2020.7.21 06:57/ Jun
他者から見た「自己」と、自己から見た「自己」の認識のズレを補正しつつ、そこに一貫性を求めることを「セルフアウェアネス(自己認識)」といったりします。人材開発やリーダーシップ開発では、頻出してとりあげられる概念です。
自己認識が喧伝される理由としては、
ひとは自分が思っているよりも、自分のことが「わからない」
あるいは
ひとは自分を虚心に見つめることは、難しい。
ということがあるからでしょう。
ひとは、他者から自己を「見つめられたり」、他者から「指摘を受ける」ことで、はじめて自己に気付かされたり、自己の行動を認識できるものです。そして、そういった指摘は、古来から常に繰り返されてきました。
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たとえば世阿弥は「花鏡」のなかで、このことを「離見の見」という言葉で表現します。
世阿弥のいう「離見」とは「他者のまなざしをとおしての、自己の客観的イメージ」をいいます。
それに対して「我見」とは「そのときどきに、自己の意識にのぼる自己イメージ」のことをいいます。
世阿弥によれば、役者は「自己を認識」しなければならない。そのためには、役者は「我見」を離れ、聴衆が自分を見ているように、自己を見つめなければならないのです。これが「離見の見」と解釈される様態です。
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これに類することは、17世紀の哲学者パスカルも論じています。
パスカルは「パンセ 断章9」のなかで、このようにいいます(わたくしめの、おやすみどきの愛読書です。文章がぶっ飛んでいる箇所が多々ありつつも、ときどき深く納得させられ、しかしながら難解なので、コテンと、おやすみのびた君状態で、深く眠れる!パスカルごめん!)。
「人を効果的にたしなめ、その人が誤っていることを教えるには、その人が、どの方向から、物事を見ているかを、しっかりと見極めなければならない。というのも、その人が見ている方向からは、ものごとはたしかに「真」に見えるからだ。
そして、それが「真」であることをいったん認めてやる必要がある。しかし、同時に、別の方向から見てみると誤っているということを、本人に発見させてやらなければならない。そうすれば、その人は満足するだろう。
というのも誤っていたのではなく、全方位的に見る術を欠いていたに過ぎないと彼が気づくからだ」
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要するに、
自己を理解するためには、自己をいったん「離脱=離見」し、自己を見つめなければならない(つまりはセルフアウェアネスには「外部性」が必要だ、ということですね)。
そして、そのときに有力な方法のひとつは、「他者のまなざし」である。
自己とは、そうした「不確かな幻影」なのかもしれません。
そしてさらに重要なことは、もしかすると「幻影」はいつまでたっても「幻影」でしかないのかもしれない、ということです。
要するに「Self-awareness」という状態が「幻影の正体をつかみとったぞ、オラオラ!」という瞬間だとするならば、ひとが「Self-awareness」という境地に生涯を通じて達することは「存在しない」のかもしれない。
存在するのは、その「不確かな幻影」を求めつづける「継続的行為」である。
だから「セルフアウェアネス」とは「状態」ではなく「行為」なのかもしれないな、と思います。
存在するのは「Self awarenessする」といった「行為」のみ!
他者のまなざしを内化する、という行為のみがある!?
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今日はセルフアウェアネスについて考えてみました。
実は、今年から僕は一般社団法人ピアトラさんと「職場の仲間からの賞賛・信頼(ピアトラスト)を通じたセルフアウェアネス(自己認識)の向上」に関する共同研究を進めています。プロジェクトメンバーは、渡辺圭さん、千葉純平さん、壷内悠伊さん、甘エイさん、川原梨奈さん、そして僕の6名です。
そんなこんなもあり、最近、この「不確かな幻影」・・・「自己」というものについて考えることが多くなってきました。
うーん難題だ!
「仲間からの信頼」が「わたしの価値」になる!? : 職場のメンバーという「鏡」を通じて「セルフアウェネス」を高める仕組みをつくる!? : 一般社団法人ピアトラストとの共同研究開始!
https://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11771
仲間からの信頼が、わたしの価値になる ― 相互称賛アプリ『Peer-Trust』提供開始 : 2020年8月末までにお申し込みいただいた先着50社に限り、利用開始から6カ月間の月額料金を「無料」で提供!キャンペーン終了後は、利用人数20名まで「無料」、利用人数21名より「有料」となります。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000059483.html
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この共同研究を行っていてつくづく思うのは、ひとは、自分の「弱み」だけではなく「強み」と思われるところにおいても、他者から指摘されてはじめてわかる、ところがまことに多い、ということです。
ひとは、
自分の弱みを、うすうす自覚していても
自分の強みを、自覚していない場合がある
ということですね。
弱みを指摘して補正することも大切なのですが、
強みを、他者の鏡を用いて自覚するという行為にも着目していきたいな、と感じています。
最後に盟友・溝上慎一さん(自己心理学者・桐蔭学園理事長)の名言でブログを閉じましょう。
ひとは「他者の森」をかけ抜けて自己になる!
そして人生はつづく
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