中小企業の人材開発は、本当に「特異」なものなのか?
昨年より、中原研では
「中小企業の仕事の現場には、どのような人材育成のメカニズムが存在し、何が機能しているのか」
を徹底的に調べる共同研究を推進しています。
この共同研究は、トーマツイノベーション株式会社さまとの共同研究で、真﨑大輔社長はじめ、新谷健司さん、渡辺健太さん、鈴木義之さん、濵野智成さん、小暮勝也さん、伊藤由紀さん、五十嵐慎治さん、長谷川弘実さん、そして中原研からは僕と保田さんが参加させて頂いております。このような機会を与えて下さり、まずは心より感謝をいたします。
まことに嬉しいことに、先だって、担当者の長谷川さんから「本調査のデータ収録が終了した」という御連絡を受けました。
「日本の中小企業300社 Nは数千クラスのデータ収録」が終わり、いよいよ、7月からの分析フェイズに入ることができるということです。
このデータ収録に関しましては、多くの方々に多大なるご支援・御協力をいただきました。
僕のブログなどで、この研究を知った多くの方々からメールなどでお問い合わせをいただき、なかには、「うちでよければ協力するよ」とおっしゃっていただけ方もいらっしゃいました。
また、トーマツイノベーションの社員の方々は、現場で中小企業の方々と相対しプロジェクトに御協力を求めて下さいました。
そして、何より、貴重な時間をこの調査に割いて頂ける回答企業の社員の方々にも、この場を借りて、心より感謝いたします。引き続きどうぞよろしく御願いいたします。
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世界的には、中小企業は「SME研究」と呼ばれています。SMEとは「Small and Medium ized Enterprise」の略で、文献にもよりますが、各国の50%から80%の民間企業が、いわば中小企業だといわれています。
しかし、これだけ多いSMEですが、そのHRDに関する実態はほとんど、といってよいほどわかっていません。
かなり昔のことになりますが、
「日本では中小企業研究は進んでいないけど、欧米では、ちょめちょめだ。中原が中小企業研究をやらんのはケシカラン」
と、昔、ある先生に「まことに温かいご指導」を受けましたが、同じ領域で研究に取り組まれている産業能率大学の橋本諭先生からわけていただいた最新のレビュー論文によりますと、たとえば、Human resource management journalとった著名雑誌でも、中小企業の研究は全体の3%程度、Human Resource Development Quarterly でも2%程度なのです。
「世間の多くは中小企業なのに、その実態はわかっていない」のは、日本だけではなく、世界的にそうなのだ、ということです。だからといって「言い訳」しているわけじゃないけど、「欧米ではちょめちょめだ」とか、適当に「ではの神」になるの、やめたほうがいいよ(笑)。
とりわけ、興味深いのは、よく
中小企業の人材開発は、大企業とは違うよ!
とよく言われていますが、こちらに関しても、中小企業の人材開発の「特異性(idiosyncrasy)」を検証するにたるデータは、いまだ十分得られていない、結論は得られていない、ということです。
これは中小企業の人材開発研究が、場当たり的に、ノンシステマティックに行われてきたことが一因になっており、大企業と比較を行いながら、その特異性を、データにねざして、明らかにしていくことが求められます。
たとえば、中小企業の人材開発に関しては、一般社員に関して、
「公式の教育」よりも「インフォーマルな学び」の方が効果が大きい
「仕事に特定したスキル」が現場で学ばれている
「現場の同僚」がスキル向上のキーである
などということが言われています。
が、それは、おおよそ「大企業」でも同じであり、「中小企業の人材開発」の特異性を支持するものではありません。
一方、マネジメントレベルの学びに関しては、
「公式の教育」が重要な役割を果たす
ということが言われており、これは大企業の言説とは少し異なる傾向のように思えます。現在の、大企業の、マネジメントレベルの言説では「公式の教育」よりも、「現場の経験」が果たす役割が大きいとされることが多い傾向がありますね。なぜなんだろうね? 面白いねぇ・・・。
いずれにしても、今回の共同研究で得られたデータでは、企業規模ごとに母集団をくぎり、その比較が行えるようにリサーチのデザインを行いました。このあたりについても、研究を本格化していくなかで論じていきたいなと感じています。
暑い夏になりそうです。
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最近、本当に本当に本当に時間がなくて、少しめげていました。
働くことと子育てを両立することは、まことに激しいものです。毎朝起きたと思ったら、知らない間に夜寝ていて、また朝起きることの繰り返しで、気がついたら、一週間が過ぎています。いや、もしかしたら「両立」なんかありえないのかも、とも思います。日々を「やり過ごしている」だけで精一杯。
しかし、新たに、こうしたデータに向き合えることを思うと、やる気がわいてきました。おそらく秋頃には、第一報、速報をお知らせできるものと思われます。共同研究者の皆さんと頑張っていきたいと感じています。
そして人生は続く