Cool Research & Project That I Found in 2000



2000/01/03 Update

Inter Communication Vol. 31 特集 マルチメディアと教育

  アートとテクノロジーのジャーナルとして定評のあるInterCommunicationの最新号では、特集として「マルチメディアと教育」をとりあげ、主に高等教育以上の同分野における最先端の事例を、何人かの識者が紹介している。
 近年、高等教育が激変していることは周知のとおりである。
 最近文部省から発表のあった国立大学の独立行政法人化の動きもあって、大学の中の組織改革、インフラ整備がモノスゴイ勢いで進んでいる。大学が激変していることは、現在大学の「中」で学生生活を送っている僕でも「ヒシヒシ」と伝わってくることだ。本特集号では、カーネギーメロン大学、早稲田大学、東京芸術大学、はこだて未来大学、スタンフォード大学など情報技術(Information Technology)、東京造形大学などの事例が紹介されており、各大学がそれぞれの大学にあわせた独自の改革を進めていることがわかる。
 また同特集号には、美馬のゆり氏、三宅なほみ氏などの認知科学者の提言も乗っている。美馬氏は従来の情報処理アプローチと状況的学習論を対比させ、「学習観」にあわせて大学の組織、そのもののあり方も変わらなければならないこと。また、大学がこれから「学習共同体」として見直されなければならないことを主張している。
 三宅氏は、近年の教育研究が、「認知研究者、教育プロジェクト・マネージャー、支援ツール開発者、教育行政関係者、現場教師から地域の親など一般社会人までを巻き込んで、大きな教育研究プロジェクトがくまれるようになっていること」を述べ、「Learning Science(学びの科学)」とよばれるこの手の新しい教育研究が注目されていることを述べている。また、中京大学における近年のツール開発を紹介している。

 本特集を読んで筆者が抱いた感情は「世の中が激変していること」に対する「素朴なオソレ」と「期待」というアンビバレントな感情である。未だ目にしたこともないものに対する「素朴のおそれ」と、それらの「不可視なるもの」が閉塞感のある既存の体制を変革することに対する「期待」。僕らは、それらアンビバレントな感情を抱えつつも、激変するその「中」を生きていく。

Reference

  • InterCommunication Vol.31 特集マルチメディアと教育. NTT出版,東京
  • Bransford, J. J. & Brown, A. L. & Cocking, R. R. (ed.) 1999 How People Learn. National Academy Press.

  • 2000/01/10 Update

    How People Learn

     InterCommunication Vol.31の紹介でも触れた「学びの科学」を提唱した本。研究室と現場の教育実践を常に越境する研究を行ってきたBrown, A. L. の最後の編集した本になる。内容は、これまでの認知科学における「学び」に関する知見の集大成。認知心理学パラダイムにおける「Expert - Novice研究」や既有知識の研究、最新の「Learning Environment研究」、「テクノロジーと学習研究」まで、学びに関するあらゆる研究の知見がまとめられている。初学者のみならず、現場と研究室のあいだを駆け抜けようとする研究者にとっても非常にオモシロク読むことができる。

     本の巻頭には、この本の編集中に急逝したBrown, A. Lへの追悼が述べられている。Brownがめざした研究は、今を生きる若手の研究者の手によって、今後も絶えることなく続いていくだろう。

    In Memory of
    Ann, L. Brown.
    (1943 - 1999)
    Scholar and Scientist
    Champion of Children and Those who teach them
    Whose Vision it was to bring learning research
    into Classroom

    Reference

  • Bransford, J. J. & Brown, A. L. & Cocking, R. R. (ed.) 1999 How People Learn. National Academy Press.

  • 2000/02/01 Update

    仕事の中での学習

     上野直樹氏自身の研究も含めて、状況論を概説する良著。ハッチンスの機能システム論、サッチマンのプランと状況的行為、近年のテクノサイエンス研究の知見、状況的学習論の批判と再構築を扱っている。状況的認知アプローチは、学際的な研究領域であるが故に、まとめることに非常に苦労したのではないかなぁと、つい筆者の労を考えてしまう。これまで状況論については、国内で一冊の研究書が編まれたことはなかった。その意味で、非常に貴重な本だと言える。また、本書に展開される上野氏による数々の批判は今後の研究を進めていく上で、非常に有益な指摘になった。あらためて、筆者に感謝したい。

    Reference

  • 上野直樹(1999) 「仕事の中での学習」 東京大学出版会, 東京

  • 2000/02/01 Update

    実践としての統計学

     僕は統計についてあまり詳しくないので、興味深くよんだ。でも、読み進めているうちに、この本は統計学に関して書かれているというよりも、人文社会科学の研究を進めていく上で、非常に重要な指摘をしているように思った。質的研究を志向していようとも、量的研究を志向していようとも、この本に書かれてあることは非常に参考になる。たとえば、「単なる記録」と「データ」との差は何か?、そもそもデータとは何をもってデータとよべるのか? ブラックボックスをつくらないで研究を進めるためにはどうすればよいか? などの基本的ではあるけれども人が自明視しやすい一連の問いは、一般の統計書にも、もちろんフィールドワークの参考書にも書かれることは少ないのではないだろうか。

     また、実践的であることは理論的であることと対峙しない、実践とは基本的であり応用的である、という著者らの問題意識は、実践と理論という二分法に今なお悩み続けている人々に福音をもたらす可能性があるように思う。

     統計学の本でありながら、実践について、データについて、再考する機会を与えてくれる良著だった。

    Reference

  • 佐伯胖・松原望(2000) 「実践としての統計学」 東京大学出版会,東京

  • 2000/03/24 Update

    情報編集力 - ネット社会を生きぬくチカラ

     IPAからリクルートが委託されたプロジェクト研究、シーホースベイプロジェクトのブレインたちのインタビュー集。松岡正剛氏、金子郁容氏、佐伯胖氏、高木剛氏、鈴木寛氏らのインタビューがおさめられているほか、彼らのデザインしたプロダクトの実践例がのっている。

     情報編集力の「力」には、どうも本質主義というか、実体論っぽいニオイを感じざるをえないが、その定義、すなわち、「あるものとあるものの関係性の発見能力」、「意味のある情報どうしをとってきて、組み合わせ、組み替える能力」は、納得がいく。こういうチカラがおそらくこれからNetworked Societyにおいて必要になってくるのであろう。

    Reference

  • 藤原和博(2000) 情報編集力 - ネット社会を生きぬくチカラ. ちくま書房, 東京

  • 2000/07/05 Update

    早稲田大学デジタル革命

     IT技術を用いた高等教育の変革の様子を伝える本。早稲田大学文学部の授業変革の取り組みが記述されている。これまで研究書レベル、論文レベルでしか紹介されてこなかった高等教育機関の変革の様子をわかりやすく紹介している。

    Web

  • 早稲田大学 デジタルキャンパスコンソーシアム
  • Reference

  • 松岡一郎(2000) 早稲田大学デジタル革命:多次元キャンパスが授業を変える. アルク,東京

  • 2000/09/14 Update

    テレビ制作入門

     企画、取材、撮影、編集、MA。

     NHKの超有名ディレクターがドキュメンタリー番組の制作過程を忠実に語る。映像をつくる、とはどういうことなのか、どういう過程を経て、あなたがTVでいつも見ている番組が生み出されているのかが、よくわかる。最近は、メディアリテラシーという概念が注目され、放送をつくりだす「過程」へ、情報教育関係者の注目が集まっている。メディアリテラシーを考える際にも有効な一冊になると思われる。

    Reference

  • 山登義明(2000) テレビ制作入門:企画・取材・編集. 平凡社新書、東京

  • 2000/09/14 Update

    ウェブ・ユーザビリティ

     最近邦訳が出版されたD. A. Normanの近著「The Invisible Computer」。邦題は、「パソコンを隠せ、アナログ発想でいこう!」というものらしい。カリフォルニア大学を退き、アップルのFellowをやめた彼は、突然Webのインタフェースデザインコンサルティング会社に顧問として参加する。そして、Normanが選んだビジネスパートナーが、この本の著者「ヤコブ・ニールセン博士」である。

     ウェブのユーザビリティに関する本と言えば、有名な本に「The Non-designer's web design book」があるが、この本は、さらに詳しい。

     Webはいまやどのコンピュータでも利用できるインタフェースとして、すっかり定着した感がある。プラットフォームを選ぶクライアント - サーバシステムならば、Webを用いたい。システム開発者なら、誰もがそう思うはずだ。

     この本は、格好良くて、しかもユーザーが使いやすいWebをデザインしたいと思っている人にとっては、非常によい指南になることであろう。

    Reference

  • Nielsen, J. 篠原稔和(監修)(2000) ウェブ・ユーザビリティ : 顧客を逃さないサイトづくりの秘訣. エムディエヌコーポレーション、東京

  • 2000/12/30 Update

    市民社会と教育

     サブタイトルは「新時代の教育改革私案」とある。岩波新書でかつて出版された「教育改革」に続く本。教育国民会議の委員のひとりでもある筆者は、近年の教育改革の言説を詳細に分析し、その論理の誤謬をこれでもか、というほど追求する。なるほど、よーく読んでみると、近年の教育改革言説というのは、論理の全くない思いつき改革であることがいかに多いことか。

     筆者によれば、近年の教育改革は、「教育の非武装化(Educational Disarmanent)」であり、世界的な教育改革とは全く違った方向に進んでいるという。

     教育をおもちゃにするな!

     巻頭にかかげられた筆者のコトバは、教育改革の一貫性のなさを批判するものとして傾聴に値すると思われる。

    Reference

  • 藤田英典(2000) 市民社会と教育 世織書房,東京

  •  NAKAHARA,Jun
     All Right Reserved. 1996 -