「優秀なコーチ・指導者」になるために必要なものとはいったい「何」か? : 為末大さんとの書籍企画・初対談で僕が学んだこと

 僕が、今、現在かかわらせていただいている書籍企画の中に、

 「元アスリートの為末大さん × 中原との対談」

 を書籍にするという、とても楽しみな企画がございます。

 ハードル日本記録保持者であり、オリンピックにも出場した経験を持たれる為末さんの歩んでこられたキャリア、中原の研究をもとに、

「今を生きる人々が、長い仕事人生を、いかに完走すればいいのか」

 をゆるゆると話し合う、というものです。

 この企画は、別の機会で、為末大さんと中原の対談をご覧になった筑摩書房の永田士郎さんからお声がけいただき、同社の編集者・橋本陽介さん、ライティングをジャーナリスト・編集者の松井克明さんにご担当いただくことになりました。橋本さんのご尽力で、為末さんのご了解が得られ、企画が実現することになった次第です。

 同社のお二人、為末さん、為末さんの事務所の皆様には、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございます。

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 先だって「顔合わせ」+「初対談」ということで、為末さんが研究室にお越しになり、ゆるゆると2時間ほど対話させていただきました。

 為末さんとの対話は、どの話題も面白いものでしたが、もっとも興味を引かれたのは、

 選手生命を終えたあと、選手の約半数は、後輩の育成を担うべくコーチ・指導者になることを選択するが、なかにはコーチに向いている人と、向いていない人がいる。それでは、いったい、コーチ・指導者に「向いていない人」とはどんな人なのか?

 という話題でした。

 皆さんは、どんな人だったら、コーチや指導者になるのは「シンドイ」と思われますか? 週明けの朝っぱらから恐縮ですが、少し考えてみられますか?

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 為末さんから伺った答えは非常にパワフルなものでした。ICレコーダを僕は回していなかったので、一字一句同じではないものの、下記のような趣旨のご発言をなさっていました。

 コーチ・指導者に向いていないのは、「前しか見ない」選手です。
 「100メートル先のゴール」だけを見つめていて、そこにまっすぐ走っていくことしか考えない。その視野は狭く「ゴール」しかみない。

 コーチ・指導者になるためには、「ゴール」や「前」を向いているだけではだめです。そこから視点を上げて、「走っている自分が想像できる」ようにならなくてはなりません。「走っている自分を見る目を持つこと」が重要なのです。

そういう「俯瞰的な視点」があってはじめて指導ができます。「走っていること」を見つめられる目をもっていなければ指導者はできません。

 非常に興味深いことです。

 為末さんは続けます。

 この問題が、やや複雑なのは、「ゴールしか見ない選手」でも、ある程度の指導はできるのです。身体がうごくうちは「自分の身体を使って、選手に見せて、指導すること」ができます。自分の身体でやってみせることで、とりあえずの「指導」は、できるのです。

 しかし、それが続くのは、「自分の思うように、自分の身体が動くまでのあいだ」です。だんだん年齢を重ねて、自分の身体が思うように動かなくなると、どうしようもなくなる。最後は「気持ちで頑張れ」というしかなくなります。

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 個人的にこの話は、大変面白いと思いました。

 一般に、選手は、選手時代、視野狭窄と言われようが何だろうが「目の前のゴールだけを見つめて」、すべての精神を集中させ、「前に前に走りぬけること」が求められるものなのかな、と思います。
 
 僕は「体育2」なので詳細は知りませんが(泣)、「目の前のゴールを見ない選手」というのは、あまりいないのかな、と(笑)。
 選手ならば「目の前のゴール」を見詰めて、猛進するものなのかな、と。

 しかし、それだけでは「優秀なコーチや指導者」になることはできません
 優秀なコーチや指導者になるためには「走っている自分」をいわば上空から見つめるような目を持たなければならない。

 優秀なコーチや指導者になるためには、「走っている自分」や「走っている選手」をより客観的な位置から観察し、選手に必要に応じてフィードバックをしていける「俯瞰的な目」を持つ必要があるということなのかな、と解釈させていただきました。

 そして、これは、決して選手だけにあてはまることではなく、まさにこの本のテーマでもある、一般の人々の仕事人生にもあてはまることなのかな、と感じました。

 人は熟達に応じて、ソロプレーヤーから、リーダー、マネジャー、管理者と「人を動かすポジション」を経験する場合が多いものです。
 そのとき、どのような目を持たなければならないのか。どのようなマインドセットの転換が必要なのかを考えさせてくれる一言であったと感じています。

 為末大さんに心より感謝いたします。

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 為末大さんとの対談ははじまったばかりです。
 残り3回ー4回の対談を重ね、ちくま新書から、多くの人々に読んで頂ける本を出させて頂きたいと感じています。

 お楽しみに!
 そして人生はつづく

(数えてみたら、今、関わらせて頂いている書籍企画は10冊になっていました。ひとつひとつ大切にしながら歩んでいきたいと思います。頑張ります!)

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