育成コンテンツ化する「採用」!?:社員全員参加の採用活動!?

 先だって、ある企業の採用担当者の方が、研究室を訪れました。

 その会社では、去年あたりから、

1.社員全員が採用活動に参加し
2.社員と学生が膝詰めで、将来や仕事に関する青臭い対話をすることで
3.学生・社員双方の経験の棚卸しをして、仕事の価値観を確認する

 ワークショップをなさっています。このプロセスの中で、本当に自分の会社で働いてみたいと思える学生を採用したいのだそうです。
 ご相談は、このワークショップをいかに洗練されたものにし、さらに深い対話を促すか、ということでした。

 担当者の方が、とてもパッションのある方でしたので、これまで僕がかかわったワークショップの事例などを話ながら、あーでもない、こーでもないと議論をしました。

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 このブログは主に採用のことを扱っているわけではないですが、ここ数年、一部の採用の現場で、「採用場面に育成が導入されていること=育成コンテンツ化する採用」という事態が生じていることは、これまでにも何度か述べてきました。

 まず前提になっているのは、

「従来のマスメディア・1クリックエントリー採用が一部見直されていること」ないしは、それを「補完する機会」をもうけることに関心が集まっていること

 です。

 その上で、

1.数はたとえ少なくとも、採用者ひとりひとりとの濃密なインタラクションを提供するようにいること

2.そのインタラクション場面では、"育成"とも解釈できるような機会を提供することがあること

3.場合によっては、仕事そのものを提供する場合もあること(Work sampleといいます)

4.そうした育成機会には、人事部だけではなく、事業部の社員も参加して提供されていること

5.そうした濃密なインタラクションのなかで顕在化してくるもの・情報をもとに、選抜を行おうとすること

 が、近年の特徴としてあげられるのかなと思います。

 ワンセンテンスで申し上げますと、

「採用のなかに育成コンテンツが入り込み、ごくごく短期間の育成プロセスにおいて"顕在化された学生の価値観"、"学生の伸びしろ"、"学生が組織に馴染む可能性を評価すること」

 が実施され初めているのかなと思います。

 どの程度の一般性のあることかはわかりませんが、インターンシップも含めると、これに近いことをしている企業も増えてきているのではないでしょうか。

 社員を採用場面に参加させることは、組織内の反発を招くこともありますが、よく理解を得られた場合には、社員の経験の棚卸しをめざしたり、組織の中に一体感(採用という祝祭場面による集団一体感の醸成)をつくりだしたりすることにも寄与します。

 ここで重要になってくることは、こうした選抜手法をとるばあいには、あらかじめ、相当に対象者を選ばなければならないということです。

 濃密なインタラクションは、経営の観点から考えれば、コストフルです。よって、こうしたものを大人数のプール全てに適応することは、経営上、難しいという判断をせざるをえません。

 その結果、意図せざる結果として生じうるのが、対象者の事前選別であると推察します。そのことが社会という観点からみた場合、社会全体にどのような功利をもたらすのか、慎重に見極める必要があるのかなと思います。

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 今日は、「育成コンテンツ化する採用」に関して書きました。ここで書かれていることがどの程度の一般性のあることかはわかりませんが、ここにはこれまで人材開発が培ってきた様々な手法や思想が活きるのかなとも思います。
 このあたりは、中原研究室D1の高崎さんが、研究を進めていらっしゃるところです。指導教員としては、高崎さんの研究のさらなる進展を願っています。

 一方、こうした採用手法の変化が、社会全体にもたらす変化、学生の学習行動等にもたらす変化は、注意深く見ていかなければならないな、と思っています。

 そして人生はつづく