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2005.10.7 20:30/ Jun

APRU DLI2005に行ってきた:貧困と闘う

 APRU DLI(Asia Pacific Rim University Distance Learning & the Internet Conference)2005に参加する。
 今回は、中国の清華大学 宋吉繕さんの発表に一番考えさせられた。
 よく知られているように、中国は、現在、高等教育人口が爆発的に増えている地域である。年8.5%の成長率で学生数が伸びている。「年8.5%」とサラッと流したけど、これはモノスゴイ数字である。本当に「大学ビックバン」に近い。
 で、中国の高等教育機関は、ビックバン的に拡大するニーズに全くついていけていない。大学にきたいと思っている学生の数にくらべて、大学の数が全く足りていないのである。質的云々を議論する前の話しである。量的に足りていない。
 たとえば、今日の宋さんの発表によると、下記のようなことが述べられていた。
中国では、量的制限から、大学入学希望者の15%しか大学に入れない
「東よりは西側、都市よりは地方」が圧倒的に貧困地域が多く、そうした場所では、教育に対するニーズが高い
中国は、1万人の労働者に対して、11人の研究者・技術者しかいない。高等教育を受けた技術者、研究者の量が圧倒的に不足している。
中国のWTO加盟のため、企業で必要になる知識の高度化が求められている。それを行う高等教育のニーズは非常に高い。
 そこで注目されているのがeラーニング(遠隔教育)である。eラーニングであれば、この量的不足を補うことができるからである。
 よく知られているように、中国では1999年より教育部(日本の文部科学省)が主導して、全国68の代表的な大学に、eラーニングコースをつくることを許可した。
 北京大学をはじめとして中国全土の有名大学が、学内に遠隔教育部門をつくり、学位を発行できるeラーニングを実施している。
 中国トップクラスの大学のひとつである、清華大学でも1999年より、「継続教育学院」をつくり、そのようなプログラムを提示していた。
 が、2005年からは、学位取得できるプログラムを一時停止し、現在では「Enterprise Traningプログラム」と「貧困対応プログラム」を提供している。
 理由をあとで宋さんにたずねたけれど、あまりはっきりした答えは得られなかった。「Enterprise Traningプログラムの方を有償でやって、得た利益をもとに貧困対応プログラムを無償で運営する」といったようなことを行っていた。
 「Enterprise Traningプログラム」はいわゆる企業内教育。
 清華大学で生まれた最先端の技術、知識を企業の技術者、研究者に届けることがミッションである。
 後者の「貧困対応プログラム」は、中国全土の592の最貧地域を主な対象として、法律、農業、公衆衛生、ビジネス、英語といった知識を届けようとしている。
 そのために、清華大学は150のオフキャンパスネットワークセンター、100のティーチングセンターをもうけている。どの程度の教室環境があるのかわからないから一概には言えないけれど、日本の放送大学よりも大規模な運営だなと思った。
 テクノロジーとしては、internet、satellite、cable TV、ISDN、CD-ROMなど、使えるものは何でも使うというアプローチ。その地域に応じたテクノロジーを用いて、教育コンテンツをデリバーしている。
 —
 特に僕が印象に残ったのは遠隔教育(eラーニング)が「貧困と闘うためのツール」として利用されているという事実であった。
 日本の遠隔教育で、このようなお題目を掲げているところは、ほとんどないのではないかと思う。
 今、中国は激動の時代を迎えている。その中で、都市 – 田舎の格差、親の収入による格差・・・様々な格差が広がり、ひとつの社会不安を抱えている。その中で、教育には何ができるか、そして何ができないのか。
 中国という国のすさまじさを感じたプレゼンテーションであった。

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