KidCode : Using Email to Structure Interactions

for Elementary Mathematics Instruction

Michell Baker Judith Levy Cohen Babette Moeller

rep. Kanji MURAKAMI

Graduate School of Human Sciences,Osaka University

-Summary-

■Abstract 

 KidCode とは電子メールをベースとしたソフトウェアで、具体的な数学的活動と術語としての数学との間の概念リンクを発達させる必要性に取り組むことで、NCTM(全米数学教師協議会)の初等教育カリキュラムの基準を補うために設計されたものである。これは、コミュニケーションを目的として作られた記号体系の一つとしての数学を探求する機会を、子どもたちに提供する。ここでは、暗号と秘密のメッセージを主題の中心においた、ひと続きの4つの対戦ゲーム(?:two-person games)を設計し、そのゲームの形成的評価を行った。

 KidCode によって、暗号の創作と暗号化されたメッセージを作ることによって、子どもたちが多種多様な記号操作を伴う体験を増やすことができる。子どもたちは、テキストや単純な絵といった実体の記号体系を理解することから、空間の関係の暗号化された表現や、オペレータの行動の表現を発達させる。ここでは、初等教育の年代の子どもたちの間での協同的相互作用を構築するための電子メールソフトウェアの使用が、どのようにして数学指導の基礎となりうるかということの例を提供する。

 この研究で使われた素材は、紙とポスターボードである。対象は3人の大人と、幅広い社会経済的な背景をもつ1年生から4年生(5歳〜10歳)の12人の子どもである。この研究では、このゲームが子どもたちの記号操作の能力を改善することができること提案する。

 この研究ではKidCodeのゲームのひとつである、Rebus(判じ絵)Gameを詳細に記述する。紙の素材をもとにした形成的評価は、KidCodeソフトウェアの設計思想を試みること、子どもたちの記号捜査能力を発達させることに役立ち、また、電子メールの文脈において効果的に働くであろう。

■Background and Rationale

 子どもたちにとって学校での数学が難しいことは、「記号体系としての数学」と「物理的世界を記述するのに役立つ数学的概念」との間の概念の結びつきの発達がうまくいっていない、という調査結果から、KidCodeの思想が生じた。実際世界においては数学的試行や計算能力は発達していうるのだが、学校での数学の応用は限定されていたり、発達に抵抗しているようだ。

 子どもの基本的な数学的概念の理解は、小学校にはいる前から発達しており、加減の単純な計算などは解くことができる。しかし幼い初等教育段階の子どもは、記号操作を行うような経験がとても限られておりその能力が十分発達していないにもかかわらず、学校では記号操作を要する難解な問題を解くことを要求される。

 子どもたちが記号操作を行う能力が発達する前に、記号操作を行う数学を強調した結果は、悲惨なものだった。子どもたちは初等教育の初期段階で、学校の数学は無意味な記号体系を扱うことだという誤概念を発達させたため、学校数学と実際の経験は無関係なものとして切り離して考えるようになった。子どもたちは、学校に入って数年して数学の問題を解く能力が低下している。

■Summary Description of the Research 

 この研究の目的は、幼い子どもたちが記号操作を巧みに行いその表現を仲間に伝えることを可能にするコンピュータソフトウェアの可能性を論証することである。この研究の重要な部分は、自己教育を意図したゲームのアイデアを試行し洗練することである。加えて、対象年齢の幅を1〜4年生とし、子どもたちの知識の発達の足場を子どもたちがお互いにつくりあうように、ゲームを進歩させたい。このゲームは、教師の介在を要求されず、記号操作の理解を伴うより洗練された技術を導き、子どもたちが自分から進んでするような興味深くおもしろいものにしたい。

 暗号化と秘密のメッセージというテーマは、記号操作について学習するにはもってこいであることがわかった。また、双方向的なコミュニケーションという文脈は子どもたちにとってとても魅力的である。子どもたちはコミュニケーションが秘密であるという考えを好み、メッセージの解読を予想するとき、明らかに楽しんでいる。また、相手が間違ったとき、笑いを共有するような活発な活動をおこなった。。

 コミュニケーションをとることの重要な利点は、誤った理解が参加者にとって重要なフィードバックのもととなることである。誤った理解は失敗ではなく、メッセージの基礎を修正することができる有用な情報として解釈される。これは数学において、とても幼い子どもたちが、正しい答えは一つで正解か間違いしかないという先入観を持ってしまう、という場面で重要となる。最終的には、このゲームが子どもたちが記号操作を伴う能力を発達させるのに助けとなることを提案する。

 この研究では、形成的評価がどのようにKidCodeゲームを進歩させ、ソフトウェアデザインを伝えるかに焦点を当てる。

■Related Work 

 協同的学習のためのソフトウェアは普通協同的に問題解決を行うための道具だと考えられている。この場合の問題は、入力装置の共有、ディスプレイの共有と操作、問題解決に参加する人のコミュニケーション手段、となる。しかしKidCodeは協同的学習に対して異なったアプローチをとる。それは、相互作用とは協同的な問題解決としてではなく、コミュニケーション(??)として構築されることである。協同的な問題解決場面において、コミュニケーションは欠くことはできないが、問題解決という参加者の目標を補助するものにすぎない。KidCodeを用いれば、コミュニケーション自体が参加者が解決しようとする問題となる。協同的問題解決においては、学習は、子どもたちがお互いに考えを議論するときに起こるが、KidCodeでは、誤って理解されたコミュニケーションを修繕しようとして、子どもたちが彼らの理解を改訂し洗練するときに行われる。

 KidCodeは他の初等数学カリキュラムの教材(?)とも著しく異なっており、他のほとんどが、NCTMのStandard 2(「コミュニケーションとしての数学」とは数学的活動の言葉での議論を伴うものだった)をしようとしている。子どもたちは問題可決の方法を議論し、表やグラフは記号操作の重要な携帯として提示されたが、ここでのコミュニケーションの考えはしばしば、単なる数学について語る言葉上の手段という見方にすぎず、「表現の数学的形態」と「コミュニケーションの手段としての数学の役割」の統合はしばしば無視されている。

 暗号化と秘密のメッセージというテーマは、ミドル・スクールの年代の子ども向けの数学学習ソフトでも使われている。

■Formative Evaluation Procedure 

 具体的な手順について。(略)

 全てのゲームが以下の手続きによって管理されていた。

○ 被験者はゲームの仕方を、一歩一歩メッセージの暗号化と解読の仕方の指導を与えてくれる、ゲームのサンプルを通して被験者と話をすることで指導された。

○ 被験者は、暗号化する側と解読する側の両方の役割をする機会を持つため、それぞれのゲームを複数のバージョンで遊んだ。

○ 指導を含んだ完結した活動の中で、被験者の相互作用とゲームの選択はビデオの観察ノートで証拠として示された。

○ それぞれのゲームが完了したあと、被験者はどのようにしてゲームを好きになっていったか訪ねられた。また、彼らは特定の反応、行動、ゲーム選択を説明させられた。

■Rebus Game : Introduction to using symbol 

 ゲームの概要。

 暗号化する側に、いくつかの単語に下線を引いた文を見せる。下線部分を消し、ぼってんをおいたものを見せる。解読者はぼってん部分に記号や絵をあてはめる。それを解読する人に送る。解読する側の人は、判じ絵形式の文章を、原型に戻す。

 子どもたちはゲームをするうちに、目標がパートナーにメッセージを理解させることであることを学習した。彼らは、暗号化する役割と解読する役割を演じることが何の意味があるのかを学習し、そしてパートナーの考えていることを予想し(あるいは推論する)仕方を理解し始めた。

 Rebus Game のその他の重要な面。

(a)「対象」「出来事」「考え」「対象の特性」が記号によって表現されうること。

(b)記号の重要な目的は、我々が他の人々とコミュニケーションする手助けとなること。

(c)記号は多くの異なった形を持ち、その与えられた記号は多くの意味を持ちうること。

(d)記号の選択は話し手の自由裁量であること。ある記号は他のものよりよい、なぜならそれらは受取人にとってより簡単に解釈できるから。記号の選択での抽象概念は、可能な解釈を制限する事によって、予想可能なコミュニケーションを増す。

(e)参加者に「正しい答えを得」ようとする試みを放棄するよう促すこと。子どもに言語のポイントはコミュニケーションであることを示すこと。そのやりとりと複数の反復が期待されている。その失敗は啓蒙的(?)でおもしろい。

■Implications for Collaborative Learning  

 双方向的なコミュニケーションは子どもたちにとってとても魅力的であることがわかった。

 Rebus Game において、初めは「正しい答えを得る」こと焦点を当てていたが、1・2巡した後からは、暗号を作る相手の反応へと焦点を移していった。焦点をコミュニケーションに変えていったことは、このゲームの重要な特徴である。特に、言語として数学を理解することへの対応として。

 もう一つ驚くべきことは、性(gender)がゲームの目的であるプレイヤーの解釈に相互に関連があることである。相手に解読が難しい暗号を送り、どちらが早く解読できるか競争的になる少年がいた。

それでもこのゲームが協同的なプレイを促すことがわかったので、今後「チームプレイ」の様な刺激をどのように合体させ、全てのプレイヤーを協同的なアプローチへ適応させるか研究する。

■Implication for Software Design 

 形成的評価と双方向的なインターフェイスのデザインは、ソフトウェア開発者にとって欠かすことのできない方法論となってきた。

 Rebus Game と明確に関係する設計として以下のものが挙げられる。

(a)2・3の記号が多くの子どもにとって理解できない。=>あたらしい記号をみつける。

(b)幼いほうの子どもたちのほとんどが、アルファベットと数字の組合わさった表現を使えなかった。=>学年のレベルに対する可能なゲームの仕立て方。

(c)多数の記号が混同され、不必要であった。=>記号のライブラリーは適度なサイズにし、学年によって可能に仕立てる。

(d)記号の置き換わるものを検索している間、子どもたちはしばしばイメージを調べるのに熱中し、置き換えようとしている言葉を忘れる=>暗号化されるメッセージの保存と、暗号化している間も同じスクリーンで見ることのできる記号ライブラリーからの選択

(e)カテゴリー化による記号の組織化は、幼い子どもたちを非常に混同させる。言葉による組織化は、彼らにも役立つ。

(f)年上の子どもたちは自分たちのメッセージを暗号化することができるし、非常に楽しんでいる。記号のライブラリーの中身をよく知るようになったあとでは、彼らは適切な記号が使えるようになるのでたやすくメッセージを作るようになった。

(g)幼い子どもたちは、性能(capability)を??要求するが、しかし、他にはゲームをすることに問題はなかった。

 最も重要な発見の一つに、注意深い指導と(あるいは)他の足場づくりが、子どもたちにとってゲームを理解しプレイするために要求されていることが、評価からわかった。

ゲームの文脈の中に十分な指導が準備されていることが、プログラムの成功を決める重大な要因である。

 Rebus Gameは全ての子どもが楽しめるが、発達のレディネスが子どもたちの興味のレベルの重要な決定要因となることがわかった。

■Conclusion  

 KidCode Gameは、数学において共通に使う特定の表現を伴う子どもの能力を進歩させ、そして子どもの記号操作の能力を進歩させるようであることがわかった。

 ゲームが子どもの抽象的表現の意識的な理解と、もとにある意味をとり戻す表現への翻訳する能力への確信を進歩させることを、我々は最大の目的とした。

様々な種類の表現を体験することで、子どもたちに(記号操作を行う)土台ができ、どんな数学の問題にも怖じ気づくことはなくなるだろう。

 電子メールの相互作用モデルが、暗号化と解読を伴う対戦ゲームとして一連の相互作用を構築するのにうまく働くことがわかった。

 子どもたちは、コミュニケーションの本質(nature)に素早く適応していった。

 いくつかの重要な疑問が、ソフトウェアを評価することによってのみ解決されることがわかった。その疑問のほとんどが、相互作用を成り立たせたコンピュータの本質に関連するものである。

 紙素材を使っての作業では、子どもたちは相手を見ることができる位置にいたが、この状態を維持するために、オーディオやビデオの注釈のような、普通電子メールとは関係づけられない特徴を合体させたい。

-Clitique-

 私が最初、読み間違いをしていたのだが、この論文はKidCodeというソフトウェアを作るための事前研究(?)として、実際に紙などを用いて具体的に行った実験に関するものである。それで、ここで行われている実験がどのようにソフトウェアのデザインに示唆を与えるかを書かれているが、目指している「電子メールを用いた相互作用を構築するためのソフト」の具体的な部分はほとんど見えてこない。

初等教育における数学が、数学的な記号操作と具体的操作のリンクがうまくいってないが故に、失敗していることを解決する手段として、このKidCode というソフトの利用が有効であることが論じられている。しかし、KidCodeで行っていることと、数学の記号操作で行うことは、理論レベルにおいては類似していても、具体的なレベルではかなりかけ離れているものに思える。これは学習は転移されるということを前提として書かれており、はたしてこの前提は正しいのかと言うことは、この論文で抜け落ちている部分であり、大いに疑問の残る部分である。

-Suggestion-

 数学的な概念発達の躓きに関する筆者の意見は、これまでにもよく言われてきたものであり、大いに共感できる部分である。

 また、問題解決学習において、コミュニケーションは解決のための補助ではなく、コミュニケーション自体が重要となってくるのだということ、間違うことは無能な証拠ではなく、正しいものを見つけるための手がかりとしてとらえ、コミュニケーションによってそれが修正されていくことに意義があるとした部分は、非常に評価できるのではないか。


NAKAHARA, Jun
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