組織開発は「企画8割、実行2割」!?

 先だっての大学院ゼミで、D3の吉村さんが、

「組織開発としてAI(アプリシエイシブ・インクアイアリー)を、ある集団で実行したときの効果」

 に関する論文を英語文献発表してくれました(Calabrese et al(2010) 、International Journal of Educational Management, 2010 24(3))。今年度の大学院中原ゼミでは、自分の関心のある研究領域の実証研究を相互に紹介し合うという内容をやっています。お疲れ様です、感謝です。

 先だってみなで読んだ論文は、組織開発の事例研究という部類に入る論文になるのでしょうか。
 あるエリアのステークホルダー(利害関係者)を集めて、数週間にわたって組織開発の外的な働きかけを行ったところ、さまざまな効果があらわれた様子を定性的に明らかにしている論文です。

 組織開発は、「構成員メンバーがもつ意味の変容」や「組織メンバーのもつ関係性の変化」を扱いますので、そもそも実証研究や定量研究にするのは難しいと思われるのですが、本論文は、これを定性的に記述しておりました。
 個人的には、組織開発を「定性的なまとめる場合」、どのようにまとめるのかな、と思って、論文を拝見しておりました。

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 ところで、この論文を読んでいて、個人的に思ったのは、

 組織開発の論証において、その営為を他者に対して「説明」するときに、「どこ」から「どこ」までを、その範疇に含めれば良いのか?

 ということです。

 先だっての論文は事例研究でもありましたので、様々な情報が網羅されておりましたが、やはり論文の記述、中心的なテーマは、いわゆる「4Dサイクル」と「4Dサイクルをやったあとの効果」に置かれていました。

 4Dサイクルとは、よく知られているように、アプリシエイシブ・インクアイアリー型の組織開発ワークショップで、よく実行される手順です。

1.Discover
 個々人の「過去」や「現状」における「成功体験」や「強み」などにスポットライトをあて、その共有点をさがし、組織の「成功体験」や「強み」をあぶりだす。

2.Dream
 あらわれでてきた個人・組織の「成功体験」や「強み」をベースにして、組織のビジョンを描く

3.Design
 2でつくりあげた組織のビジョンを、具体的な組織図や実行に落とし込む

4.Destiny
 2でつくりあげた組織のビジョン、3でつくりあげた具体的なアクションプランに従い、組織改革を実行していく

 論文では、こうした「4Dサイクル」の実行にともない何がおきて、それがどのような効果をもたらすかを論証しておりました。もちろん、そうした記述は貴重なことなのですが、個人的には、そこに不足感を感じました。

 といいますのは、

 組織開発は「4Dサイクル」に入る「前」ー組織開発の前になされる企画や握りがとても重要だと思うからです。

 ここで「前」と申しますのは、当該組織に組織開発を試みていこうとする場合、その組織の組織長や経営陣、あるいはキーパーソンと、いかに事前に「目的」や「思い」や「アジェンダ」を事前に「握るか」ということです。

 このプロセスは、専門用語では「エントリー」ないしは「コントラクト」と言われています。組織開発に関して、僕は、南山大学の中村和彦先生、および、中村先生が招聘なさったNTLの先生方に多くを学びました(心より感謝です)。
 個人的な経験を開陳させていただきますと、僕個人は、

 このエントリーやコントラクトで組織開発の効果の、決して少なくない部分を決めてしまうのではないか

 と考えています。

 よく「企画8割、実行2割」といいますね。
 何か物事を実行していくときに、「事前に企画を練っていく部分」と「計画された企画を実行していく部分」がある。
「企画8割、実行2割」とは、そうした場合、「事前に企画を練っていく部分」の方が「計画された企画を実行していく部分」よりも影響力をもっていることを表現した言葉です。

 そしてこのことは、組織開発においても言えることなのかなと思います。
 ワンセンテンスで申し上げるのであれば、

 組織開発は「企画8割、実行2割」

 要するに、組織開発を為す「事前」に、組織のなかで政治力や影響力をもっている個人と、いかに出会い、いかに「契約」を行うか
 いかに「同じ船」にのって組織開発の実際のワークショップ等の「企画」を練っていくか。
 その上で、組織開発の「企画」に深くコミットしてもらい、オーナーシップをもってもらえるかどうかが、決定的に大切である気がします。

 しかし、多くの実証研究には、この部分は、あまり記述されることがありません。

 おそらく、それを記述しようとすれば、それはものすごく「政治的なプロセス」になりますし、おおよそ論文が特徴とするであろう「客観性とは対極の世界」ードロドロ血的世界が現れているような気がします。だから、論文には、なかなかなりえない。しかし、キモはそこにある、というのが僕の数少ない経験から言えることです。

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 今日は組織開発の論文について個人的な感想を書かせて頂きました。組織開発は、論文であれば事例研究なのでしょうが、最近の論文には「文字数」も決まっております。やはり「書籍」などで起こった出来事をコッテリと書いていく方が、向いているのかなぁと思いました。

 ま、実際、書き始めると別の問題が起こりえますね。
 もうひとつの難問は、

 組織開発のコンサルタントやファシリテータを自ら行いながら、そこで起こっていることを客観的に記述していくっていうのは、ものすごく難しい

 ということですが(笑)。

 そして人生はつづく

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追伸.
 先週土曜日にNHK BS1「経済フロントライン」にゲストとして出演させて頂きました。番組の途中に新人研修の特集があった関係で僕にお声がけいただいたものと思われます(心より感謝です)。

 当日は、新人研修部分だけではなく、番組全般へのコメントもを行わせて頂きました。番組の様々なコーナーに対してもコメントするというのは、僕にとってはタフチャレンジでしたが、結論から申し上げますと、とてもタフで愉しい時間を過ごさせて頂きました。

 このたびお声がけ頂いたNHKの浜由布子さん、特集担当ディレクターの高林さん、そしてキャスターの野口修司さん、竹内優美さんに心より感謝いたします。ありがとうございました。

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