論文に「箸休めワード」があったらご用心!?

 今年から、中原研究室では、「サマーゼミ」というものを実施しています。例年ですと、大学院授業が「夏休み」である現在は、ゼミ活動もやはりお休みなのですが、よく考えてみれば、「なぜ、授業にあわせて、研究の中心であるゼミ活動を休まなければならないのか、今ひとつピンとこない」(笑)。研究室の学生さんが「仕事をもっている社会人」であることが多い我が研究室では、なかなか皆さんの都合があわず「夏合宿」も原則廃止しておりますので、ここで何もしなければ、まるまる2ヶ月、論文指導がストップしてしまいます。

 加えて、中原研究室では、現在、研究室の研究として取り組んでいる企画があり、そこに大学院生の皆さんが参加してくださっています。そんなわけで、月に1度は、ゼミを開催し、相互のレビューをすることになりました。
 正直に申しますと、夏休みというのは大学の場合2ヶ月もありまして、その間に、研究のペースを崩す学生さんも少なくないのです。
 そんなわけで、月に1度のゼミをマイルストーンにしていただきたいなという思いもあります。もちろん、参加は任意。しかし、多くの大学院生が参加して下さったことは、まことに嬉しいことです。本当にお疲れ様です。

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 ところで、大学院生の皆さんの論文指導をしていて、気になったことが1つありました。これは全員にかかわることなので、ゼミ中にも指摘しました。
 それは、何かと申しますと、

 論文の中に、いわゆる「箸休めワード」が散見すること

 のです。

「箸休めワード」と申しますのは、ワンセンテンスで申し上げますと「前後のつながっていないロジックを強引につなげる接続センテンス」です。
 具体的には「話をもとに戻すと・・・」「このトピックの途中ではあるが、いったん・・・の話題にふれておくと・・・」「ところで・・・の話題ではあるが・・・」とか、そういうセンテンスになるのでしょうか。たぶんもっとも強引なワードは「閑話休題」でしょう。「閑話休題」をおくことで、「これまでの論理」をぶっちぎり、別のロジックをそれ以降で展開することができます。自戒をこめて申し上げますが、私たちを「箸休めワード」を「あまりつながりのよろしくない前後の文脈」に挟み込むことによって、何とかロジックをつなげようとするものです。

 やや戯画的に描き出しますと、こんな風になります。

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 Aは・・かくかくしかじか、にょろにょろ、ほにゃらら・・Bである
 Bは・・かくかくしかじか、にょろにょろ、ほにゃらら・・Cである

 ところで話を元に戻すと

 ところで、AにはDも関連していることは言うまでもない

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 わかるかなぁ(笑)。
 ここでは、前段では三段論法を用いて、A=Cであるという論理展開を行っているのですが、筆者は「そういえば」AにはDも関連していることを思い出しました。しかし、文章は進んでしまっているので、Aの話に戻るのはなかなか難しいものがあります。そこで用いられるのが「箸休めワード」です。無理矢理「ところで話を元に戻すと」というワードを挟み込むことによって、Aに戻ります。

 こうした論理展開は、多くの学術論文では、分野にもよるでしょうが、まず用いられることはありません。レトリックを駆使する分野もあるのでしょうが、少なくとも僕の研究分野では皆無といってよいと思います。
 なぜなら、一般に

 論文とは「1ミリのロジック破綻」も許されない精巧な「論理のブロック」のようなもの

 だからです。

 一概にはいえませんが、論文とは、

 「あー、こんなに、論理が流れちゃってかしら。気づいたら、仮説提示から結論まで、いつのまにか、ボートがたどり着いちゃっておりましてよ、ウフ」

 という感じの文章なのです。
 論理に論理を積み重ね、問題関心から結論までを「一筋の線」でつないでいきます。「気づいてみれば、いつのまにか、結論にたどり着くがごとく」論理をスムーズにつないでいかなくてはなりません。

 だから、論文を書いていて「箸休めワード」があったら、その前後を読んでみてください。100%ではないですが、そこに論理展開の危うさが隠されていることがままあるものです。また、論文を書いていて箸休めワードを用いたくなったら、逆にご用心です。そこには筆者は薄々感じているような「論理の破綻」「論理のつながりの薄さ」が見え隠れすることが多いものです。しょうもない知識ですが、これが僕がご紹介できる実践知のひとつです。

 閑話休題!(笑・・・これも箸休めワード)

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 今日は「箸休めワード」のお話をしました。このことについては、かつて「論文とビジネス書の違い」という記事で紹介したことにゆるく関連している内容です。以下に書きましたように、論文とは「One Paper, One Conclusion」。論文は「、「フォーカスを徐々にしぼりながら、最後の結論の1点に至ること」が求められます。一方、ビジネス書は「いくつかのクラスター」を寄り道しながら「ノンリニア」に進行する文章ということになりますね。まぁ、ブログも後者ですね、圧倒的に。

「論文」と「ビジネス書」は何が違うのか?
http://www.nakahara-lab.net/2013/01/post_1924.html

 というわけで(箸休めワード)、10月1日には、研究室の大学院生さんに〆切がいくつか来るようです。また、これから大学は卒業論文、修士論文、博士論文の季節になるのでしょうか。ぜひ、皆さん、頑張って頂きたいものです。
 長い長い知的探究も、終わらないということはありません。
 ぜひ、最後の最後まで「執着」して、よい作品を、仕上げていただきたいと願っております。

 そして人生はつづく