2008.8.13 08:50/ Jun
問題解決のKFS(Key Factors of Success)のひとつは、「何を”問題”として定めるか」という、いわゆる「問題の定式化」にある。昨日、産能大の長岡先生らと議論していて、その話題になった。
長岡先生がよく引用なさる事例に、エイコフの著書「問題解決のアート」の中に掲載されている「エレベータの話」というのがある。少し長くなるが、下記に引用してみよう(一部筆者により加筆・修正)。
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話の舞台は、ある大きなオフィス・ビルである。
そのビルの支配人は、最近、「ビルに設置されたエレベーターの待ち時間が長い」と店子からクレームを受けることが多くなっていた。
何人かの店子は、
「エレベーターが改善されなければ引越もやむをえない!」
と支配人を脅した。
困った支配人は、エレベーター・システムの設計の専門家をよんで、「事情」を調べさせた。
専門家たちは、エレベータシステムの動作やキャパシティを子細に分析し、シミュレーションを行った。その結果、下記の解決策を見いだした。
1)エレベータを増設する
2)エレベータの機種変更を行う
3)新たに開発されたエレベータ制御装置を新設する
要するに、専門家たちは、大幅なコストをかけて、エレベーターを増やすか、取り替えるか、関連する装置を新設しないかぎり、店子から寄せられたクレームの問題解決は行えないことを明らかにした。
また、同時に彼らは損益分岐計算を行い、そのためにかかる費用は、このビルの収入からすると大きすぎることを発見した。
かくして、エレベータシステムの改善を行うという問題解決は、完全に「デッドロック」したかにみえた。
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絶望的になった支配人は、やけになって、部下を招集し、事態を相談した。
早速ブレインストーミングの会議が開かれ、多くの代案がだされた。しかし、結果として、満足のいく解決策は提案されなかった。
議論のペースが落ち、話の切れ間にきたとき、それまで口を開かなかった人事課の新人で若いアシスタントが、おずおずとひとつの提案を行った。
「各階のエレベータの前に、大きな鏡を置きましょう。それで問題は解決するのではないでしょうか」
支配人はじめ、ブレインストーミングのメンバーは、皆、その提案に同意した。
2~3週間後、エレベータシステムに対するクレームは、一件もなくなった。
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さて、ここで、皆さんに、考えていただきたい。
なぜ、「エレベータの前に鏡を置くこと」で、「エレベータの待ち時間が減らす」という「問題」が「解決」したのか。
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それは、「エレベータの前に置いた鏡によって、エレベータを待っている人が、そこを覗き込み、身だしなみを整えたり、後ろにいる魅力的な異性に目をやったりする時間が増えたから」である。
その結果として、「エレベータの待ち時間」 – 正確に言うならば、「エレベータの待ち時間として認識される時間」は、激減することになった。
つまり、「鏡をおくこと」で、「エレベータの待ち時間は何一つ変わっていない」のにもかかわらず、その時間を「待ち時間」として認識しなくなった、ということである。
かくして「問題」は解決された。
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システム設計の専門家が行った問題解決とは、「エレベータシステムのキャパシティやスペックが不足しているので、それに対する解決策をさぐること」であった。つまり、彼らは「エレベータ」の内部に、「問題の定式化」を行った。
その背後には、彼らが、システム設計の専門性、経験、知識を有しているということがある。専門性、経験、知識、技能は「諸刃の剣」である。それは「問題解決のための重要な資源」であると同時に、問題の定式化を行う際に「活用されなければならないもの」にも転化してしまう可能性を孕んでいる。
彼らにとって、定式化される問題とは、彼らの専門性や経験や知識をもって、「解決されるべきもの」でなくてはならなかった、ということである。
一方、エレベータの前に鏡を置くことを提案したアシスタントの行った問題の定式化は、それとは一風変わっていた。
彼は問題をエレベータの側に定式化するのではなく、「待ち時間が長い」と認知してしまう人々の側においた。
「エレベータを待つ人々に、エレベータの待ち時間が長いことを何とか認識させない方法はないだろうか?」
アシスタントは、このように問題を定式化し、「鏡」の提案を行った。エレベータホールに「鏡」を置けば、多くの人々は、そこをのぞき込む。身だしなみを整える人もいれば、後ろを観察する人もでてくるだろう。
かくして、ビルの収入のすべてを奪ってしまうほどの「難問」は、数百ドルで解決することになった。
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問題解決といえば、我々はともすれば、「問題解決のプロセス」に目がいきがちである。そのプロセスをいかに円滑にまわし、エレガントな解をだすか。そこに関心があつまりがちである。
しかし、自戒を込めていうけれど、問題解決でともすれば無視されやすいのは、「問題の定式化」である。この事例は、そのことを僕たちに、思い出させてくれると思った。
その問題が、「解決するべき問題」でいいんですか?
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