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-かなり前に、Kafaiの「Constructionism in Practice」という本の読書会があった。構成主義(constructivism)というのは、この頃の教育研究では、よく使われる引用されることばではあるが、それが、一体どういう「実践」を生み出しうるのか?そのことについては、あまり触れられていないのが現状だ。この本は、そういった認識に立った実践をいくつか紹介していた。
-その中で僕が非常に気に入ったプロジェクトがあった。それが、今日紹介するM.I.T.のMedia Lab.の「Star Logo」であり、副題を「Epistemology and learning(認識論と学習)」という。 「何を今更、Logoかいな?」 と訝る方もいるかもしれない。Logoといえば、コンピュータがまだ教育現場に持ち込まれたほんの初期の頃、パパートと言うおじさんが、子供用につくったプログラミング言語である。これは1980年代半ばに、怒涛のように教育現場に普及した歴史を持っている。 -しかし、この「Star Logo」はこれまでのLogoとは根本的に異なった思想のもとに作られている。それが、副題にも表れているとおり、「認識論と学習」なのである。以下、マニュアルの記述・webの紹介文を見てみよう。 StarLogo is a programmable modeling environment for exploring the behaviors of decentralized systems, such as bird flocks, traffic jams, and ant colonies. In decentralized systems, orderly patterns can arise without centralized control. Increasingly, researchers are choosing decentralized models for the organizations and technologies that they construct in the world, and for the theories that they construct about the world. But many people continue to resist these ideas, assuming centralized control where none existsfor example, assuming (incorrectly) that bird flocks have leaders. StarLogo is designed to help students (as well as researchers) develop new ways of thinking about and understanding decentralized systems. When people see patterns in the world, they generally assume that someone or something is in charge. But often that's not the case. Many systems in the world (from ant colonies to traffic jams to market economies) are organized without an organizer, coordinated without a coordinator. They act more like "ecologies," with patterns arising from decentralized interactions. We have developed a new modeling environment, called StarLogo, to help people (particularly pre-college students) explore the workings of decentralized systems and to move beyond the "centralized mindset". For example, a user can use StarLogo to write rules for thousands of "artificial ants," then observe the colony-level behaviors that arise from all the interactions. 上の英文を読んで、あっと思った方もいるだろう。 そう、「Star Logo」はあの「並列分散系」をシュミレートするツールなのである。「並列分散系」とは、今の僕の能力でそれを一語で語ることはできないが、要するに、ここに書いてあるとおり、「中央実行系」がなくてもあるパターン(秩序)を生成しうるシステムのことである。心理学では、「PDPモデル」、工学では「ニューラルネットワーク」という分野で研究がすすめられている。 -僕はこのソフトをはじめて知ったとき、正直「やられた」と思った。非常にショックだったのだ。「並列分散」という非常に難しい概念が、こんなに簡単に「可視化」できるなんて思わなかったし、そういうツールがフリーウェアで提供されているのが、正直くやしかった。さらに悔しいことに、この研究には「遊び心」さえもかいま見られる。「ほら、こんなこともできる、あんなこともできる」という技術志向になりがちなこの世界で、M.I.T.では、「人間の認識論」という最も根本に立ち返ってメディアを創造している!! -最近、ふとした折りにStar Logoのページにいってみた。それまで、PowerPCにネィティヴ対応していなかった「Star Logo」がヴァージョンアップして、バグも大幅に軽減していた。興味のある方は見ていただきたい。 Appendix. 本稿は、1997年10月当時に執筆されたものを、このたびreviseしました。なお、構成主義とその実践に関しては、以下の文献もご参照下さい。 ○Kafai,Y.B. (1995). Minds in play. Hillsdale:NJ, Lawrence Erlbaum Associates. |