MOOSE Goes to school:

A Comparison of Three Classrooms

Using a CSCL Environmet

Amy Bruckman

Austina De Bonte

rep. Jun NAKAHARA

Graduate School of Human Sciences Osaka University

-Summary-

■Abstract

 

 MOOSEはテキストベースのヴァーチャル・リアリティ環境であり、8歳から13歳までの子どもに、一般の学習、読み書き、コンピュータプログラミングのための「有意味なコンテキスト」を提供することを目的にデザインされている。MOOSEは、家庭から使用できるほか、放課後の学習などにも活用でき、一般の授業活動にも徐々に浸透している。

 MOOSEは今まで、5つの教室で使われてきた経緯があるが、本稿は、それらのうち3つの教室におけるその使用を比較し、それぞれの教室の文脈におけるMOOSEの使用を成功或いは失敗させる要因を分析するものとする。その結果、際だった問題としては、コンピュータへのアクセスにかかわる問題、使用者の中に専門的な知識をもった人が存在するかという問題、学習活動の自由度の問題、また学校の雰囲気の問題がある。

■Introduction

 

 CSCL(computer support collaborative learning)が成功するか失敗するかは、ソフトウェアの問題というばかりでなく、そのソフトウェアが「使用される文脈」に依存することは、既に知られている。

 MOOSEは、これまで3つの州の5つの教室で使用されてきた。MOOSEのプロジェクトに参加した教師は自発的な参加である。彼らはMOOSEのことを様々な媒体を通して聞きつけ、それを教室に持ち込んだ。しかし、子どもたちのコンピュータへのアクセスが制限されているところもあるため、今回は3つの学校(California Public・Minnesota Public Advanced Work・Massachusetts Public-いずれも仮称)にフォーカスし、事例研究を行うものとする。MOOSEはネットワーク上に開発された学習環境であり、オンラインにおけるコラボレーションを支援することを目的に設計されている。

■The MOOSE project

 

 先の述べたとおりMOOSEはテキストベースのヴァーチャル・リアリティ環境であるが、構成主義的な子どもの学習を支援することを目的としており、技術的な意味においても、設計を左右する哲学においても子ども向けの他の「MUDs」とは異なっている。技術的には、MOOSEというオブジェクト指向言語を開発しており、MacMOOSEという子どものプログラミングを容易にするinterfaceがある。これによりMOOSEの世界において子どもは、新しい場所や新しいモノ(object)をつくったり、それに「ふるまい」をもたせることによって、他者とともにヴァーチャル・ワールドを構成できる。

ex.1 自閉的なBillの例

・ペットをつくる

 MOOSE projectはヴァーチャル・リアリティを他者と協同してデザインするという「共有されるproject」の遂行過程を支援する。学習環境デザインの「成功」とは、子どもの技術を改善するような、或いは、創造的な表現を支援するようなプロジェクトに、子ども自身が参加してはじめて実現するのである。

 また、多くの構成主義的な学習環境はこれまで「個の学習」の支援に焦点をあわせていた。しかし、MOOSEは構成的な学習の「コミニュティレヴェル」で支援を協調する。MOOSEにおいて、子ども達は他者と共有できるモノ(object)をつくることができ、また、それによって、他者の学習経験を動機づけたり、支援することができる。またMOOSEのコミニュティは、学習のリソースであるばかりでなく、彼らが互いに他をemulateするrole modelでもある。

■Three classes(Table.1参照のこと)

 

(フィールドワークを行っているが、それは子どもの構築したモノ(object)とオンラインのログデータの補足として利用されている。)

1. California Public

・コンピュータへのアクセスが容易

・3校のうち一番利用率が高い(ex.room・pet)

・中には技術的なサポートの役割を遂行する子どももいる

・男女の差がなくMOOSEに魅了される

・クラス内でMOOSEのプロジェクトをつくって、問題解決にあたった

2. Massachusetts Public

・コンピュータルームには、様々なEducational Softwareがある。MOOSEもその一つである。子どもはそれらを自由に使用することができる。コンピュータへのアクセスは容易。

・ハマル子どもはハマル→「local expert」になり、他の子どもの参加を支援する。

3. Minnesota Public Advanced Work

・一週間に一時間ぐらいしか使えない。

・この学校のコンピュータラボは、internetに接続していないため、隣の大学のコンピュータルームにスタッフと共に行く必要がある。→MOOSEの使用が堅苦しい雰囲気の中行われる原因になる。

・コンピュータへのアクセスは困難。

・他の2校にくらべてあまり熱中しない。

■Success Factor

1. accessibility

 コンピュータへのaccessibilityの容易さ、換言するならば、自由な時間に自由に使えるコンピュータ学習環境は、MOOSEへの参加への動機付けに望ましい影響を与える。コンピュータが教室にあり自由にアクセスできる状態であれば、彼らがコンピュータを使用する時間が増加するばかりか、「コンピュータがどのうなものか?それで何ができるのか」という認識論的な転換がはかれる。

2. Existence of Peer Expert

 California PublicやMassachusetts Publicには、MOOSEの専門的知識をもった子どもが出現した。これによって、仲間内での技術的なサポートや動機付けが可能になる。また、これらの人々がコミニュティ全体とそのメンバー構成員の橋渡しをおこない、新しいアイディアや専門的知識の普及を促進するのである。

3. Free form vs structured activity

 教室における学習活動の自由度が高い学校は成功する可能性が高い。

4. Atomosphere

 学校の雰囲気・文化によって、コラボレーションの成立・非成立が左右される。

■conclusion

 CSCLの学習環境は、学校においてコラボレーションを支援するが、我々の観察に寄れば、ひとつのCSCL toolによって、根元的な文化的転換がひきおこされることはない。我々の観察に関する限り、MOOSEの成功に影響を与えるのは、ひとつにコンピュータへのアクセスの容易さであり、学校の風土や文化であり、協同的学習に対して教師がいかなる態度をとっているかなのである。

-critique-

 当該研究は、pepartのLOGOの実践の系譜の延長上にあると理解できる。pepartのLogoは、piaget理論の強い影響のもと、「頭」の中の表象操作を可視化する道具として開発されたことは周知の通りである。MOOSEは、LOGOにおいて「個人-環境」に閉じられていたinteractionを、Networkを媒介することによって、他者・コミニュティに開いたといえる。

 MOOSEはオブジェクト指向のvirtual reality modeling toolである。その意味で文字どおり「世界づくりの道具」といってよい。この報告では、個々の学習者がいかなるobjectを構築し、それを媒介として、他者といかなる関係を取り結んでいたのかはかならずしも明確ではない。報告者の個人的な関心から言えば、そちらの方に興味があった。

 道具はそれの使用される文脈によって、様々な高次精神活動を生成する。こういったのはvygotskyであるが、この研究自体は「学習活動がコンピュータが使用される文脈に依存していること」を明らかにしたといえる。教師の教育的信念・教師文化・学校文化などはこれまで教育社会学の主要な研究分野であったが、今後、教育工学もこうした「教室の文化的・社会的要因」とメディアの関係について明らかにしなければならないと思う。

-suggestion-

 僕自身の興味関心からすれば、このvirtual realityが今後、如何に「成長」していくのかを観察してほしいと思う。たとえば、様々なユーザーがネットワークを介して、自由に世界を「構築」できるというNetwork RPGにおいては、ゲームの始まりと共に、ユーザー同士の「殺しあい」がおこり、その後、自然発生的に自助的な防衛組織がつくられ、その後、階級が誕生するということが現実におきているという。

 人間は如何にして発達してきたのか?なぜ人間には集団が必要だったのか?こうった太古の昔から問い続けられたアポリアに、新しい回答をあたえるのが、実際の人間をユーザーとした「世界構築シュミレーション」なのではないだろうか。


NAKAHARA, Jun
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