。むしろ、著者が中心になって行われる「コミュニティ」などの、フェイストゥーフェイスの「場」や「イベント」を有償とし、利潤をあげることを考えるのではないか・・・。
要するに、極論を言えば、「コンテンツは無料、インタラクションは有料」ということである。
そうすると、従来の「著者」の「概念」が変わる。
「著者」とは「コンテンツを生み出す人」というよりは、「コンテンツと場をもつことができる人」ということになるのではないだろうか。
「編集者」の「概念」も変わる。「編集者」とは、コンテンツメイキングを支援する一方で、著者の場作りを演出する、プロデューサー的役割を担うのではないだろうか。
そんな感じで、空想は続く。
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以上に書いたことは「白昼夢」に近いかもしれない。また、僕は専門外なので、責任なく、勝手きままに言い放つ。
また、すべての本で、そのような動きは起こらないだろう。ビジネス書は近いかもしれないが、純文学や学術図書などでは、このような事態は起こりえないだろう。
さらに、消費者のメディア接触頻度、あるいは、デジタルデバイドの問題を考えると、すべての書籍が電子書籍に変わることは想定しにくい。本は相変わらず、「本」として存在し、書店で売られるのであろう。
問題が、それが、マーケットのどの程度を支配するか、である。
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しかし、今、水面下で動いている「動き」から、勝手気ままに推測するに、僕がここで書いたような動きの可能性はゼロとは言えないような気もする。
書籍の電子化とフリー化
今、わたしたちは、グーテンベルグ以降の活版印刷の発明以降の、「変革」のまっただ中にいるのかもしれない。そうだとするならば、「歴史の生き証人」ということになる。
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