BASQUIAT Project
CSCL Design Project 2000
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BASQUIAT Projectは、1999年10月に一通のメールからはじまりました。CSCL メーリングリストというメーリングリストに投稿された一通のメール。その当時は、コードネームどころか、設計のコンセプトやワークフローなど何一つ決まっておらず、とにかく、今までになかったオモシロオカシイCSCL環境をつくりたい、というその一心からプロジェクトがスタートしました。プロジェクトメンバーには、これまでいつも一緒に研究を進めてきた西森、杉本、中原に加えて、新しいメンバーとして、「こだわりのプログラマー」である浦島が加わりました。その当時の4人の頭の中には、全く違ったBASQUIATが描かれていました。 コンセプトを決める作業は、困難を極めました。ネットワークコミュニケーションソフトウェアを作る際には、「同期」・「非同期」という通信方法をまず決めなければならないのですが、それさえもままならない状態でした。コンセプトメイキングミーティングでは、「役割」概念をCSCLに導入することを主張した西森氏、WIndowsライクなインターフェースではなく誰でも使えるインターフェースをめざす浦島氏、ボードシステムによる他者の思考の可視化とその共有を主張する中原・杉本氏が激しくぶつかりました。ミーティングは、深夜におよぶことも多々ありました。何かにとりつかれたような執着を、メンバー全員がもっていました。 そうこうしているうちに、メンバーが合意に至りました。コンセプトは、「役割」と「可視性」。「役割」をいれた同期型の議論支援システムに、議論の流れが可視化されるようなインターフェースが実装されているソフトウェア。通信方式には、同期型のクライアント・サーバー形式を採用し、アンチWindows形式のわかりやすいインターフェース。メンバーの合意は、こんなところでした。BASQUIATがようやくカタチになるときがきました。インターフェース図とフローチャートを完成。1999年12月現在、ようやく、プログラミングがはじまっており、2000年1月の完成をめざしています。 BASQUIAT上での議論は、ひとりの司会者、発表者、書記、つっこみ役、ボケ役などの各種の「役割」をもった人々から構成されます。この「役割」や「発言権」をコントロールするのが司会者であり、彼が議論のコーディネートを行います。書記は、みんなの思考をボードに可視化していきます。ボードの状態は、すべてネットワークで同期がとられていますので、議論の進行がひとめでわかるようになっています。 BASQUIATの開発の背景には、「議論することって難しい」「知識構築することって難しい」っていう思いがありました。とかく、日本のCSCL実践では、「知識」や「議論」というものが敬遠される傾向があり、ただ何となく「感情をマネージするだけ」のメディアになってしまいがちです。コンピュータネットワーク上で「議論」を進めていくときには、誰か「アタマのいい人」「エライ人の意見」だけが先行し、他の人はROMになってしまいがちです。BASQUIATの研究フィールドには、高等教育機関や科学教育機関を想定していますが、そうしたレベルの高い教育が行われる機関においても、知識の権威主義は大問題になっているのです。こうした諸問題を解決するために、認知の理論、社会学の理論にのっとって開発されようとしているのが、BASQUIATなのです。GoffmanからBrown, A. L. まで、BASQUIATの遊牧的知的冒険は、今、はじまったばかりです。 December, 1999 NAKAHARA,
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