・.abstract
まず最初にeducational innovation "PBS(project-based science)"を定義する必要がある。PBSの定義は、以下の3つの条件を満たすものとする。
・長期間(long term)の実践であること
・multidiciplineのcollaborationを実践の中核にすえること
・真正の問題(authentic problem)にチャレンジしうること
それでは、教師はPBSをどう理解するだろうか?また、。そこでどんなディレンマに直面するか?それには教師の理解過程の分析が必要である。本稿では、「教師の発達」の先行研究に基づいて「CEER」という実践サイクルとVideo等の学習材の開発をおこなった。「CEER」は「Collaboration(協調活動)・Enactment(実践の実施)・Extended time(長時間の実践活動)・reflection(実践の再吟味)のサイクル」からなる実践のサイクルである。またVideoなどの学習材は、教師・研究者によるコメントが付与できるものとし、事例研究が可能であるようなデザインとした。そして、これらを踏まえて我々は、PSE(project support environment)の開発を行った。PSEは次のようなものとしてデザインされている。
・PSEは教師の仕事台(workbench)である
・projectをplanするためのtoolである
・PBSの特徴を学べる
・multimediaによる教育実践に対する「新しいvision」と「strategy」を提供する
・telecommunicationを可能にする
・.Supporting teachers transitioning to PBS
現在の「科学教育」は学校知と日常知の乖離(disconnection)する傾向にあり、こうした「乖離」の現状は、生徒たちにとっての「科学」を「事実の列挙」と「既知事実の発見のレシピ」に矮小化させてしまっている。故に、生徒たちは 科学のbasic concept・principleを身につけにくく、学んだことを応用できないし、「学校」を自分とは「無関係」なものとして認知しがちである。
また「教育の効率性に基づく研究・理論」と「実際の教育現場」に存在する「乖離」もまた問題である。これらの「乖離」に対する有効な「prescription(処方)」を提供するのが、いわゆる「構成主義の学習観」である。
■構成主義(constructivism)の学習観
構成主義にとって「学習」とは、学習者に対して「知識を伝達」するのではなく、学習者自身がそれを構築し、意味づけすることを表している。すなわち、学習者は諸概念(アイデア)をいじくりまわし使うことを通して「知識を構成しうる」主体なのである。これを踏まえて考えるならば、学習者は「認知のための道具」や「他者」を「リソース」として、そうした「状況」の中で「真正の問題」に取り組むことを通して、知識を構築しうると考えられる。また「知識」は、学習者がアイデアを様々に「表象」し、その知識を使うべき「活動」の中ではじめて統合されて、使えるようになることも非常に重要なことである。
■cognitive tool(認知的道具)
cognitive tool(computer,software)とは学習者の認知の過程を拡張し、増幅する道具のことをいう。また認知的道具は、学習者が複雑で多義的な「真正の問題」に取り組むことを支援する。具体的にいうならば、情報やデータ等に対する学習者の「アクセス」を保証し、協働・調査・人工物創造の「きっかけ」を学習者に与えるのである。
■学習の「社会的文脈」
学習者は、あるコミニュティにおいて実践され、表象される「思考形式」をインタラクションを通じて内面化し、グループ成員としての専門知識を獲得する。これを踏まえて「科学教育」を考えるのなら、以下の2点が確認できる。
・科学は「真正の方法」で教えられること
・生徒が「日常的な真正の問題」に協働で探求できてはじめて、生徒の「科学理 解」が深まること
■学習環境のデザイン
我々は、構成主義(constructivism)に基づいた「学習環境のデザイン」を行い、PBS(project-based science)を想像した。PBSの特徴は、以下の5点である。
・driving question-日常に根ざした問題で学習者にとって意味・価値のある問題をもつ
・investigation-学習者による問題設定・ディベート・実験・データ収集・分析・結論考察・協働など
・artifact-学習者のlearning concept・応用・多様な知識の表現を支援する
すなわち、PBSは 学習者が多様なしかたで概念を学び、情報を応用し、知識を表象することができるようにする環境を用意するのである。
・collaboration-生徒間・教師間・他のコミニュティとの間で
・technology-学習者のデータ収集、データ分析、コミニュケーション支援
こうしたtopic-based unitとinstructional materialによって、教師は自らプロジェクトを創造できる。又、大切なことは、このプロジェクトが既存のカリキュラムに合致していることである。つまり、driving questionを探求することで、州や地域のカリキュラムに規定された「理解達成度」を実現できるようにデザインされている。
■PBSのKeypoint
PBSの「情報伝達モデル」からの脱却を遂げる「教師」を支援する方法を摸索することである。
教師発達の先行研究によれば、一回限りのワークショップ・正確に規定されたカリキュラム・実践実行のリストなどの、「伝統的なトップダウン型」の「dissemination(啓発)」では、教師を「支援」することにはならないことがわかっている。つまり、「dissemination(啓発)」では、第一に複雑でリアルな教育実践現場に対処できないし、「fellow-up help」・「support」も提供できない。また、それは教員の孤立化を引き起こしてしまうを引き起こす「引き金」になってしまう恐れがある。それではどうしたらよいのか?PBSは「教師自身が学ぶということは、一体どういうことなのか?」という根本的な問いからスタートした。
・.professional development effort
教師自身が「学ぶ」とは、第一に既有知識や信念と、新しく獲得された知識が「統合」されること、第二に、自らの考えを実践に移すこと、第三に結果を評価し省察すること、これら3つの過程を通して、教師は自ら「知識」を「構成」し、「学んで」いるのである。また、教師自身の学びが促進される要因としては、以下の4点があげられる。
・教員同士のcollaboration
・authentic problemに従事しているとき
・理論の理解によって自らの実践を正当化できるとき
・実践を自らプランするとき
だが、それだけでは不十分であることは言うまでもない。これら4点に欠けているもの、それは「教室に埋め込まれた知識」である。「教室に埋め込まれた知識」とは、「教えること」の「知識」は、「教える」という「行為」に埋め込まれていることを意味している。故に、そう考えるのならば、教師は実践経験を省察(reflection)することで、実践の改善を促進する知識が生成するのである。
これらの先行研究と我々の経験から、PBSへの移行をはかる教師を支援するための「interpersonal experience」をまとめたモデルが「CEER」である
■CEER
CEERは「Collaboration(協調活動)」、 「Enactment(実践の実施)」、「長時間に渡る実践」、「reflection(実践の再吟味)」からなる「実践のサイクル」であり、これが今後の研究の方向付けを行い、教師と研究者間の対話を促進することになる。また、CEERの目的は新しい概念知識・実践的知識を教師自身が開発することにあるのであって、これを通して教師は、第一に、新しい教授の可能性をイメージしたり、第二に、PBSの特徴を概念的に理解したり、第三に教室のディレンマを認識したりすることが可能になる。 また、重要なことはCEERが「ある特定の教授行為」の「厳守」を要請する「モデル」ではないということである。つまり、その目的は、教師がPBSに合致した実践を開発することであって、その実践は教師一人一人に異なっている「状況的制約」と「教師の好み」によって立て直される(tailor)。
以下、CEERの4つの構成要因について詳述する。
・collaboration
「collabotation」とは、研究者と教師間の協調活動を意味しており、互いに批評したり、情報をシェアしたり、サポートしたりしあうことを指している。これらの「対話」を通して、教師はPBSのより深く理解し、新たな実践の可能性を摸索できるし、また一方、研究者も教師との対話で、得るところが多い。
また、情報をシェアしたり、批評しあったりすることによってコミュニティが形成され維持されることも忘れてはならない。このコミニュティにおいて、教師は他者の経験を参照したり、自らの苦難を表明することで、PBSを持続させ、新たな実践を生みだすことが可能になる。
・・・Enactment,Extended time,Reflection
教師は新たな実践をenact、plan、実行してはじめて、その実践を理解できる。「enactment」とは、現実の実践において、おこりうる問題を予想し、それに対する対処を工夫し、状況に応じて、PBSを立て直し(tailor)、計画と教授を同時に行う行為そのものをさしている。つまり、目標-手段を強調する従来の線形的なプランニングモデルとは違って、PBSにとって、「プランニング」はデザインの繰り返しが要求されることになるのである。PBSにおいて、教師は、ある特定の子供の理解を支援し、ある特定の状況・制約下での協働を支援する「経験のセット」をデザインしなければならない。熟練教師のプランは「interconnection(相互の結びつき)」が明確で、非常に豊かであるが、それは教授行為・予想される生徒の理解や行動・教授の代替案・困難の回避法などが相互に結びついているからである。また、教師はプランニングの過程で、心的表象を作り上げる。それは教室の状況、生徒の反応、初期目標の達成状況に応じたenactmentの過程で、変容を遂げる。
加えて、reflection(対話・事例報告・ヴィデオによるコメントによる)によって、教師は経験の中から概念的かつ実践的な、enactmentに関する知識を引き出すことが出来る。
・.PSE-the role of computational and communications technologies
■PSE(project-support environment)
collaboration,enactment,reflectionのサイクルを支援するのは多くの時間・金・労働力がかかるので、より効率的で、努力を節約できる方法の摸索しなければならない。その際に浮上してくるのがNew technologyを利用した教育のサポートである。PSE(project-support environment):教師のPBSへの移行を支援するインタラクティヴな学習環境を提示する。
■PSEの特徴
PSEは教師の仕事台(workbench)であり、支援のための4つの支援ツール(component)からなる。以下、これを列挙する。
・PIviT(project integration visualization tool)
・CaPPs(casebook of project practices)
・P/CaPP(personal casebook of project practices)
・PSNet(project support network)
上述した4つのPSEのapplicationは互いに結びついていて、ユーザーが容易に一方から他方に移動できるような非線形的でダイナミックな構造をしている。
以下、4つのアプリケーションについて考察するものとする。
・.PIViT (project integration visualization tool)
■PIViT
PIViTは教師によるプロジェクトのデザイン、プランニング、修正を支援(scaffolding)するcomputer -aided design(CAD)環境のツールであるが、その特徴の一つはdesign-windowにある。design windowは教師が「プロジェクト・マップ」を作るのを支援する「表象」である。すなわち、design-windowは、プロジェクトコンセプト・driving question・curricular object(教育目標)・investigation・teachers activity(教師の活動)などの個々のcomponentの結合の様子を明示する「プロジェクト・デザイン」の図的表象として機能するのである。
また、その他に3つのウィンドウがある。第一に、「concept map」とは、教師は、そのプロジェクトで生徒が探求する内容を確認する必要がある際、コンセプト同士の関係を精密に描き出すツールが必要になる。それが「コンセプト・マップ」である。このツールによって、教師は数々のキーコンセプトを念頭に置きながら、プロジェクトをデザインすることが出来るだけでなく、教える内容の精緻化(elaboration)をすることができる。第二に、「calender-window」とは、教師がdesign- windowに書き込んだ事柄を時間的に整理し、管理することを可能にする。第三に、Libraries-windowがある。Librariesは教師が、データーを収集しそれを貯蔵しておくためのミニデーターベースである。Librariesを使うことによって、教師は製品化された学習材や他のプロジェクトから、様々な調査結果を参照でき、それらを自らのライブラリーにためておくことが出来る。
■PIViTの技術的諸特徴
以下、PIViTの技術的諸特徴について、その大略をのべるが、図版がないので非常に説明が困難である。興味のある方は原典をあたられたい。
・graphical representation
1.Visual modality-それぞれのcomponentは、その要素と結びついた独特の「かたち」をしている。そのことで、projectを構成する要素同士の関係が見分けやすくなっている
2.Visually oriented operation-ドラッグ&ドロップ、カット&ペースト、コピー&ペースト
上記の如く、PIVitは「graphical representation=GUI」というインターフェースをもっているが、それではなぜそうするのか?それは教師の興味・関心を、「活動」の関係や、それぞれの「活動」が統合されて一貫した概念全体を構成しているかに向けさせるためである。
・Domain-specific elements & coordinated design space
PIViTは、教授計画をプランニングし修正する特定の必要に応じて、カスタマイズすることができる。
・prompts
PIViTには、文章作成による教師のelaborationを支援するために、「template(ひながた)」が付属している。templateはすべて埋める必要はないが、新しくPBSに参入する経験の少ない教師達のためには、そのよ うな「prompt(誘導)」が必要であり、それによって、有用な「知識の外在化」・「実践の省察」を行うことが出来るようになる。
■PIViTは如何に作られたか?
PIViTはほぼ4年間に渡って開発が続けられている。すなわち、「開発」と「教師によるユーザーテスト」が果てしなく繰り返されているのである。
「理論に基づいた特徴を創造すること」と「現場からのボトムアップのデザインに関する示唆」の間には、今尚続く緊張関係がある。
■「Lingua Franca(共通語)」としてのPIViT
PIViTで使われる独自の「ことば」は、教師同士がプロジェクトプランで協働し、それを互いに共有する際に「共通語=Lingua Franca」として使われている。
・.CaPPs (casebook of project practices)
CaPPsは、実際の教室場面におけるPBSの実践がどのようなものなのか?又、どのようにPBSを実践したらいいのかを教師にVisualで示唆するツールであり、そこにはPBSの実践に移行していく教師の経験・事例が蓄積されている。すなわち、それはヴィデオによる教師のPBS実践の事例から構成されているのである。事例を用いる根拠は何か?それは、事例が教室の複雑性、そこでの経験の豊かさを効果的に伝える手段であるからである。教師の実践的知識は文脈に基づく「出来事」として表象され、事例を通して語られる。
もちろん、事例と言ってもなんでもいいわけではない。事例には、通常、教師が実際の教室で直面するであろう「ディレンマ」や「挑戦」が「問い」の形で表現されている。また、この「問い」には1分から4分までのvideo clipがついており、これによって、教師はproject-based teachingが、多層的、具体的かつ状況に埋め込まれたものであることを理解できる。video clipを通して、教師は、PBSの実践において如何に生徒の探求をデザインするかを知ることが出来るのである。
■CaPPsのインターフェース Navigation
CaPPsはユーザーが、そのシステム内部を自由にnavigateできるように様々な方法で設計されている。例えば、以下のような機能が実装されているのである。
1.ボタン&クリックでnavigation
2.メニューバーからのnavigation
3.FAQ(frequently asked question)からのnavigation
(なお、これは図版を参照していただかなければ、理解できないかもしれない。図版を挿入することは著作権の関係上できないので、ご容赦いただきたい。なお、PBSのアプリケーションのプラットホームは、Macintoshである。)
■実際にCaPPsはどう使われるのか?
それでは、実際にCaPPsはどのように使われるのか?我々の研究によれば、どうやらCaPPsの使われ方には2通りあるらしい。まず、第一の使われ方としては、PBSの特徴を教師が「学ぶ」際に、それを支援するツールとして使われるというのがある。教師はヴィデオを通して、PBSの前提に合致した事業実践を「見る」ことができるのである。また、第二の使われ方としては、.実際に教師がプロジェクトをプランニングするときに、参考情報のリソースとして使われることがある。なぜなら、インターフェースのところでも参照したとおり、PIViTとCaPPsはダイレクトにリンクしているのであって、相互に情報が連結している。故に、教師は自分のプロジェクトをプランしたり修正したりするときに、CaPPSをreference-toolとして使う。
・.PSNet (project-support network)
■PSNet
PSNetは教師と大学の研究者の対話や様々なアーティファクト(video clip...etc)の共有を支援することが目的であるが、しかし、しばしば、会話が食い違い、会話が本質的でないものになりがちだった。故に、我々は、教師が生産的な会話に参加できるように支援し、3つのstrategyを提案した。
第一の戦略は、会話はPIViTのDocumentを介して行う、つまり、PIViTを「lingua franca=共通語」にするという意志疎通における原則の提示である。この原則によって、PSNetは「PIViT」を使って成立しうることになる。
第二の戦略は、.PSNetをPIViTのデーターベースとして使用するということである。つまり、教師は自分のPIViTのプロジェクトプランをPSNetにアップロードし、それが自動的にWWWのドキュメントになり、それを自由にダウンロードできるようにする
。すると、熟練者がプロジェクトプランを注釈付きでアップロードするようになり、新参者は熟練者のプロジェクトプランを手に入れることが出来るようになった。
さらにPSNetでは、プロジェクトプランの発案者が、それをダウンロードする人間とオンラインでディスカッションすることが可能になっている。
第3の戦略としては、会話を持続・維持し、情報やリソースを与え、問題を指摘したり、調査を方向付けたり、同じ関心をもつグループ同士をつなげたりする「ネットワークのメンター(mentor=世話係)」を準備し、会話を促進したり、スキャフォールドしたりするようにした。これによって、教師は、自らの教育実践を変えようとする事への躊躇いを軽減することができ、PBSへの実践改革に横たわる問題にはやく取り組むことができるようになった。
■教師とPSNet
批判的思考の出来る多くの教師がPSNetに参加し、自らの教育実践を語り合うことは重要なこである。しかし、他の専門職集団とは違って、教師は未だそのレヴェルに達していない。教師のtelecommunicationにおける過去の文献を見ても、その多くは成功に至っていないのが現状なのである。
確かに、本研究においても、操作法の難しさ・高額な技術費用・時間の制約が、教師の「語り」を阻害しているが、何よりもその障害になるのは、教師自身がtelecommunicationに「使える」側面をそれほど見いだしていないことにある。
PSNetは教師の基本的な必要性を満たす「使える」道具としてデザインされている。
・.P/CaPP
■P/CaPP
P/CaPPは教師にreflectionを促すmultimedia journalである。そこで、教師はコメントや自分や他人のvideo clipなどを使って、自分だけのcasebookを作成することができる。また、同時に教師は、自分の実践や他人の実践・enactmentを批判したり、PBSの根本的な理解について書き記すことができる。そして、この結果、教師のPBSに関する理解と、プロジェクトプランを立て直す能力、状況に応じてenactmentする能力は増大するものと考えられる。
(以上が、PBS専用にデザインされたアプリケーション・ソフトウェアの説明であった。)
・.Design rationale of the PSE
PSEのデザインは教師の「学び」に関する研究、CEERのプロセス、テクノロジー問題の3つで理解されることが望ましい。以下、それを順に見ていくものとする。
■influence of teacher development literature on PSE design
教師の「学び」に関する先行研究で解ったことは、次の何点かに集約される。
まず、第一に教師の知識は「命題」や「処方」というよりも、むしろ、教室での活動や出来事の「言葉」で表象されるということである。よって、PSEにおいてはVideoclipなどを実装するにいたった。テキストのみで達成されるよりもずっと効果的に、videoはPBSの実践のヴィジョンを作り上げるのである。
第二に、教師の「学び」においては、現実の教室における「文脈に埋め込まれた情報」こそ重要である。故にPSEは教師による実践全般に関わるコメント、教師自身の背景、プロジェクトなどによって構成されている。そしてそういう「文脈に埋め込まれた情報」はenactmentばかりでなく事例そのものも「状況」づける。また、それは生徒個人の背景、クラスの雰囲気のコンテクスト、実践のサイズなどを明示する。
第三に、教授場面の複雑性、多義性を伝える方法として、「事例」を用いるものことが最善であるということである。よってPSEは事例を中心に組織化されており、それらの事例は教師が如何にPBSの特徴に関する「挑戦」を解決しようとしているかを明示している。
第四に、教師は自分自身或いは他の教師が「物語る」ことに非常に影響を受けるということがわかっている。故に、PSEでは教師達が、実践の意図や制約や論理的根拠をコメントすることを支援している。加えて、よく相談に乗った事例については、より詳しい事例報告を書くことを支援している。
第五に、教師は、より現実的な描写から学ぶという事実がある。よって、PSEの事例は全て現実の教育実践を描いており、またvideo clipは本当の教室のものである。
第六に、教師は、自らの教育実践を変化させ、異なったアプローチに適応していこうとするときに、自分がリスクを負い続けることを何らかの方法でサポートして欲しいと思うものである。よって他の教師がどんなに奮闘しているか、どのようにディレンマを解決したのかをヴィデオやコメントで眼にすることは、実践を変えるという難し い仕事に直面している教師を支援すると考えられる。
第七に、ヴィデオを見たり、事例について熟考するとき、教師は常に考えを巡らせていなければならない。よって、video clipに関連するコメントや「誘導」は、そのvideo clipに特徴的で関連のある問題に教師の焦点が 合うようにつくられている。
第八に、教師の変化は「経験」や、「プランニング」、「行為と省察」に由来する。
よってPIViTは教師のプランニングと省察を支援することを目的としている。プランニング中、教師は教授内容、生徒に関する知識、教室のコンテクスト、それら全てを統合する。PBSによるプランニング過程とは、いわゆる「teacher's content knowledge」、「pedagogical knowledge」、「pedagogical content knowledge」が統合される場と考えることができる。
第九に、教師間のcollaborationは、目指す実践基準の理解、そしてそれをどのように達成しうるかということを考察することの助けとなる。よって、師にはディスカッションのためのインタラクティヴなフォーラムが必要であるが、時間的制約から、それをtelecommunicationで達成することが求められている。telecommunicationは他の教師とのコミニュケーションを成立させ、アイデアやプランを共有し、相互に フィードバックすることを実現させる「道具立て」である。
■influence of CEER on PSE design
教師の専門性の発達のプロセスであり、実践の進行のプロセスである、CEERはPSEのデザインに大きな影響を与えているが、CEERのひとつひとつのプロセスが、すべてPSEの各モジュールに反映しているわけではない。むしろ、全てのモジュールが様々なCEERの活動を支援している。
■technology issues influencing PSE design
それではPSEはどのようにコンピュータ・メディアを利用して、教師の学びを支援したのか?PSEのデザインに影響を与えた技術的な諸問題について、以下何項目かにわたる考察を行う。
・properties of computational media
1.media integration-the convergence of media
0と1のバイナリーデータを介して、テクスト・ビジュアル・オーディオ・グラフィックなどのすべてのメディアが統合される。
2.interactivity
interactivityの実現を可能にする3つの条件。
・コンピュータのドキュメントは、ユーザの反応によりリアルタイムで変化しうる。
・ドキュメントの中を自由に移動できる(hypertext)
・ある特定の言葉や言い回しの出現で、ドキュメントをサーチできる(検索)。
3.文書の書き手と読者のsymmetry
活字メディアでは読者が本に注釈をつけるなどと言う行為は、せいぜい、その個人のために行われることであったが、しかし、コンピュータ・メディアでは、読者が文書を自由にカット&ペースト、コピー&ペーストできる。このことは、文書というものの定義をより曖昧にしてしまう。つまり、コンピュータのドキュメントにおいては、最初から文書の形が決まってはいないのであって、コンピュータ上のある文書は、文章のfragmentを網の目状に結びつけたものである(web)。
・CaPPs as computational media
事例は教育実践の複雑性に対する教師の苦闘を編み直した、教師の発達にとって示唆の多い記述であるが、さらにそれによって、読者は教育実践の複雑性・微妙性をappreciateできる。しかし、確かに事例は「よい実践」の単なるリスト以上のものではあるが、それを表現する従来のメディア-「書き言葉」には限界がある。それならば、如何に読者に対してPBSのあり様、又は、PBSに合致する実践の実態を伝えたらいいのだろうか?という問いが当然生まれてくる。教育実践は「教師」と「生徒」のインタラクションに基づいているのだから、そのインタラクションを事例として表現しなければならない。事例を表現する入れ物(media)としてはvideoがあるが、videotapeを使ったvideoにはやっぱり限界がある。例えば、第一に、video tapeは線形的な構造をしているから、何度もreviewできない、否、できたとしても時間を食ってしまってboringである。video diskならできるけれど、それはあまり普及していない。第二に、videoを公表することもさらにconvenientじゃない。ビデオカメラは手には入っても、教育実践の示唆に富んだテープを作るには非常に多くの努力がいる。第三に、テクストと画像を編集するのは容易なことではない。タイトラーなどは容易に手にはいるにしても、その操作には専門的な技術が必要である。第四に、ビデオに撮影された事例は、それぞれ独立したものであり、クロス・リファレンスすることが容易ではない。さらに、第五には、これはビデオ、活字の事例両方に言えることだが、それらは常に「一方向的」であって、interactivityが保証されていない。それらは実践家によって編まれ、読者に消費されるだけである。
それならば、事例を表現する道具立てとしては、何が必要なのか?
この問いに解を提供するのが、コンピュータ・メディアに他ならない。それには、コンピュータメディアの3つのpropertyが有益である。第一に、コンピュータメディアはmedia integrationの特性を持っているのだから、テクスト・ヴィデオ・オーデ ィオは全て一つに統合される。そして、それならば、一つの考えが多様な方法で表現でき、その中で最も相応しいメディアを使って表現できることになる。また、第二に、コンピュータ・メディアのinteractivityは、学習者の必要に応じた、関連性の高い情報選択を保証するが、このことで、容易にクロス・リファレンスができるようになる。第三に、コンピュータメディアであれば、教師が自分の実践をcase-libraryにアップロードし、以前に行った実践と合体させることが出来る。
コンピュータメディアの特性は、従来の伝統的なメディアの制約を超える。そして、コンピュータメディアによって表現された事例は、教師教育を効果的に行う手段として機能するのである
・PSNet : the next generation
PSNetはたとえば、E-mail,BBS,オンラインのデーターべース(WWW)を介したPIViTの交換など、「非同時」のコミニュケーションを保証する。しかし次世代のPSNetは、コンピュータ・ベースのアーティファクトを用いて「同期型」のコミニュケーションを保証するだろう。つまり、face to faceのon line meetingにおいて、教師は同じコンピュータ・ベースのアーティファクト(a project plan,video clip)を参照しつつ会話を進めることができることを意味している。より、具体的には、教師達は同じコンピュータ・ベースのアーティファクト(a project plan,video clip,PIViT)をリアルタ イムで同時に創造したり、修正したり、批評しあったりできるようになるのである。しかし、これは今の所、「将来の記述」にすぎない。つまり、コミニュケーションのテクノロジーは次世代のPSNetの根底にあるのだ。しかし、コミニュケーションのテクノロジーを、ヴィデオ・ベースのコミニュケーションに移行させるのは、コンピュータテクノロジーであることは、明らかなことである。
そして、次世代のPSNetはヴィデオを次のように使うだろう。以下、4点にわたって、それを列挙する。
1.教師達はPSNet・CaPPsを介して、ヴィデオクリップにアクセスできる。そして、そのヴィデオクリップを参照しながら、同時に会話を営める。さらにPSNetを介して、教師達は、自分の教室の実践を相手に送ることが出来る。そして、それをディスカッションすることができる。
2.教師が使う電話は、テレビ電話になり、そこで会話を営むことが出来る
3.教師達は、ヴィデオによる会話を貯蔵することが出来て、後で、それを使ってレスしたり、探求したり出来るようになる。
4.ゆくゆくはvideoはe-mailに添付されるようになる
それではなぜ、ヴィデオが重要なのだろうか、それは第一に、教室の営みは複雑で、かつ、社会的なものであるからである。ヴィデオによる撮影は、他のメディアに比べて、より表現力に富み、情報を媒介するsourceの度合いが少ない。つまり、他のメディアは状況の複雑性、微妙性を一旦より抽象的なsource(例えば言語)に置き換えなければならないが、ヴィデオの画像は、教師に教育実践の複雑な、だが、より具体的な表象を与えることが出来るのである。また、第二に、ヴィデオを用いた教育実践のディスカッションは、より「批判的」である。ヴィデオは、そうした対話を文脈づけ、根拠づける。第三に、CU-SeeMeなどのソフトウェアは同時のコミニュケーション、videoを使った双方向の会話をサポートする。こうしたソフトウェアは会話のノンバーバルな部分までをも再現する。一般に、互いの教育実践の変化を会話するとき、その会話は感情的になりフレームアウトしやすいが、こうしたソフトウェアを用い、ノンバーバルなコミニュケーションが再現されることによって、それが防げる。
第四に、videoを使った会話による様々な経験は、共有もできるし、貯蔵して後でreviewすることもできる。この ようなreviewを通して教師はより深いinsightを得ることが出来る。同様に会話で息詰まったとしても、 reviewすることで、問題点を再び熟考することが出来る。第五に、E-mailとvideoclipを両方使うことによって、教師は自分の暇なときに、videoclipを眺め、省察することが出来る。E-mailを使えば、video clipとして再現されている教育実践を、より直接的に、かつ明確に参照することが出来る。
・.research question
PSEは今や、大学の研究室から実際の学校に普及し多くの教師によって使用されている。そして、research questionとして3つのレヴェルの問題を提起できる。
1.technology-specific question
2.impact of the technology of teacher change
3.infrastructure issue for widespread dissemination of the PSE
そして、よりおおざっぱに考察すれば、PSEが新しい地平を築くためには、3つの領域がある
1.Videoをinteractive learning environmentに統合する際の問題点
・どうやって莫大な量のvideoを処理するのか?
・教師が自分の実践のvideoをPSEに導入し、PSNetで他人と共有するには、一体どうしたらいいのか?
様々なメディアが台頭する中で、どのような種類の情報が表現されるべきか?
2.scaffoldingする際の問題点
・テクノロジーに最も相応しいscaffoldingのタイプは何か?
・そして、そのようなscaffoldingを実行するインターフェースの開発には、どんな種類の問題があるのか?
・教師の熟練の度合いが増してくるに従って、何時scaffoldingをフェードアウトして行くべきか?
3.usabilityの問題点
・テクノロジーを学ぶための指数関数的な労力の増大を如何に避けることが出来るか?
・PSEを使いこなせるようになるためには、如何なるscaffoldingが必要になるか?
・PSEを長く使う必要とは一体何なのか?その場合、どのくらいの期間使ったらいいのだろうか?
■PSNetとPSEの問題点
PSNetとPSEの問題点に関しても、以下のごとく、数え上げることが出来る。
・教師は多様なメディアをどのようにして使うのだろうか?又部分的にPSEを使う場合(case report,video clip)、どのようにして使うのだろうか?そして大学のスタッフによるコメントと教師によるコメントをどのように利用するのだろうか?
・PSEの利用によって、PBSのコンセプトや信念に如何なる影響があるだろうか?
・PSEの利用は教育実践に如何なる影響をもたらすか?
・教師がより経験を積むうちに、PSEの使用法は如何なる変化を遂げるだろうか?
・どの種類のアーティファクト(lesson plan,project design)が創造され、共有されるだろうか?又、ア-ティファクトを共有する際、如何なるインタラクションが生起するだろうか?
・PSNetではどんな種類の会話が行われるだろうか?テクノロジーによって、ディスカッションが支援されるときと阻害されるとき、それはどのようにして起こるのか?
■PSEの大規模なdisseminationにはいくつかの問題点がある
遠隔地にいる教師をPSEを使って支援する際、どのような種類のinfrastructureが必要になるか?
・PSEを設置し、維持していくためにはどうしたらいいのか?
・.Appendix & Acknowledgement
-本報告は、「CSCL-theory and practice of an emerging paradigm」edited by Timothy Koschmannの11章「 technological support for teachers transitioning to project-based science practices」written by Elliot Soloway , Joseph S krajicik , Phyllis Blumenfeld, Ronald Marxとproject-based scienceのホームページ「http://www.umich.edu/~pbsgroup/」を参考にして行った。
本報告は、1997年2月に中京大学の三宅なほみ先生のもとで、おこなわれた「CSCL conference」のために作成され、このページは、その時のレジュメをWeb page用に、大幅に編集・加筆したものである。