現場にしがみつき、権限委譲できないマネジャーは「なぜ」生まれるのか?

 よく言われているように「マネジメント」の本質が、

「Getting things done through others(他者を通じて何かを成し遂げる仕組みをつくること)」

 にあるのだとしたら、「マネジメントを完遂する」ということは、「明日、自分が消去したとしても、職場の物事が動くようにすること」とも言い換えることができます。

 別の言葉を使って申し上げますと、

 マネジャーである「あなた」が、明日、事故や病気で突然いなくなったとしても、しばらくの間は、業務が動き続ける体制をつくること

 です。

 逆にいうと、

 マネジャーがいなくなるとすぐに「にっちもさっちもいかなくなる職場」は「要注意」

 ということになります。
 言葉をかえますと、マネジャーは「自己消去に耐える仕組みをつくる人」のことをいいます。

   ▼

 しかし、このことは、マネジャーにとってみれば、少し「寂しさを感じざるをえないこと」でもあり「危うい行為」でもあります。
 なぜなら、「マネジャーとして仕事をなす」ということは、「自分を消去しても動く仕組み」をつくることであり、「自分をヴァルネラブルな地位」におく行為でもあるからです。

 マネジャーが「現場」に過剰にいすぎることがあっては、「自分が消去」されると売り上げに影響が及びますので、まずは「現場」をある程度「喪失」します。
 いだって「現場」は面白いものです。現場でうごく人々を横目でみながら、マネジャーは現場を離れます。
 でも、自分がいなくなっても物事が動くというのは、どこか寂しい。感情とはそういうものです。

 しかし、これだけでは「自己消去」に耐えることはできません。
 「自分がいなくなったとしても動く組織」をつくるということは言葉をかえれば、「権限を委譲」して、「バックアップ人材をはやめに用意する」、ということです。

 万が一のときに動ける「バックアップ人材」は、「万が一」でなくても、力をだすことができます。ということは、マネジャーは、下手をすれば、自分の「寝首」をかかれかねない人材を、自らつくりだすことになってしまいます。
 これに潜在的な恐怖や不安、そして寂寥の感を感じる人は少なくないものです。

 現場にしがみつくマネジャー
 権限委譲しないマネジャー
 権力集中させるマネジャー

 が生まれるのは、マネジャー本人の資質もあるでしょうけれども、マネジャー本人の「感情」や、それをめぐる「社会構造的な問題」に起因するものと思われます。
 だから、マネジャーにまず必要なのは「自分の能力に対する信頼」と「変わり続けることに対する自信」です。
 たしかに自分がいなくなっても、たとえバックアップ人材がいたとしても、自分はそれ以上の能力をもち、発揮することができる。
 たしかにこの現場の整っても、自分には別のものが養成される。自分はこれからも「変わり続けること」ができる。

 こういう「自己信頼」と「変化への自信」がなければ、

 現場にしがみつくマネジャー
 権限委譲しないマネジャー
 権力集中させるマネジャー

 が生まれます。

  ▼

 今日はマネジメントについて別の角度から考えてみました。
 かくして考えてみると、

 Getting things done through others

 というマネジメントの定義は、ものすごく深い含蓄をもっています。

 あなたの職場は、あなたがいなくなったら、何日持ちますか?

 そして人生はつづく

 ーーー

追伸.
 拙著「駆け出しマネジャーの成長論」は、いくつかの企業の新任マネジャー研修で、テキストとして用いられています。ありがとうございます。新任マネジャーが陥りやすい罠と7つの挑戦課題をかいた本です。エクササイズも用意されていますので、ワークショップを受けるように読むことができると思います。どうぞご笑覧ください。