■Abstract
“The Fifth Dimension”とは、コンピュータゲームをする周辺で組織される共同的な学習を放課後に設定したものである。ここでの学習や共同のようすの分析の観点は「活動理論」である。活動理論からの分析は「学習と発達のへ社会的文脈の影響に基づいたメカニズムは個人的な活動と共同的な活動の間での相互変化である」と提案している。
間主観(相互主観?)の「ライフサイクル」の3つの異なった段階が明らかにされた。
1 個人的な活動の外的な調
2 グループのアイデンティティの出現
3 グループの経験を個人的な活動へ転移
そして、CSCL環境のデザインと評価のための研究の意味も論じられている。
■The social nature of learning:Implications for CSCL
人間の学習と発達における社会的文脈の役割には、2つの相互的に排他的な観点がある。
1 学習とは各々の個人の興味によって促進されうる完全に個人的なプロセスである
2 個人的な学習と社会的な相互作用は同じ現象の異なった様相にすぎない
(VygotskianのZPD(発達の最近接領域)とよく連合される)
CSCLの分野における、この2(そしてVygotskyのZPDの考え方)に基づくアイデアの応用の試みが示された。M.Coleは初期の論文でZPDを個人的な現象と社会的な現象の間の仲介人としての役割について論じている。最近の論文ではLeontievの活動理論やFifth Dimension Projectで集められた経験主義的なデータも取り入れている。このデータは個人的な現象と社会的な現象がそれぞれ相互に決定するいくつかの特殊な方法を示すだろう。
■Individual and collective activities
活動理論によれば、人間の心は個人(「主観」)と外界(「客観」)の間の相互作用の文脈のなかでのみ理解されうる。この相互作用は3つの段階で起こる。
1 活動:人間の必要に一致した活動、また客観に向けられた活動(動機など)
2 目標志向性の行動:動機を達成するために遂行されるべき行動
3 状況的に決定された操作:目標を達成するために実行されるべき操作
そして、活動理論の基礎をなす2つの主な考え方がある。
1 心は活動より重要な存在ではなく、活動なしには存在しないが
世界と人間との相互作用の構成分子として発達する。
2 活動は本質的に社会的である。
オリジナルの活動理論は個人的な活動を扱うものとしてとられていたが、最近ではCSCLなどでもそうだが、個人を超えた、例えばグループや組織や共同体の活動もカバーする。
共同的な活動と個人的な目標や動機とが矛盾し衝突することもあるが、我々の観点では、そのような矛盾とそれらの分析は部分的にZPD内での学習と説明しうるものである。特に、このような矛盾は共同的な活動の新しい型を作り出すのと同時に個人的な価値や目標やストラテジーの修正となって終わるものである。
ZPDに基礎をなすメカニズムについての我々の仮説は、学習者が行動の2つのヒエラルキーに同時に含まれているという仮定の上にある。一方で個人的な目標を追求し、もう一方で他の人々といっしょに共同学習の目標を明確に述べたり達成するための努力をする。これらのヒエラルキーは部分的に一致している。学習者は2つ(もしくはそれ以上の)矛盾した見通しを潜在的にもっている。そのような矛盾は新しい個人的な活動や行動や操作の出現の背後で力となりうる。この仮説はThe Fifth Dimention Proect内で集められた経験主義的なデータのもとで論じられた。
■The Fifth Dimention Proect:An overview objectives
The Fifth Dimention Proectは1986年、テクノロジー中心のアプローチによるコンピュータの教育利用が優勢だった頃、その代わりとして始められた。焦点は、子どもの学習と発達のための最高条件を与えるテクノロジーの利用の社会的文脈にある。最初から、持続性がプロジェクトのガイドになる原理の一つであった。また、明白な目標は、存在する公共施設と潜在的に合同しうる、そして研究者たちからの特別な支援なしに生き残ることが可能な一般的な社会環境をデザインすることであった。コンピュータツール、ここでは特に教育的なコンピュータゲームであるが、それらがちょうど目標システムの構成要素と考えられた。子どもたちのための教育的に有益なコンピュータベースの環境を作ることがこのプロジェクトの唯一の目標ではない。
△Setting design(設定デザイン)
目標設定は「model culture」としてデザインされた。それはそれ自身がルール、基準、人工物、神話をもっている。共同的にコンピュータゲームをすることが設定における活動の中心である。活動を統制する人工物は次の3つである。
1 task card
付加的なゲームに関連した課題を提案することと記述と反省を刺激することにより、ゲームのプレイ過程を構成したりゲームプレイの教育的な構成要素を強調する。
2 the conseqence chart
あるゲームが達成された時のあるパフォーマンスレベルの後に可能なゲームの選択を子どもに与えることにより、ゲームのプレイの続きを決定する。
3 the Constitution of the Fifth Dimention
設定の基本を含む。子どもたちはその場に出席している大学生といっしょにプレイすることになっている。the Fifth Dimentionでは子どもと大人の力の差を最小にするため、「The Wizard」の神話の形がシステムに導入されている。the Fifth Dimentionの「市民」の間のすべての矛盾は、e-mailでコンタクトをとったWizardによってのみ分析される。
△Games(ゲーム)
the Fifth Dimentionではさまざまなゲームを含んでいる。
知識ゲーム、シミュレーション/モデリングゲーム、ドリル&プラクティス型のゲーム、ロジックゲーム、数学ゲーム、アーケードスタイルのゲーム。
△Implementation strategy(ストラテジーの遂行)
持続可能なものになるために、the Fifth Dimentionの設定は、超期間、外の資源から必要な資源を得ることが必要である。the Fifth Dimentionでは、互いに補足しあう資源と結合することを考えた。子どもたち、場所、知識(共同体)、子どもたちの学習を支援する大学生(大学)といったものである。このようなストラテジーが成功を与えた。(the Fifth Dimentionのサイトはアメリカ、ロシア、スウェーデン、フィンランドなどたくさんのところにある)
the Fifth Dimentionにおける大人の比率が高かったことが、設定における学習プロセスを組織する中でVygotskyのZPDの概念を使うことにユニークな可能性を与えた。
■Three phases of intersubjectivity
the Fifth Dimentionにおける学習と発達の経験主義的なデータの主な資源は各サイトを訪れた後に大学生が書いたフィールドノートである。相互主観性の「life-cycle」の説明に使っている。
Phase 1. External coordination of individual activities (pre-intersubjectivity)
the Fifth Dimentionに、人々はそれぞれの目標を持ってやってくる。しかし、the Fifth Dimentionでは一人で目標に到達することはできない(それは設定の構成がチームを作って調和されたチームワークの結果としてのみ欲したことを得ることを必要としているから)。
多くのケースで問題なくチームが作られた。しかし、チームを作る時に問題があったところもあった。子どもが、ゲームに興味を示しthe Fifth Dimentionのルールにも従おうとするが、同調したくない、という例がある。また、the Fifth Dimentionのルールに従おうとせず、すべての支援を拒絶するという深刻な事例もあった。
Phase 2. Emerging group identity (intersubjectivity)
個人的な活動が同調とよく関連してくる。前のセクションで書かれた問題のあるケースで、同調することが欠如している状態が相互主観を発達させることをより難しくしたが、結局、ほとんどのグループが本当の共同的な活動の様相に入った。
共同的なゲームプレイは個人の努力の有能な同調によって特徴づけられ、しばしば強い感情をともなう。その感情はポジティブなものもネガティブなものもどちらもチームのメンバーに共有される。フィールドノートで「we」を使っている状態の時はこのような状態の時である。
Phase 3. Transfer of group experience to individual activities (post-intersubjectivitiy)
the Fifth Dimentionにおける子どもの観点から、共同的な活動の最も重要な側面は設定のルールに従うことへの必要性とtask cardに述べられた教育的な活動の強調である。前のセクションの上に、ほとんどの子どもたちが特別にデザインされた「side」活動と設定のルールに従うことに注意を払い始めた。時には共同的な学習の同調のために責任をとり始める子どもたちさえいた。最終的には、共同的なゲームのプレイへの参加が学習結果に帰着しうる理由が多数証明された。
■Conclusion
この論文における分析は、CSCLの分野における2つの大まかな意味がある。
1 成功する学習は真正の活動の中で起こる時に促進される。例えば、学習者が意味のある目標に達成する時、学習者は実行する課題に知的に、また感情的に従事している。(この考えはCSCLの中で広く一般的に受け入れられているのだが)この考え方が個人的な活動だけでなく共同的な活動にも同様に適用されることをこの論文は証明した。
→CSCLの環境を作るには真正の共同的活動の評価と支援を含むべきである。
2 この研究は共同的な学習のための環境設定の時に考えられるべきたくさんの要因を示す。それらは、興味の多様性(相違)に出会うこと,選択の可能性を与えること,十分な時間,最初の成功体験,感情をメンバーが同時に同じ場所で共有すること,建設的な矛盾を防ぐのではなくその矛盾を解決する状態を与えることである。
以上をまとめると、この論文で、我々は、ZPDにおける学習の本質への探索における活動理論の概念的なシステムを用いた。また、我々は、この学習は個人的な活動と共同的な活動との間の相互作用によって決定されていると提案した。
文化的な設定は、新しい共同的な活動への参加を含むために、資源やアフォーダンスや強制を与える。人々は共同的な活動に参加する時は個人それぞれの理由で参加し、そのような活動はしばしばその人自身の論理に従って発展するが、次第に学習者は2つの異なる見通し(個人的なものと共同的なもの)に調和していかなければならなくなる。この同調のプロセスで、学習者は新しい個人的な意味やストラテジーやスキルを獲得することができるのである。
共同的な学習が子どもたちの学習にとって有益であるというのはよく目にするが、その共同的な学習に至るまでの過程に着眼した論文だと思われます。
そのためにも、もう少しthe Fifth Dimentionの全体像が明らかにされていて欲しかったです。例えば子どもたちといってもどのぐらいの子どもたちで構成されているのか、長期間でにわたる研究ではあろうが、頻度とか。また、Wizardのこととか。e-mailが出て来るってことは誰がそれを使っているのか、とか...。大学生は子どもの傍にいるんですよね?
どんなゲームをどのようにプレイした時に、学習者が、個人的な活動から共同的な活動へと移行し始めるのか、というもう少し具体的なところに個人的な興味があったためなのですが。
せっかくいろんな種類のゲームを集めてきたけど、そういった部分が記述されていないということは、そういったゲームの種類を超えて起こる結果だったのでしょうか...。
また、感情の共有という部分にとても興味があります。どんな時のどんな感情が子どもたちの学習の促進になるのか、それが起こる時はどんな時か、個人的にはその辺がとても知りたいです。