組織開発ができる人に必要な4つのスキルとは何か?:組織開発ができる人をいかに育成できるのか?

 今期の大学院・中原ゼミでは、「対話型組織開発」の英語文献を大学院生・共同研究者の方々と読んでいます。

 組織開発については、このブログでも何度か書いておりますが、専門家に「便所スリッパ」で後頭部をひっぱたかれることを覚悟してスリーセンテンス?で申し上げますと、

1.人を集めてもテンデバラバラで、成果がだせない場合に、
2.あの手この手をつかって、
3.組織やチームを何とか「Work」させようとする働きかけ

 のことをいいます。

 さらにさらにキューキューと言葉をしぼり、組織開発をワンセンテンスで申し上げますと、

 組織開発とは「テンデバラバラの状態」から「組織として体をなしている状態」への「外的介入」による「移行」のこと

 をいいます。

 そして、組織開発には、さまざまな「手法=打ち手=やり方」がございます。「組織やチームを何とか「Work」させようとする働きかけ」といっても、「打ち手」や「やり方」はさまざまでしょう。この本のメインテーマである「対話型組織開発」は、そのうちのひとつです。

 対話型組織開発とは

「テンデバラバラの組織の当事者たちに、まず同じテーブルに集まって、組織のことをテーマにした対話を繰り返し行っていくことで、今までの組織のあり方をリフレクションしつつ、未来を議論し、決めてもらうこと」

 をいいます。

 一方、これはおまけですが、もうひとつの大きな流派?である「診断型組織開発」とは、

「質問紙調査やヒアリングなどの手法によって、外部の専門家が、現場を見える化して、そこで出てきた現実を、現場の人々に解釈・吟味してもらい、同じテーブルに全員つかせて、これからの組織のあり方を議論し、決めてもらうこと」

 のことをいいます。

 でも、僕自身は、この2つは哲学的な前提こそは違いこそすれ、実際に現象レベルではあまり変わらないなとも思っています。

 要するに、究極に、野蛮に、かつ、アンチアカデミックに申し上げますと、組織開発を現象レベルでとらえると、下記の3つのプロセスから成立します。

1.「組織の現実」を「見える化」すること
2.同じテーブルにメンバーに座らせ、せーので「組織の現実」を「提示すること」
3.「で、どうすんの?」と問いかけ、「組織のこれから」をメンバーに話し合わせること

 です。

 入試テストみたいに、もっと要約しろと言われるのならば(遠い過去なので忘れましたが、笑)

 組織開発とは

 組織の「見える化」と「立て直しの対話」

 ザッツオールです。

(厳密にいうと「組織の現実」ではなく「組織の現実と認識しうるもの」を提示するのですね。ここではややこしいので「組織の現実」と簡便的な記述にとどめます。この「組織の現実」をいかに定義し、どのような「手段」で把握できると考えるのかによって、組織開発の諸派が位置する哲学的前提が異なります。この部分だけで授業だったら、3コマ使います、笑。またいつか時間があったら話をいたします)

 これで、今日のお話しの予備知識は、だいたいOKですね。

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 大学院ゼミでは、中澤明子先生が、「対話型組織開発のコンサルタントにはどのようなスキルセットが必要か?」というStorch(2015)さんの論文を報告してくれました(ありがとうございます!)。

 Storch(2015)では、Pearce and pearch(2000)を参照しつつ、対話型組織開発のコンサルタントには、下記の4つのスキルが必要であると述べてありました(説明の部分は中原が捕捉します)。

1.戦略的なプロセスデザインのスキル
 テンデバラバラの参加者達に対話を行ってもらいながら、次第に、目的・成果・戦略にゆるやかに、その対話を組織しつつ、「全員が腹オチするような首尾一貫したストーリー」をつむいでいくスキルです。
 ただ対話をしてもらうだけじゃ困るのです。その対話はつねに戦略・目的を意識したものでなくてはなりません。しかし、戦略や目的志向性がある対話といっても、テンデバラバラじゃ困ります。全員がある程度納得する首尾一貫したストーリーがそこには必要になります。こうしたことを可能にするのが第一のスキルです。

2.イベントデザインのスキル
 対話型組織開発では、ワールドカフェやら、ほにゃららやら、定型的な対話手法も用いますが、それだけではありません。場合によっては、様々な手法を駆使し、皆の行動を制御し、コトをおこしていく必要があります。そのためにコンサルタントは、さまざまな対話の型やレパートリーを保持している必要があります。

「引き出し」がないコンサルタントは、自分がもっている数少ない「打ち手」を、さして「場にフィットしない手法」であるのにもかかわらず、むやみやたらに「適用」してしまうことになります。
 またコンサルタントの中には「ある特定の打ち手しか興味のない人」=ほにゃらら手法の信者みたいな感じでしょうか」もいて、そうした方の場合には、同じく、「その手法がさして場にフィットしない」のにもかかわらず、引き出しがないので「特定の打ち手」を適用します。そして、これでは困るのです。
 イベントデザインのスキルとは、場に適応的に、応答的に「コト=イベント」をつくりだしていくスキルです。そのためには、コンサルタント自らがさまざまな手法を常に学び続けなければなりません。

3.対話的なファシリテーションのスキル
 人々の発話や対話をうながすスキルです。組織開発とは、本当にガチにはじめると、人間の生々しく、どろどろした思いや不満が噴出します。「みんな仲良くおててつないでちーぱっぱ」ではすまないのが「組織開発」です。「綺麗な組織開発」というのはあまり想定できません。

 対話的なファシリテーションとは、そうした場をサバイブし、人々の発話や対話をうながす技術です。ここには、様々な発問技術がふくまれます。

 たとえば、「参加者の発言や問いをつないでいく介入:循環的質問」「参加者の超ネガティブな反応を、ポジティブに転換していくための問い:フレーミング技術」「意図的に会話に参加できるものとできぬものをつくりだし、客観的なフィードバックを提供すること:リフレクティングチーム」などがあります。

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 かくして、こうした3つのスキルを駆使して、コンサルタントは、とにかく「応答的」に場をつくっていくことが求められます。「応答的」とは参加者の振るまいや行動を「観察」し、次の行動や介入を「即興的」につくりだしていくことと解釈できるでしょう。

 そして、そのためには、4つめの「インワードスキル」とよばれるものも、組織開発コンサルタントに必要になります。

 4つめの「インワードスキル」とは、

1.自分の周囲に起こっていることを「観察」すること
2.1で得られた情報から、自分を律し、立て直すこと
3.場のもつ曖昧さや不確実性に耐え得ること

 をさします。わかりやすくいえば「メタ認知(自分の認知をメタな立場からモニタリングして、コントロールしていくこと)」に近いのかなと思います。

 自らをリフレクションしていくことは、コンサルタントのみならず、現代社会を生きるすべての人々に必須のスキルだとは思います。

 またでてきたでしょ、、、
 みんな言うでしょ?
 本当に大事なんですよ。

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 今日は大学院ゼミの英語文献購読の話をさせていただきました。僕は文献購読のご報告を受けながら、ここ数ヶ月に自分の周囲であった出来事を思い出していました。

 ここ数ヶ月のあいだに、僕は、複数の会社の経営・人事の担当の方から、下記のようなご相談を受けました。

「自社で、戦略的に組織開発ができる人材を養成し、各部門で展開したいと思っている。何かよい知惠はないだろうか? 自社にフィットした柔軟なODができる人をいかに育成することができるだろうか? 理論にピュアなODができる人というよりは、自社にフィットしたODを現場の人と一緒に考えて実践できる人は、どう育成したらいいんだろうか?」

 最初は、そんなこともあるんだなと思っていたのですが、複数の方から、そうした話を同時に伺うというのは、おそらく何かのシンクロニシティが、この時代に起こっているのかなとも思います。

 人事が「戦略・経営のパートナー」になろうとするとき、HRDにくわえ、OD的な観点から、さまざまな変革を現場にもたらす諸力を提供する原動力になるというのは、よく言われていることです。
 といいましょうか、僕の本心を申しますと、HRDとODを分ける思考すら、もっというと、CD(Career Development : CDといいます)とHRDとODをわける思考すら、僕には実際にピンときません。
 それらは、本来、「学ぶこと」を補助線にしながら、密接につながっているものだと思います。これに関しては、また別の機会に述べさせて頂きます。

 さて、ひるがえって、先の問いです。

 ODを実施していく人をいかに育成していくか?

 おそらく、間違いのないことは

「ODができる人は、座学だけでは育たない」

 ということです。

「ODができる人は、ODを経験し、次に自らODを為していくこと」からしか育成できないような気もします。もちろん、そのうえで必要ならば、座学もいるでしょう。

 しかし、この場合、「ただ漫然とODやりました」では、なかなかODを可能にしていくことはできません。何らかのスキルセットを同定し、それを基準として、自らを振り返っていく必要があるように思います。

 今日の英語文献は、そうした場合に参考になる話だなとも思いました。素晴らしい文献購読をありがとうございました。

 そして人生はつづく

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