Cool Research & Project That I Found in 2002



2002/01/26 Update

In memory of Bourdieu 

 フランスの偉大な社会学者、ピエール=ブルデューが亡くなったそうです。その追悼をこめて、この場で取り上げることにしました。ブルデューと言えば、「再生産」「ディスクタンオン」とか有名ですね。彼のカバーする範囲は非常に広範なのですが、なんといっても一番有名なのは、教育と再生産の議論でしょう。その学説は、異常なほど難解でいて、含蓄にとむ、そして確実に後世に影響を与えました。

Bourdieu, P.(著) 宮島 喬(訳)(1991) 再生産―教育・社会・文化. 藤原書店

Bourdieu, P.(著) 石井 洋二郎(訳)(1990) ディスタンクシオン―社会的判断力批判(1) 藤原書店

Bourdieu, P.(著) 石井 洋二郎(訳)(1990) ディスタンクシオン―社会的判断力批判(2) 藤原書店

 およそ象徴的暴力を行使する力、すなわちさまざまな意味を押し付け、しかも自らの力の根底にある力関係を覆い隠すことで、それらの意味を正統であるとして押しつけるにいたる力は、そうした力関係の上に、それ固有の力、すなわち固有に象徴的な力を付け加える。

 という命題、これは教育の象徴的暴力性を暴露した命題なのですが、これははあまりにも有名すぎます。

 「あんたのためになるんだから、これやんなさい」
 「僕はあんたのためにならないことはやれって言わないから」

 という教育的な物言いの裏に潜む暴力の問題ですね。こういう教育の暴力性を暴き出し、階層やジェンダーの再生産のメカニズムを「ハビトゥス」「プラクシス」等の概念で説明したところに彼の偉大さがあります。

宮島喬(1995) 文化の社会学―実践と再生産のメカニズム 有信堂高文社

宮島喬(1999) 文化と不平等―社会学的アプローチ 有斐閣
 

 最近では、市場主義批判&グローバリズム批判の急先鋒でした。

Bourdieu, P.(著)(2001) ピエール・ブルデュー来日記念講演2000―新しい社会運動--ネオ・リベラリズムと新しい支配形態. 恵泉女学園大学

 ピエール=ブルデュー、71歳の生涯でした。


2002/01/26 Update

階層化日本と教育危機

 「ゆとり教育」「総合的な学習の時間」等の政策が、「階層の再生産」「インセンティヴ・デバイド(学習意欲の格差)」等、意図せざる結果を生みだしていく。実証的にこのことを明らかにしています。

Reference

  • 苅谷剛彦(2001) 階層化日本と教育危機―不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ. 有信堂高文社

  • 2002/03/07 Update

    博物館特集

    「総合的な学習の時間」が注目されて以来、学校教育と急速に接近した社会教育施設のひとつに博物館があります。

     博物館は、今、ドラスティックに変わろうとしているそうです。今回は、博物館特集ということで、博物館の評価とマネジメントにかかわるいくつかの本をあげておきます。

     まずは博物館の活動の独自性についてです。いつもおきまりの展示、おきまりのミュージアムショップというわけではなく、何か工夫を、というわけです。

     一時期ハンズオンというエキシビジョン形式が注目されましたよね。あと、ミュージアムショップというのも実は博物館を構成するリソースとして非常に重要です。

    染川香澄・吹田恭子(1996) ハンズ・オンは楽しい―見て、さわって、遊べるこどもの博物館 工作舎

    山下治子(2000) ミュージアムショップに行こう!―そのジャーナリスティック紀行 ミュゼ, 東京

     博物館の活動は好き勝手やっていいわけではありません。法人化とともに、アカウンタビリティが求められるようになってきました。活動のアカウンタビリティを保証するためには、キチンとした評価が行われなければなりません。

    村山皓(2001) 施策としての博物館の実践的評価―琵琶湖博物館の経済的・文化的・社会的効果の研究. 雄山閣

    村井 良子(編)(2002) 入門ミュージアムの評価と改善―行政評価や来館者調査を戦略的に活かす ミュゼ, 東京

     活動の独自性を保ちつつ、アカウンタビリティを保証するためには、今までよりももっとキチンとマネジメントされなければなりません。ドラッカーを持ち出すまでもなく、非営利組織のマネジメントは、営利組織のマネジメントよりも深刻な問題をかずかずと生み出すものなのです。

    Tim Caulton(著) 染川香澄・芦谷 美奈子・井島真知・竹内有理・徳永喜昭(訳)(2000) ハンズ・オンとこれからの博物館―インタラクティブ系博物館・科学館に学ぶ理念と経営 東海大学出版会, 東京

     是非、ご一読を。こういう本を読んで博物館にいくと、いつもあなたがみる博物館ではない、もうひとつの<博物館>が見えてきます。


    2002/03/28 Update

    CSCL2

     1996年に出版された前作「CSCL」から5年後。でるでるでるでー、とずっと言われ続けてきた「CSCL2」がいよいよ出版されました。

    Koshmann, T., Hall, R. & Miyake, N.(2002) CSCL2: Carring forward the conversation. LEA, NJ

    Koshmann, T.(1996) CSCL : Theory and practice of emerging paradigm. LEA, NJ

     昨日入手したので、中原もすべてを読んだわけではありませんが、もはや定番のCSILEとか、キワモノ系ではモバイルとか、MITのTAGの研究とかもあって、かなりおもしろかったです。

     日本の研究者も何名かの方が執筆されていているところも、前作との違いでしょうか。

     1995年にはじめての国際会議が開かれ、まだ6年の歴史しかないCSCL研究。

    Schnase, J. L. & Cunnius, E. L.(1995) Proceedings of CSCL1995 LEA, NJ

     まだまだ目が離せません。


    2002/04/01 Update

    Multimedia-Based Instructional Design

    The ASTD e-Learning Handbook

     上の本はちょっと前にある方からご紹介された本で、先日ぱらぱら読みをおえた本。インストラクショナル・デザインの基本中の基本の本で、その表紙から「とんぼのめがね本」とよばれているらしい。特に企業内教育を担当している方には、読まれているらしいですね。

     コンテンツをどのように配置し、どのように見せるか、についてのTipsがあふれている本です。セオリーよりも実をとった本ともいえるでしょうが、こういう本がいままであまりなかったわけで、価値があると思います。セオリーは他の本で学べばいいのではないでしょうか。

     前にスタンフォードに在住のある方から、「日本でインストラクショナル・デザインが学べる大学はどこか?」というメールをもらって、少し考えてしまった経験があります。

     海外では、インストラクショナル・デザインは立派なエキスパティーズとして認められていて、きちんとコースがあるのですね。でも、日本の大学だとそれをキチンと学べる場がまだない、と思います。そういう意味では、こういう本がとっても役立つのではないでしょうか。

     下の本「e-Learning Handbook」は、海外のWBT開発者が先日「いいぞー」とオススメしてくれた本です。なるほど、事例もあり、文献もあり、まさにe-Learningに関するハンドブックですね。

     以下は、e-Learning、WBT開発者の方におすすめの本です。

    Reference

    William Lee & Diana Owens(2000) Multimedia-Based Instructional Design : Computer-Based Training, Web-Based Training, and Distance Learning. Jossey-Bass

    今回紹介した本です。読んだあとには枕としても利用できるほど分厚いですが、皆さんで輪読にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

    William Horton(2000) Designing Web-Based Training : How to Teach Anyone Anything Anywhere Anytime.

    上の本は少し分厚すぎるよー、内容が濃すぎるよー、という方は、この本はいかがでしょうか。

    大嶋淳俊(2001) 図解 わかる!eラーニング―グローバル競争社会に生き残る処方箋!. ダイアモンド社, 東京

    「わかる!」を名乗るだけあって、非常にわかりやすいです。初学者の方には、絶対におすすめです。

    先進学習基盤協議会(2001) Eラーニング白書 2001/2002年版. オーム社, 東京

    日本の「テクノロジー&エデュケーション」の今が見えてくる本です。続編もでるらしいです。

    山崎将志(2001) eラーニング―実践的スキルの習得技法. ダイアモンド社, 東京

    eラーニング本って、結構あるのですが、理論的に薄いものが多いです。その中で、唯一といってもよいと思いますが、少し理論を扱っている本だと思います。

    Allison Rossett(2001) The ASTD e-Learning Handbook. McGraw-Hill Companies

    今回紹介した本です。これも一人で読むのはシンドイな。輪読にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。


    2002/06/18 Update

    特集 e-Learningする前に

     これまで何名かの方々から、「もっとe-Learningの本を紹介してください」というメールをいただいていました。
     以下に紹介する本は、海外の研究者から勧めてもらったものです。どちらかというと、e-Learningを支えるInstructional Designについて詳細しているものを選んでみました。

    Piskurich, M.G., Beckschi, P. and Hall, B.(1999)(eds) The ASTD Handbook of Training Design and Delivery. McGraw-Hill Companies

    Reigeluth, M. C.(1983) Instructional Design Theories and Models : An Overview of Their Current Status. Lawrence Erlbaum Associates

    Rosenberg, J. M.(2000) E-Learning: Strategies for Delivering Knowledge in the Digital Age. McGraw-Hill Companies

     日本でも教材設計に関する本が出版されました。鈴木克明先生がご執筆なさいました。おそらくは、日本語で読めるインストラクショナルデザイン理論の唯一の本ではないでしょうか。

    鈴木克明(2002)教材設計マニュアル―独学を支援するために. 北大路書房

     設計といえば、近年注目されている情報デザインについても押さえる必要があります。

    情報デザインアソシエイツ(2002) 情報デザイン―分かりやすさの設計. グラフィック社

     あと、やや理論的になりますが、e-Learningを支える学習理論についても重要です。

    稲垣佳世子(編)(2002) 認知過程研究. 放送大学教育振興会, 東京


    波多野誼余夫・永野重史・大浦容子(編)(2002) 教授・学習過程論―学習の総合科学をめざして. 放送大学教育振興会, 東京

    西川純(2000) 学び合う教室―教師としての学習者、プロデューサーとしての教師の学習臨床学的分析 東洋館出版社

     1年くらい前かな、2年だったかな、原典が出版されたのは。状況的学習論研究の端緒を開くことになったBrownとDuguidの本の翻訳がでたそうです。遠隔教育についても言及されています。

    Brown, J. S. and Duguid, P.(2002) なぜITは社会を変えないのか. 日本経済新聞社


    2002/06/20 Update

    特集 社会人大学院を考える

     実は、ヤミで僕は社会人大学院・プロフェッショナルスクールの研究をしています。ヤミってことはないか、ちゃんとしているんだけど、まだカタチにはなっていませんね。来春くらいに共編著の本が出版されます。

     で、社会人大学院って、今とっても注目されています。

     18歳人口が少なくなっているのでね、経営が危なくなるんじゃないか、っていう危惧が大学に広まっているんでしょうね。新たなマーケットとしての社会人という感じの注目のされかたでしょうか。

     でもいつも思うのですが、「マーケットとしての社会人」というとらえ方には、恐ろしく社会人をナメているとしか思えないものもあります。

     焼き畑じゃないんだから、18歳が少なくなったから、次はベビーブーム世代の社会人だぁ!っていうのはやめようよ、と思います。

     もうひとつあるのが、企業内教育のリソースがなくなってきたから、自分で外で学べ、そのための社会人大学院っていう視座です。これも、確かにそのとおりなんだけど、ウーンと思う。

     バブルのときは、やれMBAだ、やれMedia Lab.だと海外に人を送り込んでいたのに、何の制度的支援もなく、あとは「自分で外でやれ」っていうのは節操がないんじゃないか。

     そういうエゴイズムを「即戦力」とかいうもっともらしいコトバで、美しいコトバで誤魔化すな、と言いたいですね。

     まぁ、そうはいっても、社会的制度はどんどんと変貌をとげているので、仕方がないところもあります。誰にも読めない時代だからこそ、そういう時代なのだ、とあきらめるより他はないところもある。

     でも、少なくとも教育関係者が語るロジックとしては、そういうトーンよりも、「人は学び続けるイキモノなのだ」という学習論の根本に帰って、そのための教育環境を整備しよう、という方が納得がいきます。

     社会人大学院に関しては、それほど本があるわけではありません。

    影山貴彦(2002) 社会人大学院生入門―社会人だからこそ楽しめる. 世界思想社

    山田礼子(1998) プロフェッショナルスクール―アメリカの専門職養成. 玉川大学出版部

    山田礼子(2002) 社会人大学院で何を学ぶか. 岩波アクティブ新書

    山田礼子(1997) 社会人のための大学院案内―キャリアアップ・生涯学習・人生の再出発. PHP研究所

    Freedman, L. 山田礼子(訳)(1995) 開かれた大学への戦略―継続高等教育のすすめ. PHP研究所

    新堀通也(編)(1999) 夜間大学院―社会人の自己再構築. 東信堂

    日本労働研究機構 (編)・日本労働協会 (編)(1997)「大学院修士課程における社会人教育」調査研究報告書〈No.91〉日本労働研究機構


    2002/08/26 Update

    特集:エティエンヌ=ウェンガー

     近年、知識創造マネジメントの観点からも、学習理論の観点からも、注目されているエティエンヌ=ウェンガー。一年ほど前のハーバード・ビジネス・レビューに特集論文が掲載されました。また、最近になって本も出版されました。

     彼の提唱している理論は、コミュニティ・オブ・プラクティス(実践の共同体)なのですが、彼自身は、これまで様々な研究者の実践共同体を、「渡り歩いて」、現在の立場に落ち着きました。いいえ、落ち着いたというのは間違いかもしれません。彼は、まだ終わりなき旅の途上なのかもしれません。

    Lave, J. & Wenger, E.(1991) Situated Learning : Legitimate peripheral participation. Cambridge University Press.

     ここからすべてがはじまりました。状況的学習論のブームをつくった名著。正統的周辺参加の理論の開花。

    Lave. J. & Wenger, E.(1991) Situated Learning-Legitimate peripheral participation. Cambridgee University Press. 佐伯胖(訳)(1993) 状況に埋め込まれた学習-正統的周辺参加. 産業図書,東京
      
     上記の書籍の日本語訳。

    高木光太郎(1996) 実践の認知的所産. 波多野誼余夫(編)(1996) 認知心理学5 学習と発達. 東京大学出版会, 東京

     状況的学習論のわかりやすい説明。

    佐伯胖(1995) 学ぶということの意味. 岩波書店, 東京
      
     状況的学習論のわかりやすい説明。

    佐伯胖・中西新太郎・若狭蔵之助(編)(1996) 学びの共同体 フレネの教室〈1〉 青木書店, 東京 
      
     正統的周辺参加、バウンダリーオブジェクト、バウンダリークロシングについての解説が巻頭にある。

    Wenger, E.(2000) Communities of practice. Cambridge University Press.

     状況的学習論では十分に取り扱えなかったアイデンティティ等の諸問題に答えようとする本。禅問答的な部分もアリ。
     
    Wenger, E., McDermott, R. & Snyder, M. W.(2002) Cultivating communities of practice. Harvard Business School Press

     前著「Communities of practice」で提示したアイデアに若干の修正を加え、実用的なビジネス書として世に出たコミュニティ・オブ・プラクティスの最新刊。


    2002/11/05 Update

    知識経営実践論

     この世には、ナレッジマネジメントのことなら口角泡とばして語りたがる人はたくさんいる。「ナレッジマネジメントは、SECIモデルが云々」とか、「ナレッジマネジメントは組織知云々かんぬん」とかいう<概念>や<理論>を語る人はたーくさんいる。

     また、「ナレッジマネジメント、ありゃ、失敗だったよねー」とか、「ナレッジマネジメント、そんなのもう古いよ、これからはCRMだよー」と平気のへーちゃんでいっちゃう人もいる。

     僕にとっては、ナレッジマネジメントに関する、これらのどちらの物言い、ハッキリ言って「どーでもいい」、心に響かない。もちろん、<概念>や<理論>を軽視しているわけではないし、<この世の動き>を無視しているわけではない。

     ナレッジマネジメントとは、モノの見方に近いものである。ナレッジマネジメントという透き通ったメガネを通して、日々行われている会社の実践を見ようとする人は案外少ない。この本は、今まであまり出版されることのなかったナレッジマネジメントの実践の本である。そこには、エーザイやセブンイレブンなどの、数々の実践現場が事例として紹介されている。

    Reference

  • 妹尾大・阿久津聡・野中郁次郎(2001) 知識経営実践論. 白桃書房

  • 2002/11/26 Update

    授業を変える - 認知心理学のさらなる挑戦

    How People Learn

     以前ここでも紹介したことのある「How people learn?」が翻訳されました。教育の現場で活用できる認知心理学の基礎、および学習科学の基礎を学ぶには最適な書物です。

    Reference

  • Bransford, J. J. & Brown, A. L. & Cocking, R. R. (ed.) 1999 How People Learn. National Academy Press.
  • 森敏昭・秋田 喜代美・21世紀の認知心理学を創る会(訳)(2002) 授業を変える―認知心理学のさらなる挑戦. 北大路書房, 京都

  • 2002/12/20 Update

    コミュニティ・オブ・プラクティス

     Community of practice理論を提唱したエティエンヌ=ウェンガー。近年は、組織経営学の観点からも注目されています。その訳書がついに発刊されました。コミュニティ・オブ・プラクティスとは、1)知識や専門性や情熱をもった人々が、2)一緒に取り組むことのできる事柄に対して、3)相互作用、相互貢献を行いながら実践するような場のことをいいます。

     ナレッジが環流する組織づくり、場作りに具体的な示唆を与えてくれることでしょう。

    エティエンヌ=ウェンガー(著)・櫻井 祐子(訳)(2002) コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践. 翔泳社, 東京


     NAKAHARA,Jun
     All Right Reserved. 1996 -