2008.8.23 07:12/ Jun
本日のLearning barは、野村総合研究所の永井恒男さんを、講師にお招きし、
「対話を中心的活動にすえて組織をかえることができるのかどうか」
について、皆さんで議論を深めました。
今日もラーニングバーは満員御礼! 本当にありがたいことですね!
できるだけ多くの方々にご参加いただくため、教室の椅子の数を増やしました(院生の皆さん、ありがとうございます)。いつもより10名多い160名の方が、今回の参加者です。
まず、最初に僕の方から「趣旨説明」をさせていただきます。
Learning barは、
1.聞く
2.聞く
3.聞く
4.帰る
という場ではなく、
1.聞く
2.考える
3.対話する
4.気づく
ような場であるということをご説明いたしました。
さらに今回から「調子にのって」、もうひとつの項目を付け加えさせていただきました。
1.聞く
2.考える
3.対話する
4.気づく
5.Barの外で語る←(新規項目)
です。
Learning Barを出たあとで、まだここを訪れたことのない方に – 同僚であってもいいし、先輩や上司であってもいいし、オクサマでもオコサマでもいいです – ぜひ、ここで得た「気づき」を語っていただければと思うのです。
本当に「わかったこと」「腑に落ちたこと」というものは、自分の言葉で「語ること」ができるはずです。また、「自分の言葉で語りなおすこと」で、さらに「わかること」「気づくこと」もありえます。
Barで得た「何か」が、そこに参加した方の生の声として語られることで、その内容が様々な「かたち」に変わりながら、様々な人々に伝わる。そうしたプロセスをへて、少しずつ少しずつ、「私たちの企業・組織における学びや成長」、ひいては「社会」が変わる「かも」しれない。つまりは、Learning bar自体が、社会の「対話」を促進するきっかけになってほしい。そんな思いをこめて、5番目の項目を付け加えました。
—
早速、永井さんのご発表がはじまります。
話題は「コンサルティングの限界」です。
永井さんは、ご自身のコンサルティング経験から、「合理的かつ論理的整合性のある戦略」というものをつくり、クライアント組織に手渡したとしても、実行されずに終わるものが必ずしも少なくないことをご指摘なさいます。
社長のコミットメントを引き出すことに失敗したり、社内の抵抗にあったり・・・結局、どんなに素晴らしい「戦略」を構築しても、それを実行するのは、生身の利害を有する「人間」であるからです。そこには、そこにいる方々の「センスメイキング」と「コミットメント」が必要になります。
数年前、永井さんが社内ベンチャー制度を活用し、エグゼクティブコーチングに関する新サービス「イデリア」を野村総合研究所内で立ち上げたのは、そんなときでした。
永井さんのはじめたエグゼクティブコーチングとは、社長・経営者層などを対象としたコーチングサービスのことです。1回90分の対話を半年、12回繰り返すことで、自己を振り返り、かつ、目標を達成することを支援するのだそうです。
永井さんが、イデリアを通してお逢いした多くの社長、経営層は、優秀な人が多いものの、「孤独」で、決して「一枚岩」などではなく、「葛藤」や「悩み」をひとり抱えながら、黙々と仕事をする人々でした。
現在、永井さんは、エグゼクティブコーチングから、さらに枠をひろげ、マネジメント層の「思い」や「願い」をタネにして、様々なレイヤーで「対話」を組織しつつ、組織を変えることにチャレンジなさっています。
「学習する組織論」のいくつかのツールやコンセプトを利用して、自分たちが陥っているメンタルモデル(常識の罠)に気づき、それをどのように脱却すればよいのかを、自分たちが対話の中から見いだす、ということを支援なさっています。
そのようなプロセスを通じて、「センスメイキング」と「コミットメント」を引き出し、組織を変える原動力として組織化するということでしょう。
—
永井さんの3セットのレクチャーの後は、Learning bar恒例の「お隣ディスカッション」に入ります。
様々な背景をもつ人々で、今日はじめて出会った方々が、永井さんのお話をネタに30分間、「自分の気づき」を共有していきます。
お次は、携帯フィードバック。
今回は、総数42件のメールが寄せられました。
中には、
このままいくと、うちの会社が危ないことは、社長以外はみんなわかっている。社長だけがわかっていない。彼に、この状況を理解してもらうためにはどうしたらよいのか。
といった「切実な質問」や、
この手法は学校にも、当てはめることができるのか。もしやった事例があれば教えて欲しい
といった現場の先生からのご意見もありました。
質問のすべてを扱うことができたわけではありませんが、皆さん、ご協力、ありがとうございました!
—
今回、永井さんのご講演を聴いていて、僕は自分自身のことを深く内省していました。
僕も、多種多様な人々に日々助けられながら仕事をする人間の一人です。自分の周りにいる様々な人々に助けられながら、一緒に「何か」を成し遂げたいと思っているひとりです。そして、僕に協力してくださる方々もまた、それぞれの「利害」や「関心」や「やりたいこと」や「やらなければならないこと」をお持ちです。
僕にも、自分の気づかない、しかし、他の人には気づいている、たくさんの「思いこみ」があり、そこに「囚われている自分」がいます。
幸い、僕のまわりにいる研究仲間の中には、そういう僕の「囚われ」を、臆することなく指摘してくれる方がいらっしゃいます。大変ありがたいことです。大変貴重なことです。
しかし、そういう方々の指摘をもってしても、なかなか「踏ん切りのつかないとき」もあることを正直に吐露しなければなりません。
「ここまで積み重ねてルーティン化され、制度化されたもの」を「壊して」まで「変わること」に抵抗しようとする自分もいます。そうしなければ、いつか、限界がくることはアタマではわかっていつつも、それを「怖れる自分」がいます。
別の言葉でいえば、こうとも言えるでしょう。
僕は、自分の周りのルーティン化され、制度化されたもので、今は着実にWorkしているが、このままではいずれ限界がおとずれてしまうものを、学習棄却(unlearn : 大江健三郎さんは、これを学びほぐしといったそうです)しなければならないのです。
組織学習論という研究領域が、これまで生み出してきた「智慧」を、多少なりとも知っている僕ならば、そうするべきことが論理的には正しいのです。
しかし、それを行わなければならぬと感じる一方で、時に、それを拒もうとする「アンビバレントな感情」を自分の中に発見してしまうことを、吐露せざるをえません。否、正しく言うならば「発見してしまった」のです。
僕もまた、「変わること」のできない一人であり、どのように「変わること」がよいことなのかを煩悶する一人でありました。そして「変わること」を怖れる一人でもありました。
昨日のお話をお聞きして、このことがよくわかりました。
しかし、これに気づけたことは、決して、ネガティブなことではない。「よいこと」であったと思っています。
「大きな問題」がそもそも自分の前に立ちはだかっていたことを知ること、そして、日々の雑事に追われ、いかに自分が「大きな問題」から逃げていたのかを知ることはよいことだと思います。
もちろん、こうした「大きな問題」に対する答えを、忙殺される毎日の中から見いだすことは困難だとは思いますが、それでも、少しずつ、時間をかけて見いだしていきたいと思います。
何より、僕には、様々な人々の智慧や協力を得て、「皆さんと一緒になしとげたいこと」が、まだまだ、たくさんあるのですから。
—
最後に、今回、お忙しいところご出講いただいた永井恒男さんに、心より感謝いたします。本当にありがとうございました。
また、Learning barは東京大学大学院の院生諸氏によって運営されています。事務局長の坂本君、牧村さん、坂本A君、舘野君、脇本君、林さん、大城さんにお手伝いいただきました。
さらには議論に参加してくださった皆様に感謝いたします。
本当にお疲れ様でした。
そして、ありがとうございました。
—
次回のLearning barは、11月21日(金曜日)4時30分からです。久しぶりのワークショップです。
昨年、ディナ=ロビンソンらの名著「パフォーマンスコンサルティング」を翻訳・出版なさった鹿野尚登さんをお招きして、パフォーマンスコンサルティングに関するワークショップを開催していただけることになりました。
どうぞお楽しみに。
詳細は、下記メルマガからお知らせいたします。ご参加希望の方は、ぜひご登録ください。あと、来週には、10月31日東京大学安田講堂で実施されるシンポジウム「ワークプレイスラーニング2008」の募集が開始されます。こちらもお楽しみに。
Learning barメルマガ
http://www.nakahara-lab.net/learningbar.html
See you soon at Learning bar!
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