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2005/10/30 Update 洗脳のマネジメント この本を一読して、正直すごく驚いた。 自分自身、今年のドタバタが落ち着いたら、近いうちに時間をかけて必ず取り組もうと思っていた「組織エスノグラフィー」研究で、学習の問題(これを学習とよぶことに抵抗を感じる人もいるだろうけれど。訳者はこれに「洗脳」というショッキングなタイトルをつけている)をあつかったものが、今から20年も前に編まれていたなんて! このところ組織エスノグラフィーについて調べていたのにもかかわらず、勉強不足甚だしいのであるが、この本のことはまったく僕の文献リストにははいっていなかった。 というか、あとで調べたところ、実は「全く知らなかった」わけではなく、佐藤郁也氏が2002年に執筆なさった「組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門」で紹介されていたんだけれども、この文献を書き写すのを忘れていてしまっていたようである。 汗顔のいたりである。 --- 本書の舞台は、ボストン近郊のハイテクカンパニー「テック」である。テックには「技術中心主義的で会社に対する多大な貢献をよしとするテック文化」が存在する。 本の著者ギデオン=クンダが問題にしているのは、この組織文化なるものを、トップマネジメント層がいかに操作し、つくりだしているか(Engineering Culture)、ということであった。 「かたち」をもたないが故に、操作することは不可能だとされやすい「文化」。様々な儀礼、語り直し、作業環境。こうした操作によって、「テック文化」がトップマネジメント層によってつくられているプロセスと、その様子をエスノグラフィックに報告している。 確かに、かつての組織文化論では、文化は常につくりかえらるダイナミックなテクストというよりは、既に所与のものとして存在するテクストとして認識されることがおおかった。この研究は従来の組織文化論に一石をとうじる研究であった。 --- せっかく、このような本が出版されたことでもあるし、現在「企業教育プロフェッショナル」という本を書いているメンバー(産能大学の長岡さん、熊本大の北村さん、東大の荒木さん、青山の橋本君)で、1月28日午前10時から、「ハードコアな組織エスノグラフィー研究会」を開催することにした。 国内外の文献や、長岡さんのご研究についてディスカッションしたいと考えている。詳細は、またこのページでお伝えするが、もし参加希望の方がいらっしゃったら、1月28日の予定をあけておいてください。 2005/05/05 Update 未来の学びをデザインする 日本科学未来館の美馬さん、東京大学の山内さんから、彼らのご著書「未来の学びをデザインする」を献本頂いた。 この本では、「学習環境」を「空間」「活動」「共同体」の3つにわけて、それぞれの「デザインのあり方」について論じている。理論の空中戦のような本ではない。 MITメディアラボ、公立はこだて未来大学、様々なワークショップ、湧源クラブの事例など、具体的な学習環境の事例をとりあげて、非常に具体的に「学習環境デザイン」とは何か、を解説している。 いわば、状況的学習論の入門書としても読むことができるのではないかと思う。この春、一番オススメの本。 最後に、山内さん、美馬さん、ご献本ありがとうございました。 2005/01/12 Update ニューウェーブ・マネジメント 今からもう10年以上前にかかれている本であるのにもかかわらず、全く古さを感じない。それどころか、金井先生独自の「経営論」がヒシヒシと伝わってくる本。これほどまでに、野心的でいて、挑戦的で、同時にコンパクトな経営学の著書を、僕は知らない。金井先生のMIT博士論文である「企業者ネットワーキングの世界」とともに、本書に僕は衝撃を受けた。 本書は、40数個の断片から構成されている。「アイデアを葬り去る」「議論の場を確保する」などのテーマに関し、数ページの解説がなされている。本書の読者は、この断片を軽やかに読み進めるうちに、ニューウェーブ・マネジメントの虜になってしまうだろう。 概して一般的に、経営学を含む応用科学の著書というのは、浮き足立っているものが多い(教育学も同じ...自戒を込めて言っている)。この本はニューウェーブを語っているのにもかかわらず、その記述はドッシリとしている。この喩えの真意を知りたい方は、是非、ご一読いただきたい。 金井壽宏(1994) 企業者ネットワーキングの世界. 白桃書房, 東京 金井壽宏(1993) ニューウェーブ・マネジメント. 創元社, 東京 2005/1/6 Update 教育社会の設計 矢野眞和氏の「教育社会の設計」を読んだ。この本、アメリカ留学中に知って、是非、帰国後に読みたいと思っていた本であった。 社会を設計するためには、「教育」と「経済」、その2つを別々の世界に閉じこめてはいけない。その2つがいかに密接にからみあっているか、その関係を読み解くことで、つまりは、実証研究の蓄積の果てに、未来の教育、未来の社会を構築することができる。本書に通底しているメッセージは、これである。 かつて46答申が出されていた頃は、文部科学省の委員会にもそうした実証主義が息づいていたが、今、そうした姿勢はとうに失われている。ステキな教育を提案する「べき論」と「役人の振り付け」、そして、あまりにも私的な「わたしの教育論」が教育をより迷走させる。 矢野氏は様々な「常識」、普段は疑われずにやり過ごされている様々な神話を解体する。「学校の知識は役にたたない」とうそぶく企業人事担当者の欺瞞。「民間活力を導入すれば、財政難も解消され、経済も活性化する。学校もその例外ではない」と言ってはばからない「市場主義経済学者たち」の欺瞞。読んでいて、非常に痛快である。 また、学歴収益率の議論、専門職と所得決定関数などの実証研究は、非常に勉強になった。おすすめの本である。 |
NAKAHARA,Jun
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