Essay From Lab : Supplement 1. BSデジタルフェアに行って来た!

2000/05/10 Update

まえがき

 久しぶりの更新になります。最近、ちょっと無理をしすぎて、とうとう倒れました。お得意の救急病院行きです。診断結果は、これまた「お得意」の「疲労による胃腸の機能低下」でした。一週間ほど「便所は友達」の生活を過ごしました。便所にいないときには、ひとり6畳一間のお部屋で、窓の外の流れる雲を見ていました。要するに「雲を見ること」と「便所でナニすること」の繰り返しだったわけです。すみません、しょっぱなから汚くて。そういえば、このあいだ、ある人にこういう指摘を受けました。

 中原くんの文章は、女の子受けしないよねー

 はい、その通りですね。とにかく、ネタにつまると「エロ」と「グロ」に走ってしまう傾向があるようです。はっきり言って苦し紛れですね。気をつけます。

 さて、今回の話題は、先日、行われていた「BSデジタルフェア」の模様です。Supplement、日本語でいうなら、「補足」ぐらいでしょうか。「補足」というのも大げさなので、「グリコのオマケ」程度のものと思っていただければ結構です。僕はあまりこの手の「お祭り」というか「イベント」があまり好きではないのですが、専門領域に近いということもあって、また、様々な<理由>から最近「映像好き」になっていることもあって、行ってみることにしました。

 「BSデジタルフェア」っていうのは、要するに、今年12月からNHKの他、民放各社、CSコンテンツ配信業者が、BSでデジタル放送をはじめるっていうんで開かれたイベントです。日本のBS放送っていうのは、これまでアナログだったわけです。それがすべてデジタルになっちゃうんだってことです。

 なんだ、アナログがデジタルになるだけかい!

 とおっしゃる方もいるでしょうが、それに対しては「そうでぇーす」と言うしかないです。

 でも、「アナログかデジタルか」っていうのは、通信方式の違いだけにとどまる話じゃないんですね。たとえば、ハイビジョン(HDTV)という走査線がフツウのテレビの2倍ある非常にクリアな放送がありますが、BSデジタル放送は、このハイビジョンに完全に対応しており、アホほど綺麗な映像を楽しむことが「できます」。
 あと、「データ放送」と言って、BSデジタル放送では、オンデマンドのインタラクティヴな情報提供が「できる」ようになります。
 また、「デジタルである」ということは、他の機器(Appliance)との接続が容易になります。BSデジタルチューナーには、IEEE1394のインターフェースもついているので、コンピュータとかとも簡単に接続が「できます」。

 さて、「できる/できます」を3連続でぶちかましましたが、この「できる/できます3連続」に対して、「So What?(だから、どうしたんだ?)」っておっしゃる方も多いのではないでしょうか。それでどのように「我々の生活や教育や学習の現場が変わるっていうんだ?」とおっしゃりたいのではないでしょうか。

 はい、その通りですね。先にあげた「できる/できます」っていうのは、現段階では「技術的な可能性」でしかありません。よく誤解されるのですが、「技術的な可能性があるということ」は、「我々の生活や教育や学習の現場が<変わる>こと」とイコールじゃありません。だから、これから書く文章も、そのあたりを差し引いてご覧になっていただきたい、と思います。以下、中原が「BSデジタルフェア」で心惹かれた光景の写真と、それに対するコメントというかたちで、書いていきたいと思います。

 

子どもが多かった


「アルファベット」で遊ぶ子どもたち

 この写真は「デジタルお楽しみ館」というところで撮影した写真で、最近発売された「アルファベット」というCD-ROMで子どもが遊んでいるところですね。2年前だったかに「真夜中のお芝居」というCD-ROMが発売されて、そのアーティスティックな「つくりこみ」が、一部の情報教育マニアのあいだで話題になりましたが、その続編らしいです。


子ども盛りだくさんでした

 まぁ、とにかく、BSデジタルフェアには、子どもが多かったですね。放送センター前には、特設の遊び場が設けられていて、いろんな遊具がおかれていました。マニアなお父さんがたは、ここで子どもを遊ばせておいて、中の展示を見ていたのかもしれません。

 

電子ブック


電子ブック

 わたくしめがさわっているのは、「電子ブック」の試作マシンらしいです。「NHK出版」という会社の事業でした。結構、ページめくりが早くて快適でした。が、ちょっとでかすぎる気がします。昔、ポータブルCDプレーヤーが売り出された頃、S×NYさんが「ポケットに入るCDウォークマン」というコピーの宣伝をやっていましたが、とてもポケットには入りません。また、敢えて「電子ブック」で見なければならないコンテンツって何なのかなぁっていう素朴な疑問もわいてきました。

 

バーチャルスタジオ

 これはバーチャルスタジオのセットです。バーチャルスタジオっていうのは、CG(Computer Graphics)のセットという感じでしょうか。セットをつくるのは、お金もかかるし、運び出しも大変なのだそうです。だったら、CGでいいじゃん、って感じでしょうか。
 お兄さんが持っている「おじゃる丸」のうしろがブルーバックになっていますので、輪郭を検出して、あらかじめ用意してあるCGと合成することができます。横のモニタにちょっとだけ合成後の映像が映っています。

 

ハイビジョン


BSデジタル放送とハイビジョン

 言うまでもなく薄型のハイビジョンですね。写真だとあまりわからないかもしれませんが、「花火」と「お魚」たちの映像がものすごく綺麗でした。会場では、BSデジタルニュースのスタジオがあって、実際のキャスターの方がニュースを読んでおりましたが、ハイビジョンは、そのキャスターの方の顔に塗ってある「ドーラン」まで忠実に再現します。要するに、化粧すらバレるほど綺麗だってことです。どこぞで聞いた話ですが、ハイビジョンを嫌がる女優さんとかも多いらしい。


BSフジ

 先ほども言いましたが、BSデジタル放送には、民放各社も参入するわけですね。この写真は「BSフジ」の写真です。BSフジは、若者にターゲットをしぼった番組づくりをするらしい。そうやって、他のBS各社との、あるいは、地上波のフジテレビとの「差異化」をはかろうとしているようです。差異の時代、差異は時代。
 それにしても、これは関係ないことなのですが、今回のBSデジタルフェアに行って、ものすごく驚いたことのひとつに、来ているお客さんの年齢層っていうのがあります。とにかく、「年輩の方」が多いのです。「年輩の方」に比べたら、「若者」の数なんてごく少数でした。通常、「新しい技術」には、年輩の方っていうのは、とっつきにくい、心理的バリアがあるって言われていますが、ホンマかいなとアタマを傾げたくなりました。日本の中高年層、万歳!という感じです。

 

ハイビジョン編集


ハイビジョンの編集機器

 単なる興味でとりました。先ほども述べましたが、会場にはスタジオが設置されていて、実際の放送が行われていました。

 

データ放送


データ放送の様子

 データ放送の様子です。左側の画面では、プロ野球の結果が表示されていますね。右側の画面では、天童よしみの下に「クイズ投票」とか「レポート」とか書いてあるボタンが見えます。要するに、双方向の放送を可能にする技術といった感じでしょうか。「おそらく」、データの受信はBSデジタル放送波の帯域で、データの送信は電話回線を使用する模様です。「おそらく」と言ったのは訳があって、会場内のどこを見渡しても、この「データ放送」の仕組みをキチンと技術的に解説してあるボードがないんですね。どんなプロトコルを使っているのかな?、とか、帯域がいくらあるのかな?ってことが知りたかったのですが、全然具体的なところはわかりませんでした。どなたか教えてください。

 

ホームサーバ


ホームサーバー

 これはまだ「試作」の段階らしいです。言うたら、「奥さん、未来はこうなりますよぉー」式のデモンストレーションということですね。右側の写真だけでもうわかると思いますが、各家庭にホームサーバという、大容量のハードディスクを内蔵したサーバーが設置されるようになり、そこに大量の情報がBSを使って落ちてくる。で、左側の写真の「おばさま」のように、リモコン片手に、好きな番組を好きな時間に好きなところから見ることができるようになるってことです。なにやら、子どもの学習材もBSを経由して、ホームサーバーに落ちてくるようになるらしいです。ポイントは、それでどんな「学習」ができるのかってところなのですが、今回はそれについてはツッコミを入れないようにします。

 

DVD - 未来の視聴覚教育


DVDを使ったシステム

 これは「里山」というDVD教材のデモンストレーションです。未来の教室というか、未来の視聴覚教育の姿みたいですね。各端末には、「スクールブラウザ」という専用のソフトが立ち上がっていて、その横っちょの方にはWindows MediaPlayerがある。Windows Media Playerには、LAN経由でDVD映像が配信されます。スクールブラウザには、「疑問」だとか「わからなかった」とかいうボタンがあって、学習者は教材を視聴しながら、それを押したり、いろいろコメントできるといった感じでしょうか。僕らが現在開発しているBASQUIAT PROJECTも基本的な路線は似ています。

 

映像コンテンツデータベース


学校放送MPEG1データベースシステム

 最近、大流行の映像コンテンツデータベースです。これまでの映像コンテンツを分類して、検索可能にして、データベースにぶち込みますよ、と。で、学習者はそうしたコンテンツをネットワーク経由で検索できて、さらに視聴もできちゃいますよーっていう感じでしょうか。噂によると、いろんなところで、いろんなテーマの映像コンテンツのデータベース化されようとしているらしいです。この写真のシステムは、MPEG1での検索システムとありますから、Video CDレベルの画質の映像コンテンツデータベースということになりますね。
 映像コンテンツのデータベース化に伴う問題点としては、様々な問題があるように、僕は思います。具体的なことはここでさけますが、その一端は「Fragment2. データベースはコエダメじゃない」を見てください。

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 さて、今回はSupplementとして、BSデジタルフェアの一端をご紹介いたしました。いずれにしても、こうした「イノベーション(Innovation)」が我々の生活に浸透し始め、何かを<変える>ことを「期待」されていることだけは間違いないようです。それは、我々の生活の「便利さ」であったり、学習の「質」であったりするわけですが、とにかく、それだけは間違いはない。
 しかし、こと「学習」の問題を考える際に、気をつけなければならないことがあります。それは、学習とはそもそも「何」であり、既存の学習の「何」に問題点があり、新しい学習を「何」のかたちに変えていくか、ということです。自戒をこめて言いますが、この「3つの<何>」をしっかり明らかにしなければならないまま、イノベーションが教室や学びの場を「襲う」とき、人々の間で展開される学習の質は、実は、ものすごく旧態依然としたものであったりすることが多いのです。新しい技術を使って、旧態依然の学習を組織してしまうことが、いかに多いかを開発者としては、知っておかなければならないように思います。

 未来の生活、未来の教室、未来の学習 - それは遠い時代の出来事ではありません。


NAKAHARA, Jun
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