漫画をかくとは「キャラクターを描くこと」ではなく「世界観をつくること」である!? : 「荒木飛呂彦の漫画術」(集英社新書)書評:ジョジョはこうしてつくられた?

 現役の漫画家の荒木飛呂彦さんがお書きになった「荒木飛呂彦の漫画術」という本を読みました。僕は、特に「漫画フリーク」というわけでもないのですが、新幹線の売店に入ったときに、山積みされており、興味深かったので、手に取りました。

 荒木さんといえば、「ジョジョの奇妙な冒険」をはじめとして、独特のキャラクター、世界観をもった作風でよく知られている方かと思います。そんな方の「知的生産術」ってどんなんだべか、と知的好奇心をもちました。以下は、漫画はドシロウトの人間が書いていると思い、お読みください。

  ▼

 読後の感想をワンセンテンスで申し上げますと、、、

 漫画をかくとは「世界観をつくること」なんだ

 ということです。

 敢えて極端に描き出すならば、

 漫画をかくとは絵が好きな人が「キャラクター」をかくこと

 ではない。むしろ、漫画を描くとは「緻密な設計」のもとで「世界観をつくりあげること」なんだ、という思いがしました。

 専門家の方からみれば「腰が砕けて、思わず、脱糞しそうなワンセンテンス」かもしれませんが、どうかお許しを。
 といいますのも、少年週間ジャンプを読んでいた30年前くらいの自分には、まったくその視点はありませんでした。まさか自分の読んでいたものが、そこまで考え抜かれて、世界観が創られていたとは、正直に驚いてしまいました。

 で、、でも、そうだよね、よくよく考えてみれば。数百万人に読まれ、かつ数年にもわたる長編の物語に「緻密な設計」が「ない」わけがないですよね。

  ▼

 荒木さんは本書で、ご自身が、これまでにもつちかわれた「緻密な世界観の設計術」を惜しげも無く公開されております。著者本人が、これは「企業秘密を公開すること」だとおっしゃっているのは、まさにそのとおりだと思います。

漫画には「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」という基本4大構造がある。これらをいかに構築するかがポイントである

 時間軸の進展とともに、ストーリーをいかに盛り上げ、あるいは逆に緩急をつけ、読者を明為ずに読ませていくのかがポイントである

   ・
   ・
   ・
  
 などなど。
 その様相は、キャラクターをつくるときには、絵をつくるまえに「身上調査書」をつくり、その世界観のもとにキャラを描き始める、という徹底っぷりです。
 
 個人的には興味深かったのは、「最初の1ページをいかに読ませるか?」について、けっこうなページ数が割かれていたことです。

 デビューしたい漫画家のタマゴから日々原稿がおくられてくる編集者に、「おっ!この作品は面白そうだぞ」と思ってもらい、最初の1ページをめくってもらうためには、「徹底的な設計」に基づいて「最初の1ページ」めを構成することが必要になります。
「ただ漫然」と「最初の1ページ」をつくるわけにはいかない、ということなのでしょう。まことに興味深いことです。

  ▼

 本書は、漫画術についての本ですが、プチ妄想を広げると、漫画以外の領域、仕事や研究にも活かせるところはあるように感じています。そりゃ、表面上はまったく違う世界ですよ。でも、どちらも知的生産なのだから、深層ではつながっていると僕は思います。

 漫画ってこうやってつくられているんだ

 と素朴におもいつつ

 おれの領域なら、このことはどう表現できるんだろうか?

 と転移させることを念頭にしつつ読むと、また味わい深い1冊なのかなと思いました。

 そして人生は続く

追伸.
「自分の企業秘密を公開することは、自分にとっても不利益である」と著者はおっしゃっていますが、なぜ、敢えて、「著書をしたためて」までそれを行うのかを勝手に妄想するとき、そこには、漫画界全体を盛り上げたいという思い、若い世代を育てたいという世代継承性に似た熱意が感じられます。

 しかし、一方で、本当に若い世代が「のしてきて」、自分に不利益をもたらすまでに成長することも、本当に考えられますので、そういうリスクをおかしてまで「企業秘密」を公開する著者の奥底には「やれるものならやってみろ、若い者にはまだまだ負けん」という思いがあるのかな、と想像しました。

 また、最後に、これからの漫画家は、この「漫画術」どおりのことをするな。むしろ、これとは正反対のこと、これとは違ったことを試してほしい、とおっしゃっているのも、味わい深い部分です。
 「漫画術」という「ヒューリスティクスの塊」を公開し、それを読んで漫画をかけといいつつ、それを若い世代に「上書き」されることを望む。わかる気がするなぁ。そこらあたりに、著者に勝手にシンパシーを感じてしまいました。僕はまだ何も成し遂げていませんが、自分も何かを成し遂げることができたとしたら、自分の仕事術を残したい思いがふつふつとこみあげてくるような気がします(昔は1ミリも思わなかったので、年齢のせいでしょうか・・・)。
 若い世代になすべきことは、おそらく「荒木飛呂彦の漫画術」を追随してなぞることではなく、参考にしつつも、それを「上書きしていくこと」なのだと思います。願わくば「ちょめちょめの漫画術」をまとめ得るように、自分の漫画術を作り続けていくことなのではないかと思いました。勝手な妄想ですが・・・。